上 下
705 / 1,903

戦闘中でも余裕を見せる二人

しおりを挟む


「変わりましょうか?」
「オーガを倒すだけならまだしも、結界を使って爆発の衝撃を抑え込めるのはリク殿だけだ。私にはできんよ。だがリク殿、こんな状況でも冗談を言えるのだから、まだまだ余裕だな?」

 今は、ちょうど地下室の中心近くまで来ているだろうか……後ろはモニカさん達がいてくれるからいいとしても、正面だけでなく左右には広い空間があるせいで、ヴェンツェルさんのように迷ってしまう気持ちはわかる。
 そうやって会話もしながらオーガを斬り裂き、結界で覆って衝撃を外に出さないようにしていると、感心されたので、交代してみるかなと冗談を飛ばす。
 ヴェンツェルさんの言う通り、今回はオーガの爆発に注意をするだけで、強力と言える程の相手がいないため、余裕をもって行動できているのは自覚がある。
 ルジナウムで経験した戦闘に比べれば……というのもあるんだろうね。

 研究者に見える白衣の人達は、ほとんど戦える人はいないようで逃げるか、俺達に殴り倒されるかだし、武装している人もあまり強いとは感じない。
 まぁ、勢いで殴り倒していたり、突入してきた俺達に驚いているせいもあるんだろうけどね。
 なんにせよ、俺やモニカさん達を除いても、こちらは訓練された兵士さんばかりなのに対し、向こうは統率も連携も取れない有象無象になっているので、オーガさえいなければヴェンツェルさん達で十分制圧できたんだろうなと思う。

「それもそうですね。とにかく、今はまず端まで真っ直ぐ進みましょう。フィリーナのいる逆側から見渡して、全体をもう一度見てからでも、考えるのは遅くないと思います」
「そうだなっ! よし、このまま進もう!」
「ちょっとそこ! 進む方向が変わっているわよ! そっちじゃなくてもう少し左に体を向けて!」
「あいよ!――ははは、注意されてしまいました」
「さすがに、戦闘しながら走り、会話もするとなると方向を見失う物だな」

 話しながら、行く手を阻む人間やオーガを倒していると、いつの間にか進方向を見誤っていたらしく、後ろからフィリーナの声で叱られてしまった。
 結構離れたのに声が届くのは、魔法のおかげなのだろうけど、さすがに後ろ以外の前と左右から人やオーガが次々とやってくると、対処で体の向きを変えたりする影響で真っ直ぐ進むのは難しいか。
 ……フィリーナに指令役を任せて良かった。

「というか、最初に様子を見た時より、人もオーガも多すぎません?」
「それは私も思っていた。まぁ、正確な数が元々わかっていたわけではないんだがな。それにしても、数が多過ぎるな……む……そういう事か……」
「どうしたんですか?」
「目を凝らして、遠くの壁を見てみろ」
「ん……あぁ、成る程……」

 突き進み、拳や剣を振り回しながらも話しているのは、ヴェンツェルさんにも余裕があるからだろう。
 それはともかく、ヴェンツェルさんに言われて物や人の隙間から、遠くにある壁をよく見てみると、ずらりと並んだ試験管……出入口の隙間から見た時には見えなかったが、壁には考えていた以上の試験官があり、そこからオーガが絶えずこちらに向かって来ているんだろう。
 あと、人間の方はこの地下室以外にも部屋があるのか、どこからかなだれ込んで俺達を止めようと襲い掛かってきている……奥へと逃げていた研究者の人達も、いつの間にか見えなくなっているので、奥にも部屋がるのは間違いないだろう。
 直線的に進んでいるから、俺とヴェンツェルさんで武装兵は二十人くらい相手にしたと思うけど……これ、もしかしなくても俺達側の兵士さん達全員より多いんじゃないかな?
 広いだけでなく人数も多いから、想像以上に規模が大きい組織なんだろうね……思っていた以上に大きな作戦になってしまっているようだ。

「まったく、なんでこんな大事になったんだか……はぁっ! あ、ちょっと強かったかな? ゴメンナサーイ」
「それは、リク殿がアメリを助けたからだろう? まぁ、この研究施設がある以上、いずれ関わっていた可能性は高いな。発見するのは、もっと遅れたかもしれないが……今で良かったのかもしれん。……しかしリク殿、敵に情けは不要だぞ?」
「わかっているんですけどね。人間相手だとつい……」

 ヴェンツェルさんが連れてきた兵士さんが多かった事も含めて、アメリさんを助けた時はこんなに大事になるとは思っていなかった。
 溜め息を吐くついでに、八つ当たり気味に近くにいた武装兵を防御しようとした腕ごと殴り飛ばすと、ちょっと力を入れ過ぎたのか、両腕があらぬ方向に曲がってしまう。
 敵なんだから、情け入らないというのはわかるんだけど、やっぱりできるだけ生きたままで捕まえたいのは、俺の甘さなんだろうか……。

「まぁ、喜んで人間を切り捨てるような奴よりは、信用できるがな。……ああいうのは、安心して背中を預けられないからなぁ」
「何やら思い当たる節がありそうですが……また今度聞かせて下さい」
「ロートルの昔話を聞きたがるのは、中々珍しいな?」
「まさか……ヴェンツェルさんがロートルなんて言っていたら、エアラハールさんに怒られますよ?」
「師匠、いやエアラハール殿は……標準からズレ過ぎではないか?」
「まぁ、確かに……」

 エアラハールさん、結構なお年に見えるのに女性への痴漢行為はともかく、動きが老人には見えないんだよなぁ……さすがに最善の一手は何度も使えないと言っていたけど、今でもBランク以上の冒険者として活躍できるんじゃないだろうか?
 なんて、冗談を飛ばす余裕を見せながらヴェンツェルさんと協力して、ひたすら人間、オーガ、人間、オーガと近付いて来る者達を薙ぎ払いながら進む。
 傍から見たら、文字通り薙ぎ払うに近い状況だったようで、途中から武装した人間が近寄るのを躊躇う様子も見えた……まぁ、どれだけオーガをけしかけても、ほとんど速度が落ちないとなれば、向こうはたまったものじゃなかっただろうね……俺達が気にする事はないけど。

「せい! はぁっ! さすがに、少しきつくなってきましたかね?」
「ふんっ! ぬぅん!……なんだ、もう疲れたのか?」
「いえ、疲れはほとんど感じないんですけど、端が近付くにつれて、向こうから来るのが多くなったなぁと……」
「……これだけやって疲れを感じないとは、どうなっているのか疑問だが……そうだな。向こうも必死なのだろう。それに、時間が経てば状況を理解する者も出て来る。突入直後より、多少連携されていると思わないか?」
「言われてみれば、確かに。でも、大体近付いて来たら人間だと殴り飛ばして、オーガだったら倒して結界……散発的に襲って来るのもあって、あまり連携しているようには感じませんでした」
「まぁ、障害物も多いからな。連携するのが難しいというのはあるだろう。だが、私が見る限りでは、始めのように散発的ではなく、連続して来ているようだ」

 ヴェンツェルさんに指摘されて少しだけ向こうの動きに集中すると、オーガが正面からドスドスと重そうな足音を立てて襲い掛かって来たのに対応したら、次の瞬間剣やナイフを振りかぶった人間が横から来る……といった連携というか、連続攻撃のような事を仕掛けているのがわかった――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

処理中です...