上 下
697 / 1,903

フィネさんによる愚痴大会

しおりを挟む


 モニカさん達が頑張って作ってくれた料理は、お肉を香草で焼いて濃い目の味付けをした物をパンに挟んでいたり、モニカさん特性の暖かくて安心するスープ、デザートに焼きリンゴなんかもあった。
 特に豪勢な料理というわけではないけど、味気ない食事をしていた兵士さん達にとっては、とんでもないご馳走に見えたのかもしれない……用意していた時から、美味しそうな匂いを周囲に漂わせていたからね。
 匂いに関しては、肉を焼く匂いなどは魔物を引き寄せたりする事もあるため、探知魔法を使って周囲の警戒を担当していたけど、特に問題は何もなかった。

 街道に近いために定期的に魔物の討伐を、冒険者に寄ってされているのもあるけど、オーガ以外の魔物が少ないのが少し気になる。
 その事でちょっとマルクスさんやフィネさんと話したけど、二人偶然魔物が少ないのか、それともオーガに関して何かあるのかもしれないかも? くらいの反応だった。
 そういう事もあるかなと思う半面、探知魔法の精度はともかく範囲が広がっている事を知らない二人だから、もしかすると目視できる範囲より少し広いくらいの認識だからかなとも思う。
 遠いのと、近くに兵士さんが多くて情報量が多いために、はっきりとはわからないけど……今なら昼間に偵察した研究施設近くまでわかるんだよね……周囲数キロくらいかな? これくらいの範囲で何もないというのは、ちょっと奇妙かもしれない。

 とはいえ、難しく考える必要はないかもと思い直して、俺も兵士さんに負けないようモニカさんの料理を頂く事にする。
 もしかしなくても、街道にいたオーガと関係しているような気がするし、何かあれば明日突入した際にわかるだろうからね。
 ちなみにこちらは、兵士さん達のように鍋へ群がる事はなく、落ち着いた雰囲気だ。
 
「……モニカの料理、皆に人気なようね」
「美味しいから、人気になるのも頷けるよ」
「難しい料理とか、手の込んだ物は作ってないんだけどね……まぁ、喜んでもらえたなら嬉しいわ」
「モニカ殿、部下達のためにありがたく。しかし、これだけの人数分を用意したのは大変だったろう?」
「まぁ、少しは……ですね。でも、父さんと母さんがお店をしているから、そこでの忙しさに比べればなんともありません。あれは、父さんが戦場と呼ぶくらいですからね……」
「マックスが言うのなら、相当なのだろうな……確か、踊る獅子亭と言ったか? 王都にいる事が多いため、マックス達の店には行けていないのだ。いずれ、行けるといいな」
「はい、父さんも母さんも喜ぶと思います」

 騒動にまで発展している兵士さん達を見ながら、フィリーナと頷いていると、モニカさんが謙遜。
 手が込んでいなくとも、美味しい料理ができるというのはそれだけで、料理上手と言えるんじゃないかと思う。
 もちろん、手の込んだ料理や、手間がかかっている方が美味しいんだろうけど、サッと作った物でも美味しくできるというのは、基礎がしっかり身に付いているからだろうね。
 ヴェンツェルさんが兵士の様子を見ながら、モニカさんに頭を下げ、マルクスさんも同じく頭を下げている。

 マルクスさんは、肉の挟んだパンを口に含んでいたため、言葉を発せなかったみたいだけど。
 そういえば、ヴェンツェルさんとマックスさんって親友とも呼べる間柄だったっけ……獅子亭の料理はマックスさんが心を込めて作った美味しい料理ばかりだから、いつかちゃんと味わって欲しい。
 軍のトップで、将軍とか呼ばれているから、中々王都を離れてヘルサルに行くのは難しいだろうけど……。

「そういえば、フィネさんも料理が得意そうでしたね?」
「あぁ、そうそう。本当、フィネさんがいてくれて助かったわ。フィリーナも料理はできるけど、この人数でしょ? 凄く助かったわ!」
「いえ……私など……」
「謙遜なんてしなくていいのよ? ソフィーなんて……」
「んお?……んぐ……私は食べる専門だからな! 美味い物を食べて、体を動かす! これが冒険者にとって正しい姿だ! はぐ……」
「これだもの……でもソフィー? フィネさんはBランクなのだから、ソフィーの言い分は微妙だと思うわよ?」

 まぁ、ソフィーとモニカさんはまだCランクだからね……。
 二人共順調にいけばBランクの実力はあると思っているけど、それは俺の勝手な考えか……ランクの基準とかあまり深く考えていないしね。
 それはともかく、Cランクのソフィーが冒険者の姿勢を訴えても、Bランクのフィネさんが実際に料理ができてしまうのだから、説得力はあまりない。
 冒険者だとかに関係なく、料理ができるできない、したいしたくないは個人によって違うんだから、そもそも冒険者は……というくくりで話すべきじゃないんだろうけども。

「私は……その、コルネリウス様と行動をしていると、食事当番になる事が多かったので。それに、美味しくない物を作ると、コルネリウス様が怒りますからね。まぁ、失敗した料理を不満そうにされても、残すような事はさせませんが……」
「あー、あのお坊ちゃんね。フランク子爵がいたし、たしなめるどころか叱咤していたから、おとなしかったけど……初めて会った時の事を思い出すと、確かにわがままそうだったわよね……」
「ははは、でも結局、残させないようにするという事は、コルネリウスさんがわがままを言うだけじゃないみたいだね。ちょっと不思議な関係、かな?」

 コルネリウスさんの性格を考えると、美味しくない料理を出されたら、食べずに残すなんて事も平気でやりそうだけど、その際には逆にフィネさんが怒って残させないようにするらしい。
 初めて会った時、最終的にフィネさんが怒ってコルネリウスさんをおとなしくさせていたから、ただの主従という関係ではなく、傍から見ているだけではわからないような間柄なんだと思う。

「コルネリウス様とは、幼い頃から一緒に育ったので。あれでも、小さな頃は正義感が強く、我がままではなかったのですが……はぁ、いつからあぁなってしまったのか……リク様に突っかかるだけでなく、身の程をわきまえずにキマイラに挑もうなど、以前ならしなかったでしょうに……」
「あはは……まぁ、小さい頃と成長した後では、正確が変わる事はよくある事よね」
「そうは言いますが、あれは変わり過ぎですよ? 私なんて、将来この方にお仕えして、立派に領主としての務めを果たせるよう、お傍でお守りしよう……と考えていましたから。今のコルネリウス様は、そう思える要素がありません……父親のフランク様は、ご立派な方なのに……」
「小さい頃は、そんなに立派だったの?」
「もちろんです! 弱い者にも手を差し伸べ、分け隔てなく民と接し、誰からも好かれる……そんなお方でした……決して、貴族である事を盾にしたり、誇ったりせず、自分は民に寄り添う者だと仰っておりましたから」

 それはなんとも……子供とは思えない立派な志だと思う。
 今のコルネリウスさんだけを知っている俺達には、フィネさんの言う小さい頃の性格と一致せず、首を傾げるばかりだけどね。
 人が変わったようにというか、本当に人が入れ替わってしまっているんじゃないかと思えるくらい……なのは少し失礼かもしれないけど、今のコルネリウスさんを見ているとそう思えてしまう。
 まぁ、多少はフィネさんの中で記憶の美化がなされているんだろうけどね――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...