上 下
654 / 1,903

エルサが溶かす

しおりを挟む


「オーガなのだわ?」
「どこからどう見ても、オーガなんだけどね……でも、肌の色が……」
「赤いのだわ。鉱山とかで見たのと一緒なのだわ? こいつも爆発するのだわ?」
「いや、それがわからないんだ。確認する前にさっさと凍らせたから。ほら、あっちの人を驚かせないように、爆発させちゃいけないと思ったから」
「それで広い範囲を凍らせたら、そっちの方が驚くと思うのだわ。はぁ……でもいくら私でも、凍っているのを見ただけじゃわからないのだわー」
「まぁ、そりゃそうか……。溶かす?」
「リクは止めた方がいいのだわ。爆発より酷い事になるのが目に見えているのだわ」
「……否定できない。それじゃ、エルサに任せるよ」
「仕方ないのだわ。しばらく、オーガの前に立って顔を動かさないでいるのだわー。結界の準備はよろしくだわ」
「それはもちろん、わかってるよ。俺やエルサはともかく、後ろの女性は危ないかもしれないからね」
「それじゃ、やるのだわ。ごあ~」
「気が抜ける声だなぁ……」

 さすがにエルサでも、凍っている状態を見ただけでは、このオーガが爆発するのかどうかというのはわからないみたいだ。
 エルサとは話し、溶かして試す事を決める。
 二体いるオーガのうち、右側のオーガの前に立って俺の頭にくっ付いたまま、炎を吐き出すエルサ。
 頭上から、オーガに向かって松明くらいの大きさで、赤い炎が噴き出して直火であぶり始める。

 火を出す時、気の抜ける声だったけど、魔法名もなしだからエルサが直接火を吐いているようにしか感じないな、これ。
 頭の上だから俺には見えないけど、それでもエルサの口元から火の魔法が出ているのは温度でなんとなく感じるし、今までも同じように口から吐くようにして、魔法を使ってたから。

「あ、エルサ、俺の髪を燃やしたりするなよ? チリチリになったら嫌だし」
「ほんはひっはいはひはいほはわー」

 これ、口を開けて魔法を使っているのか……多分、「そんな失敗はしないのだわー」とか言っているっぽい。
 口を閉じたら火が途切れるのかな? 本当に、魔法じゃなく直接火を吐いているとかじゃないよな?

「あのー?」
「ん、はい。どうかしましたか?」
「はほをふほはふははわー」
「あぁ、ごめんごめん。――すみません、ちょっと取り込み中で顔を動かせないので、このまま……」

 恐る恐る、といった風に女性から声がかかる。
 どうやら、ようやく葛藤や混乱から抜け出せたらしい。
 返事をしながら、顔を振り向かせようとすると、エルサに注意されて謝りながら再びオーガへと向く。
 危ない危ない、あのまま女性に顔を向けてたら、エルサの出している火が女性に向かっている所だった。
 オーガを溶かすとか関係なく、危険だった……助けたのに、俺が女性に危害を加える事になれば、笑い話にもならないからね。

「あぁはい。それでその……白くてとんでもなく触り心地が良さそうだけど、大きくなったり小さくなったりして、今は火を吐いて喋る生き物は一体……?」

 すごい具体的だ……。
 触り心地がいいというのは、全力で肯定するけど。

「ほあほんはわー」
「ほあほんはわー? えっと、そのような生き物が?」
「いやいや、そうじゃなくて……ドラゴン、ですよ」

 自分の事を聞かれたからか、俺より先にエルサが答えたけど……口が閉じられない状態だと、まともにドラゴンと発音できないせいで、意味不明な種族が伝わってしまった。
 間抜けな音を繰り返して言う女性に、笑いが漏れそうになるのを我慢しながらドラゴンだと訂正する。

「ど、ドラゴン……というと、あの……?」
「どれかはわかりませんけど、ドラゴンです」
「はほはわー」
「伝承では、巨大な体躯から繰り出される一撃で、人間ならず魔物も弾き飛ばし、尋常ならざる魔法で地形を変える。ドラゴンが潰した国々というのが、いくつもあるという……あの? あらゆる魔法が効かないし、人間と一緒にいる事はないと聞くけど……」
「エルサ、そんな事してたのか?」
「ひふへいはほはわー。わはひはへへほひへ、ほはほほふへははへはほはわー」
「……火を出していると、会話も少し不便だなぁ」

 多分、「失礼なのだわー。私は寝て起きて、空を飛んでただけなのだわー」とかだろう。
 随分自堕落というか、暢気に過ごしていたんだと思うが……そういえば、エアラハールさんが砦にドラゴンが突っ込んだという話をしていたっけ。
 エルサ以外にもドラゴンがいるのは、これまでの話でなんとなくわかるけど、基本的に暢気で自由に過ごしていて、時折人間がちょっかいを出して反撃される……というような感じなのかもしれないね。

「とにかく、ちょっと色々ありまして……今は一緒にドラゴンといるんですよ」
「だ、大丈夫……なの? 襲われたりとか……食べられたりとか……?」
「ははは、それは大丈夫ですよ。エルサ……ドラゴンンは人間を食べたりしませんから。食欲は旺盛ですが……」
「ひふーはおいひふひふほはひへはいほはわー」
「『キューが美味し過ぎるのがいけない』、か? まぁ確かに美味しいけどね……」

 契約をしたからとかは、ゆっくり話をする機会があればでいいだろう。
 今はオーガを溶かしている最中だから、あまり詳しく話すのもね……エルサが何喋っているのかわかりづらいし。
 助けた女性は、何処からどう見ても人間である俺と一緒にいる事で、エルサが襲って来ないだろうと判断したのか、おとなしく後ろで待っている事にしたようだ。
 まぁ、ブツブツと「ドラゴンが、本当に? 大丈夫かしら? でも実際に助けてもらったし……悪い人じゃないと思うんだけど……でも、あの登場の仕方はちょっと……」なんて葛藤しながら声を漏らしていたけどね。

 ……空からの登場に関しては、触れないで欲しい……あの時はなんとなく、あれが格好良いと思いついてしまっただけだから。
 落ち着いて考えると、わざわざ飛び降りて登場する必要はないと思えるんだけどね……おかげで混乱させちゃったし、馬にも無理をさせてしまった……勢いって怖い。
 そういえば、逃げた馬は元気かなぁ……?

「ひふ、ばひょほはえふほはわ」 
「はいはい」

 自分の思い付きで取った行動を、後悔したり現実逃避をしているうちに、オーガの一部が溶け始めて火を当てる場所を変えるよう、エルサに指示される。
 氷が溶けているのに、同じ場所へずっと火を当ててたら、単純に焦がすだけだからね……全体的に溶かさないと、爆発するかどうか確かめられないかもしれない。
 魔力が通ればいいんだろうけど、それには一部だけじゃなく他の場所も溶かさないと……かな。

「これ以上は、ただ焦がすだけなのだわ?」
「んー、まぁ凍っているのが溶ければいいだけだろうし、焦がしてもいいんだろうけど……少し待ってみようか?」
「了解だわー」

 一体のオーガの表面を全て溶かし、エルサが火を止めて聞く。
 表面は熱で溶かせたけど、内部はまだ凍っているみたいで、爆発はしないし触っても固い。
 ちなみに、もう一体の方はそれなりの時間が経っているにもかかわらず、表面が溶け始めてすらいない……地面もそのままだし、どれだけ低い温度で凍らせたんだよ……と自分に対して思ってしまった。
 鉱山の穴も同じような感じで凍っていたのなら、イオスを縛った後のソフィーは、結構待ってからようやく出られたのかもしれない……ごめん、ソフィー――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...