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ブハギムノングに帰還

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「魔物と戦ったからなんだけどね……ただ、その途中に遊び始めて、なぜか泥を投げ合う戦いになったの」
「泥を投げ合うって……魔物とそんな事に?」
「面白かったのー。でも、泥玉の中に石を入れただけで倒れるなんて、軟弱なの」
「倒れるでは済まなかったと思うが……俺が見た限りでは、破裂していたぞ?」
「魔物相手だから良いのじゃろうが、あれが人に向けられるとなると、空恐ろしいの……」
「……はは、遊んだからユノだけ汚れているんだね」
「そうなの。とりあえず汚れを落とそうと思って、調査を切り上げて帰ってきたのよ」

 なんだかわからないけど、魔物相手にユノが遊んだから汚れたらしい。
 泥を投げ合えば汚れるのは当然だろうけど、それに付き合う魔物も魔物だね……そんなのがいるのか。
 とりあえずユノ、泥玉の中に石を入れるのは反則だからな? 雪玉に石を混ぜて投げるのと同じで、危なくて怒られるだけでなく、場合によったら友達を失くすやつだ。
 まぁ今回は魔物が相手だったから、問題ないか……泥はちょっとやりたくないけど、雪合戦とか久々にやってみたいなぁ、その時は意思を入れないように注意しなきゃいけない。

「それじゃ、ユノの事は頼んだよ。俺はまたブハギムノングへ向かうから」
「えぇ、わかったわ。リクさんも頑張ってね」
「頑張るのー」
「うん。あ、そうだ……モニカさん……後で、ノイッシュさんとは別にフランクさんから、話を聞いておいて……」
「え、わ、わかったわ……」

 軽く話した後、ユノを綺麗にしないといけないモニカさん達と、ブハギムノングに行くために別れる。
 その前に、モニカさんに顔を寄せて、他の人に聞かれないよう耳打ちをする。
 研究所らしき場所の事はまだしも、ヴェンツェルさんと俺が合流してというのは、あまりノイッシュさんに聞かせない方がいいからね。
 あとは、フランクさんとモニカさんが話し合って、上手くやってくれるだろう。

 皆に手を振り、街の北門へ向かって歩き出す……そういえば、なぜかモニカさんの顔が少し赤くなっていた気がしたけど、どうしたんだろう? 風邪かな?
 北門を目指して移動を開始した直後、頭にくっ付いて寝ていたはずのエルサが、大きくため息を吐いた気がした――。


「よし、ありがとうエルサ」
「どういたしましてなのだわー。……はぁ~」

 ルジナウムを出発し、ブハギムノングに到着してエルサを労う。
 魔力を補充しているのか、小さくなって俺の頭にコネクトしてすぐ、温泉にでも浸かったかのような息を漏らすエルサ。
 魔力が湯水のように湧き出ているとか、変な想像をしながらブハギムノングへと入る。

「えっと……とりあえず詰所へ行って、ガッケルさんに会わないと」
「リクはやる事いっぱいなのだわ」
「仕方ないよ、頼りにされているのもあるし、一度自分から始めた事だからね」

 ガッケルさんがいるはずの詰所を目指しながら、呆れ混じりのエルサと話す。
 ルジナウムやブハギムノングに関しては、俺が自分から冒険者ギルドで依頼を受けたのが始まりだ。
 皆にも協力してもらっているし、頑張ってもらっているから、俺も怠けるわけにはいかない。
 アメリさんを助けたり、そこから発生したオーガに関する事だとかは、自分から首を突っ込んだんだし、最後まで責任を持たないと。
 ……クォンツァイタとかは、姉さんからの要望の部分が大きいけど、こちらはついでのようなものだからね。

「失礼します、ガッケルさん」
「リク様! お戻りになられたのですね」

 詰所に入り、以前にも来た執務室のような部屋に案内されて、ガッケルさんと挨拶。
 ガッケルさんには、王都とまでは言わなかったけど、ルジナウムまで様子を見に行く事は伝えてある。

「えっと、ガッケルさん。ちょっと王都まで行って来たんですが……」
「は、え? 昨日出発されて、ルジナウムまで行ってきたというだけでも驚きなのですが……王都まで……?」

 あ、そうか、ガッケルさんにはエルサが大きくなって、空を飛んで移動している事を説明していなかったっけ。
 とりあえず、簡単に説明してエルサの紹介も済ませておく。
 ガッケルさんが口を開けたまま、呆然としたり、大量の汗をかいたりもしていたね……俺の頭にくっ付いているのは、喋る毛玉程度にしか考えていなかったらしく、深くは追求しようとしていなかったらしい。
 英雄だとか、Aランクだとかで信頼できるのはわかっていたし、不思議な事もあるもんだ……程度にしておいたって言っていた。

「ふむ、色々と驚きはありましたが、了解しました。すぐに手配致します」
「あ、まだ本当にあるかはフォルガットさんに聞かないとわかりませんから。それからで大丈夫です」

 ついでに、クォンツァイタの事も伝えると、鉱石を運び出すのに兵士を使うと言ってくれた。
 一応、鉱山を管理しているのは国だから、ブハギムノングで兵士長をしているガッケルさんに許可を……という事だったんだけど、考えていた以上に協力的だ。
 まぁ、許可が取れなくても姉さんがなんとかしそうというのはともかく、元がクズ鉱石と呼ばれて見向きもされない物なんだから、当然と言えば当然か……街の収入にも繋がるから。
 それに、運んでくれるのが兵士なら訓練されているし、王都まで護衛を雇う必要もないし、危険も少なくていいだろうとの事で、凄くありがたい。

 結界を使えばワイバーンの時のように、エルサに運んでもらえるだろうけど、個人的な物や冒険者の依頼でもなく姉さんが流通させようとしている物だから、直接手を出すより、兵士さんに頼んでちゃんと運ぶ道筋を作ってもらう方がいいだろう。
 やるとしても、空からエルサで見守るくらい……? それもやりすぎか……。

「では、確認が取れ次第お伝え下さい。部下達はすぐに動けるようにしておきます」
「そこまで急がなくてもいいと思いますけどね……すみませんが、よろしくお願いします」
「はっ!」

 ガッケルさんとの話を終え、今度は鉱夫組合を目指す。
 一日の間で、こんなに色々な場所を尋ねるのはヘルサルで、防衛の準備をしている時以来でちょっと懐かしい感じもあるけど、あの時と違って切迫感とか緊迫感はないので、気楽でいいね。

「えーと、フォルガットさんはいますか?」
「リク様! お帰りなさいませ! フォルガットさんは生憎、ソフィーさんと鉱山へ行っておりまして……」
「あ、そうですか。うーん……それじゃどうしようかな? 今から俺が鉱山に行っても、大した事はできないだろうし……早めに夕食を、というのはソフィーの事を考えたらなしだね」
「私は寝ているのだわー」

 鉱夫組合に来ると、いつもの女性からフォルガットさんは不在と告げられた。
 まだおやつの時間を少し過ぎたくらいかな? それくらいだと、ソフィーと一緒に鉱山へ行っているのも納得だ。
 そろそろエクスブロジオンオーガが少なくなり、鉱夫さん達が採掘作業の一部を再開し始めているので、鉱山を探索するソフィーだけでなく、フォルガットさんも案内と内部を調べるために一緒に行っているんだろう。
 鉱夫さん達の安全も確認しているんだと思われる。

 とりあえず、やる事がなくなってどうしようかと考える。
 そうだよなぁ、フォルガットさんがいるものとして考えていたけど、組合長なんだから急がしていない事があってもおかしくないか。
 ソフィーと合流してから、夕食を頂くついでに昨日今日の事を話したいし、まだお腹が空いているわけではないのでこれからどうするかに困る。
 エルサが暢気に、俺の頭で寝息を立て始めたのは気にしないでおこう――。


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