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フィリーナ乱入

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 あのお方という、ツヴァイが従っている人物に関しては、話すのを渋ったのでフレイちゃんに目配せをして、脅してみる。
 隣で真っ赤な髪を燃え上がらせ、ジリジリとツヴァイに近寄ろうとするフレイちゃんは嬉しそうだ。
 燃やしたいのかな? 火の精霊だから、何かを燃やすのが楽しいのかもしれないけど、ここで本当に燃やすのはなしだから、脅すだけにしておいてもらおう。

「っ! ど、どれだけ脅されても、あの方の事は話すわけにはいかない……殺されるとしてもだ……。あのお方に逆らうことは、殺されるよりも恐ろしい……」
「……リク様、どうやらあまり効果はないようです」
「そうみたいですね。フレイちゃん、もういいよ。うーん……もしかして、その情報を出されちゃいけないから、口の中に毒を?」
「……そうだ。もしもの際は毒を使って自分で……とな。まぁ、俺のはいつの間にか取られているみたいだが……」

 それは、気を失っている間にマルクスさん達が調べてくれたからだね。
 どうやって奥歯を噛みしめたら出てくる毒を取り除いたのかは……あまり聞かない方がいいかもしれない。
 わりと力技というか、意識がある時だと拷問のような事だと想像できるからね。

「あの毒は、あの方を知っている者には全て仕込まれている。断ればどうなるかはわかるだろう……強制だ。もっとも、あの方の力の片鱗を間近に見て、断る事などあり得ないのだがな」
「力の片鱗ね……もしかして、その魔力もそうなのかしら?」
「フィリーナ?」
「ごめんねリク。話の途中だけど、なんとなく気になって入って来ちゃった」
「まぁ、いいけど……」
「エルフ……だと!?」

 毒は自分で仕込んだとかではなく、強制で仕込まれた物だったのか……つまり、ツヴァイの言うあの方というのは、部下を信頼するような人じゃないという事なんだろう。
 ツヴァイから話を聞いていると、いつの間にかフィリーナが部屋に入って来て声を上げた。
 俺達が話しているのを外で聞いていて、内容が気になったんだろう。
 ツヴァイは、フィリーナの特徴的な耳……自分と同じエルフのという事がわかる耳を凝視して驚いている。

「あら、私がエルフだと何か都合が悪かったかしら?」
「……お前達の仲間には、エルフがいたのか。この国のエルフは、人間とはあまり積極的に交流していないはずだが……」
「おあいにく様、今では積極的に交流を持とうとしているわ。まぁ、一部ではまだ反対意見があるようだけど、おおむねこの国に住むエルフ達は人間に協力的よ」
「ちっ……」

 一部の反対意見というのは、以前会った長老たちの事だろう。
 人間を見下しているうえ、エルフという同種族の集団でさえ自分達の思う通りになると考えている節があったから、あの長老たちが主導していたら人間と積極的に交流する事はないだろうね。
 それに、エルフ全体が長老達のような人間を見下した見方をしていたら、人間の方だって拘ろうとしたがらないだろうし……フィリーナやアルネ、エヴァルトさん達のようなエルフがいて良かった。

「それで、話を戻すけど……貴方の言っているあのお方というのは、その魔力にも関係しているのよね? その魔力、貴方本来の魔力ではないでしょ?」
「……なぜ、それを……」
「私は、特別な目があるから、わかるのよ。他の国にいるエルフに関しては見た事がないけど、自分達の集落にいるエルフの魔力なら、いつも見ていたの。だから、貴方の魔力が異質なのはわかるわ。どう見ても、エルフのじゃない……人間……いえ、魔物? なんにせよ、よくわからない魔力が混ざり合っているように見えるわ」
「……エルフの中でも突然変異で生まれて来る、アルセイス様の加護を受けた者か……。そうであるならば、隠しても仕方ないだろう。そうだ。あの方は、我々に至上の力をお与え下さるのだ。逆らう者には、与えた魔力が口に仕込んだ毒を染み出させるようになっている。だが、俺が賜った魔力もそのひと欠片にすぎん。お前らなど、あの方の前では子供の手を捻るように簡単にやられてしまうだろう」
「……はぁ、だったらなんで、研究なんかしているのかしら? それなら貴方の言うあの方が出て来れば、戦争も何もかも勝利は間違いないでしょう。貴方の言う事を信じるならね?」
「そ、それは……あの方は、自分ではなく我々に活躍の場を与えて下さったのだ!」
「活躍の場ね……だったら、魔物の研究なんかせず、自分達が前線に出て戦えるようにしたらいいのに。何から何まで他人任せ……エルフの恥さらしね。あの方というのも、どうせ大した力もなくて貴方達みたいなのを従わせて、悦に入っているだけのようね」
「貴様……あの方を愚弄するか!!」
「チチ~?」
「くっ!」

 ツヴァイがエルフだからなのか、フィリーナの口が留まる事を知らない。
 あの方も含めて、ツヴァイの事を鼻で笑いながら小馬鹿にするような言い方で、ひたすら挑発をする。
 さすがに自分の事だけでなく、あの方という人物も馬鹿にしたからなのか、激昂するツヴァイだったがすかさずフレイちゃんの後ろに隠れたフィリーナ。
 フレイちゃんの方は、怒気が自分に向けられたと感じたのか、髪を燃え上がらせていつでも燃やすよ? と言って首を傾げる……これにはさすがに怒気を収めざるを得ないツヴァイ。

 まぁ、フレイちゃんが何かしなくても、動けないんだけどね……魔法を使おうとしたら、俺が結界で防ぐだけだし。
 というか、フィリーナ……フレイちゃんを盾に使うなんて……外から様子を見ていたか何かで、フレイちゃんを俺が呼び出した事や、ツヴァイへの脅しに使っている事はよく理解しているようだ。
 ともあれ、フィリーナのおかげで少しはあの方がどういう事をしているのかがわかった。
 要は、組織のトップかその近くにいる人物で、配下の人間やエルフに魔力を与える事で、本人が本来持っている以上の力を与えて従わせている、という事なんだろうね。

 もし逆らったら、与えた魔力が作用して仕込んだ毒が出るから逆らえないようにもしている……さっきも予想したけど、本当に部下や配下を信頼するような人物ではないのは間違いない。
 というか、他人に魔力を与えるってできるんだろうか……? 魔力というのは本来その人や魔物だけのもので、個人によって多少変われど、それを混ぜる事なんてできない……と聞いた。
 血液のようなもので、似ている相手に少しだけ貸すような事はできるけど、完全に混ぜてしまって本来持つ魔力以上の魔力量にする事なんて不可能なはずなんだけどなぁ。
 拒絶反応とかおきそうだけど……それを可能にしているのなら、まさに神業とも言えるのかもしれないから、間近で見て自分にも分け与えられたら、ツヴァイのように心酔するのも無理はないのかもしれない。

「はぁ……この程度の事で怯えるなんて、同じエルフとして本当に恥ずかしいわね」

 なんて、フレイちゃんに怯えるツヴァイを見て溜め息を吐いているけど……フィリーナもフレイちゃんに凄まれたら怯えるだろうなんて事は、考えるだけで口に出したりしない。
 今のフィリーナ、エルフが加担していた事が確実になったために、何やら怒っている様子だから、水を差したら俺にとばっちりが来るかもしれないからね――。


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