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捕まえた男達の連行完了

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 とりあえずといった感じで、雑にヴェンツェルさんにまとめられて一気に脱力してしまった。
 ちゃんと説明しようとしていた俺って……今度からは、適当に結界のおかげとかエルサや魔法が凄い! というだけで済まそうと思う、うん。
 とくに、肉体派のヴェンツェルさん相手に、真面目に説明しようとしたのが悪いんだと思う……ハーロルトさんとかなら、もう少し理解してくれるかなぁ? いや、俺自身がちゃんと説明できるわけじゃないから、止めておく方が無難だね。
 王城に戻ったら、姉さん相手にちょっと愚痴らせてもらうだけにしておこう、ヴェンツェルさんは姉さんの部下なんだから。

 がっくりしてしまった俺に、モニカさんが心配して声をかけてくれるけど、力なく苦笑して答えるくらいしかできなかったよ……。
 よくわからず首を傾げているモニカさんだけど大丈夫、少ししたら気持ちを切り替えて元気になるから――。


「リク様、お帰りなさいませ」
「リク、お帰り。逃げた兵士は?」
「あれは、ヴェンツェルさん達が連行しているよ」

 エルサから降り、施設から移動してきた兵士さん達が集まっている野営地に戻ると、指示を出したり確認したりと、忙しそうにしているマルクスさんやソフィーに迎えられた。
 フィリーナがいない……と思ったけど、離れた場所で食事の準備を始めているようだ、ありがたい。
 ちなみにヴェンツェルさんは、離れた場所でエルサから降りた後、何事もなかったかのように馬に乗った兵士さん達に混じって自分も馬に跨り、施設の方へ男達を連行して行った。
 俺と一緒にエルサに乗っているのを見られたりすると、また他の兵士さん達がうるさいからだそうだ……まぁ、さっきのでわかったけど、皆一度はエルサに乗りたい……というよりドラゴンに乗ってみたいとか、空を飛んでみたいと考えているようだから、騒動になりそうな事は避けたい。

「あちらは馬、こちらも馬では、すぐに追いつかず逃がしてしまい、後々手配して捜索する事になっていたでしょうから、助かりました」

 馬によって速度に多少の違いはあるかもしれないけど、大きく変わらないはずだから、同条件と考えるとどうしても追いつくのは難しくなる。
 逃げた瞬間に追いかけたら、後ろから魔法を使ったり何かをして足止めをして追いつけるだろうけど、逃げてから少し時間が経っていたみたいだからね。
 同じ速度で移動すると考えても、先に逃げた方が有利なのは当然だ。
 その点、何か障害物があっても関係なく、直線で追いかけられるうえに馬より速く移動できるエルサだから、簡単に追いつく事ができた。

「いえ、ちょうど手が空いていたので構いません。あぁあと、ヴェンツェルさんからも教えられると思いますけど、一応。捕まえた男は二人で、片方は魔法を使います。逃げたのは一人と聞いていたので、二人いたのは驚きましたが……逃げた方の男は、新兵さんが使っているはずのワイバーンの鎧を着ていました。新兵さんから奪ったか、盗んだのかはわかりませんが、調べた方がいいと思います」
「はい、ありがとうございます。至急、調べさせます」
「あと、逃げた男はオーガに魔力を注いでいた……という予想を裏付けるように、ツヴァイ並みの魔力を持っていました。あれだけあれば、オーガに魔力を注ぐのも困らないでしょうし、地下に魔力が充満していた理由もわかります。ただ……」
「やはり、ツヴァイ一人だけが大量の魔力を保持していたわけではないようですね。ですが、何か気にかかる事でも?」
「ヴェンツェルさんにも話しましたけど、その男が魔法を使う素振りを一度も見せなかったんです。それだけ魔力があるなら、魔法を使ってもよさそうのに、ですね。単純に、剣を使うだけでした」

 ワイバーンの鎧があったから、剣でも俺達をどうにかできると考えたのかもしれないけど、一切魔法に頼ろうとしなかったのは気になる。
 あと、ワイバーンの鎧ってあんなに頑丈だったんだなぁ……と今更ながらに思う。
 俺が持っている剣なら斬れるだろうし、拳でへこませたうえにフレイちゃんに頼んだら、炎に強いとか関係なく倒せただろうけど、それでもモニカさんの全力の突きを受けて、傷一つ付かなかったのには素直に驚いた。
 新兵さんの生存率を上げるためと思っていたけど、想像以上にいい物が作れたみたいだね……そもそもにワイバーンの素材を入手するのが難しいから、大量には用意できないんだろうけど。

「魔法をですか……確かにそれはおかしいですね。その者が何を考えていたかまではわかりませんが、強い力を持つのなら、それに頼ろうとするもの。現にツヴァイはリク様と魔法で戦ったようですし……注意するよう、伝達しておきます」
「はい、お願いします。単純に、ワイバーンの鎧を過信していたというのも否定できませんけど、強力な魔法を使われたら、危険ですからね」
「……なぁ、リク?」
「ん、ソフィー?」

 俺からの報告を受けて、真剣に考えるマルクスさんと、とにかく注意しておくと話に決着がついたところで、近くにいて難しい顔をして何かを考えている様子だったソフィーが声を出した。

「その、違っているだろう事が前提なのだが……もしかするとその男、魔力はあっても単純に魔法が使えない……という事はないだろうか?」
「魔法が使えない?」
「ですがソフィー殿、魔力を大量に持っている……ツヴァイと同じ状態なら、誰かから分け与えられて混在させている状態なら、使えないわけがないと思いますが……」
「……私の考えなので、間違っているのはわかっているのだが……その、魔力があれば必ず魔法が使えるわけじゃない。それは私がそうだからな。魔法具を使う魔力は確かにある。だが、そういった魔法具の補助なしでは一切魔法が使えないんだ。自力で魔法を使うとなると、周囲にあるはずの自然の魔力を集める必要があるようだが、そのための素質が私にはないからな」
「あ、そういえば、魔法を使える人と使えない人の条件みたいなのがあったっけ……」
「私も多少は使えますし、兵士になっている者は大小の差はあれど多くが使えます。ツヴァイも使っていたので、魔力が多い者は使える物だと勘違いしておりましたが……確かにソフィー殿の言う通り、人間には魔法を使える者と使えない物がおります」
「ツヴァイは、そもそもエルフだから使えるのが当たり前の種族ですからね。それと同じで考えちゃいけないか……」

 そういえば、人間が魔法を使えるかどうかというのは、周囲の魔力を集める事ができるかどうかと聞いてたね。
 俺はドラゴンの魔法を使っているらしいから、そちらを意識した事はないけど……魔力があったからって必ず使えるわけじゃないんだ。
 通常、人間の魔力で魔法を使うためには、自然の魔力を集めないと足りないからという理由だったと思うけど、もしかしたら他にも理由があるのかもしれない……。

 捕まえた男の魔力は自然の魔力を集めるなんてしなくても、魔法が使えるだろう魔力量だったからね。
 ツヴァイはエルフだから、自然の魔力を集めるのは生まれつきできているはずだから、魔力量に拘わらず魔法を使うのは当然の事だけど、捕まえた男がそもそもに使えないという場合もあるのか――。


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