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戦闘中でも余裕を見せる二人
しおりを挟む「変わりましょうか?」
「オーガを倒すだけならまだしも、結界を使って爆発の衝撃を抑え込めるのはリク殿だけだ。私にはできんよ。だがリク殿、こんな状況でも冗談を言えるのだから、まだまだ余裕だな?」
今は、ちょうど地下室の中心近くまで来ているだろうか……後ろはモニカさん達がいてくれるからいいとしても、正面だけでなく左右には広い空間があるせいで、ヴェンツェルさんのように迷ってしまう気持ちはわかる。
そうやって会話もしながらオーガを斬り裂き、結界で覆って衝撃を外に出さないようにしていると、感心されたので、交代してみるかなと冗談を飛ばす。
ヴェンツェルさんの言う通り、今回はオーガの爆発に注意をするだけで、強力と言える程の相手がいないため、余裕をもって行動できているのは自覚がある。
ルジナウムで経験した戦闘に比べれば……というのもあるんだろうね。
研究者に見える白衣の人達は、ほとんど戦える人はいないようで逃げるか、俺達に殴り倒されるかだし、武装している人もあまり強いとは感じない。
まぁ、勢いで殴り倒していたり、突入してきた俺達に驚いているせいもあるんだろうけどね。
なんにせよ、俺やモニカさん達を除いても、こちらは訓練された兵士さんばかりなのに対し、向こうは統率も連携も取れない有象無象になっているので、オーガさえいなければヴェンツェルさん達で十分制圧できたんだろうなと思う。
「それもそうですね。とにかく、今はまず端まで真っ直ぐ進みましょう。フィリーナのいる逆側から見渡して、全体をもう一度見てからでも、考えるのは遅くないと思います」
「そうだなっ! よし、このまま進もう!」
「ちょっとそこ! 進む方向が変わっているわよ! そっちじゃなくてもう少し左に体を向けて!」
「あいよ!――ははは、注意されてしまいました」
「さすがに、戦闘しながら走り、会話もするとなると方向を見失う物だな」
話しながら、行く手を阻む人間やオーガを倒していると、いつの間にか進方向を見誤っていたらしく、後ろからフィリーナの声で叱られてしまった。
結構離れたのに声が届くのは、魔法のおかげなのだろうけど、さすがに後ろ以外の前と左右から人やオーガが次々とやってくると、対処で体の向きを変えたりする影響で真っ直ぐ進むのは難しいか。
……フィリーナに指令役を任せて良かった。
「というか、最初に様子を見た時より、人もオーガも多すぎません?」
「それは私も思っていた。まぁ、正確な数が元々わかっていたわけではないんだがな。それにしても、数が多過ぎるな……む……そういう事か……」
「どうしたんですか?」
「目を凝らして、遠くの壁を見てみろ」
「ん……あぁ、成る程……」
突き進み、拳や剣を振り回しながらも話しているのは、ヴェンツェルさんにも余裕があるからだろう。
それはともかく、ヴェンツェルさんに言われて物や人の隙間から、遠くにある壁をよく見てみると、ずらりと並んだ試験管……出入口の隙間から見た時には見えなかったが、壁には考えていた以上の試験官があり、そこからオーガが絶えずこちらに向かって来ているんだろう。
あと、人間の方はこの地下室以外にも部屋があるのか、どこからかなだれ込んで俺達を止めようと襲い掛かってきている……奥へと逃げていた研究者の人達も、いつの間にか見えなくなっているので、奥にも部屋がるのは間違いないだろう。
直線的に進んでいるから、俺とヴェンツェルさんで武装兵は二十人くらい相手にしたと思うけど……これ、もしかしなくても俺達側の兵士さん達全員より多いんじゃないかな?
広いだけでなく人数も多いから、想像以上に規模が大きい組織なんだろうね……思っていた以上に大きな作戦になってしまっているようだ。
「まったく、なんでこんな大事になったんだか……はぁっ! あ、ちょっと強かったかな? ゴメンナサーイ」
「それは、リク殿がアメリを助けたからだろう? まぁ、この研究施設がある以上、いずれ関わっていた可能性は高いな。発見するのは、もっと遅れたかもしれないが……今で良かったのかもしれん。……しかしリク殿、敵に情けは不要だぞ?」
「わかっているんですけどね。人間相手だとつい……」
ヴェンツェルさんが連れてきた兵士さんが多かった事も含めて、アメリさんを助けた時はこんなに大事になるとは思っていなかった。
溜め息を吐くついでに、八つ当たり気味に近くにいた武装兵を防御しようとした腕ごと殴り飛ばすと、ちょっと力を入れ過ぎたのか、両腕があらぬ方向に曲がってしまう。
敵なんだから、情け入らないというのはわかるんだけど、やっぱりできるだけ生きたままで捕まえたいのは、俺の甘さなんだろうか……。
「まぁ、喜んで人間を切り捨てるような奴よりは、信用できるがな。……ああいうのは、安心して背中を預けられないからなぁ」
「何やら思い当たる節がありそうですが……また今度聞かせて下さい」
「ロートルの昔話を聞きたがるのは、中々珍しいな?」
「まさか……ヴェンツェルさんがロートルなんて言っていたら、エアラハールさんに怒られますよ?」
「師匠、いやエアラハール殿は……標準からズレ過ぎではないか?」
「まぁ、確かに……」
エアラハールさん、結構なお年に見えるのに女性への痴漢行為はともかく、動きが老人には見えないんだよなぁ……さすがに最善の一手は何度も使えないと言っていたけど、今でもBランク以上の冒険者として活躍できるんじゃないだろうか?
なんて、冗談を飛ばす余裕を見せながらヴェンツェルさんと協力して、ひたすら人間、オーガ、人間、オーガと近付いて来る者達を薙ぎ払いながら進む。
傍から見たら、文字通り薙ぎ払うに近い状況だったようで、途中から武装した人間が近寄るのを躊躇う様子も見えた……まぁ、どれだけオーガをけしかけても、ほとんど速度が落ちないとなれば、向こうはたまったものじゃなかっただろうね……俺達が気にする事はないけど。
「せい! はぁっ! さすがに、少しきつくなってきましたかね?」
「ふんっ! ぬぅん!……なんだ、もう疲れたのか?」
「いえ、疲れはほとんど感じないんですけど、端が近付くにつれて、向こうから来るのが多くなったなぁと……」
「……これだけやって疲れを感じないとは、どうなっているのか疑問だが……そうだな。向こうも必死なのだろう。それに、時間が経てば状況を理解する者も出て来る。突入直後より、多少連携されていると思わないか?」
「言われてみれば、確かに。でも、大体近付いて来たら人間だと殴り飛ばして、オーガだったら倒して結界……散発的に襲って来るのもあって、あまり連携しているようには感じませんでした」
「まぁ、障害物も多いからな。連携するのが難しいというのはあるだろう。だが、私が見る限りでは、始めのように散発的ではなく、連続して来ているようだ」
ヴェンツェルさんに指摘されて少しだけ向こうの動きに集中すると、オーガが正面からドスドスと重そうな足音を立てて襲い掛かって来たのに対応したら、次の瞬間剣やナイフを振りかぶった人間が横から来る……といった連携というか、連続攻撃のような事を仕掛けているのがわかった――。
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