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褒賞と特別報酬

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 フランクさんの冗談(多分)はともかく、用件の一つは俺への報酬をという話だったらしい。
 お金には困っていないから、受け取らなくてもいいんだけど、フランクさんは受け取らせる構えだし、冒険者としてギルドからの報酬は受け取らないといけない。
 無償での働きを良しとしたら、冒険者に対してお金を払わずに……と言う人が出たり、冒険者ギルドが報酬を出し渋ったと噂されたりと、お互いにとって好ましくない状況になるからね。

 でも、討伐報酬はまだしも、特別依頼ってなんだろう?
 いやまぁ、あの状況だから冒険者にはそういう依頼が出ていてもおかしくはないんだけど、俺は受けた覚えのない依頼だ。
 素材の買い取りは、是非して欲しい所だけどね……あんな大量の魔物から取れる素材、持ちきれないし……。

「特別依頼は今回の緊急性を鑑みて、戦闘に参加した冒険者は受けているという処理にさせてもらった。避難者への護衛についた者達もそうだ。悠長に依頼を受ける、という事をしている間もなかったからな」
「迎え撃ち、避難者への護衛と、とにかく準備の時間が足りませんでしたからなぁ。もちろん私の方でも、褒賞は戦闘に参加した者、護衛についた者に出すようにしております」
「成る程、そういう事ですか……」

 準備する時間が少なすぎるから、事務処理なんてしている余裕がない。
 とにかく戦力を集めるだけ集める必要があったんだから、これは仕方ない。
 おそらくだけど、エルフの集落が魔物に襲われていた時、後から来たヤンさんがヘルサルの冒険者ギルドで、事後承諾、事後処理のような形で特別依頼にしたのと同じようなものだろう。
 褒賞については基準がわからないけど、今回は戦闘に参加した人、護衛に付いた人がもらえるようだから、危機的状況に対して動けた人に出すようになっているのかもね。

「ですが申し訳ありません、リク様。褒賞に関しては数が多く、まだご用意ができていないのです。後日、直接お渡しをするか冒険者ギルドを介しての受け取りとなりますが……」
「あぁ、それなら大丈夫です。今お金に困っているというわけでもないので、また後日という事で」
「畏まりました。できるだけ早くお渡しできるように致します」
「すまないが、冒険者ギルドの方もそうだ。こちらは特別依頼に対して、報酬を払う冒険者が多い事もそうなんだが……いかんせん魔物の数が多過ぎてな。まだ全て確認が取れていないため、討伐報酬がまとまっていない」
「そちらも、了解しました。急ぐ必要はないので、そのうちで。あと、素材の買い取りなんですが……全部やってくれますか?」
「それは任せてくれ。素材の買い取りはギルドの利益にもなるからな、喜んで取り掛かるさ。まぁ、そちらも魔物を回収してからの事だが……キマイラだけでも百体以上って、なんだよ……書類が多過ぎて手が足りん」
「あははは……それは俺に言われても……」

 愚痴るように言うノイッシュさんに苦笑するしかない。
 さすがに魔物の数に関しては、俺に言われても困からね。
 倒した事が異常と言われればそれまでだけど、エルサやユノ、弓や魔法を放った人たちの協力あればこそだ。
 書類仕事が苦手なノイッシュさんからすると、頭を抱える状況なのかもしれないけど、それも嬉しい悲鳴と言えるんだろう……魔物に壊滅させられていたら、それどころじゃなかったんだし。

「さてリク様、褒賞についてはこのくらいで。もう一つの用件なのですが、こちらが本題と思って頂いて構いません」
「はい……」

 今までの、俺を褒めたり称賛したり、どこか楽し気な雰囲気だったのが打って変わり、真剣な表情になるフランクさん。
 声にも重さを混ぜて、雰囲気を一変させたのは、さすが人の上に立って領地を治めているだけはあると、納得させられる迫力だ。
 話を聞きなが、時折俺の様子を見てクスクス笑っていた隣のモニカさんも、ノイッシュさんまでも表情を引き締めた。
 もちろん、俺も同様に気を引き締める。
 これからの話は、冗談とかが言えるような内容じゃないだろうからね。

「では、私から。……魔物の集団は既に確認していた事です。それに関しては、問題ありませんね?」
「はい」
「えぇ」
「あぁ」

 フランクさんが話し始め、今回の確認を始める。
 まずは魔物が集結していた事に関して。
 これは、実際に俺は見ていないけど、フランクさんやモニカさん、ノイッシュさんも確認している事で、皆知っている情報だ。

「そして、魔物の集団は様々な種族が混同しており、それぞれが争う事もなかった。そして、数を増やすように別の場所から魔物が移動して来ていた。これも確認済みですな」
「そうですね」
「はい。遠目ではありましたが、実際に見て確認しました。それと、別の場所からという魔物も、倒しています」
「冒険者ギルドからも同様だ。冒険者に依頼を出し、討伐させるようにもしていた。ただし、集まっている魔物そのものには、刺激を与える事は危険だと判断し、離れた場所で確認するだけにしていた」

 同一種族ではないのに、魔物同士での争いがない事や、魔物が移動して来ているというのも確認済み。
 これは調査依頼を受けた後、情報として聞いた事ではあるけど、モニカさんも見て確認しているのを聞いている。

「皆さんの情報が共有されていますな。では、長くなるので割愛しますが、リク様と私の話で、今回の魔物集結に関しては何者かが関与しているのではないか……という推論になりました。ただし、確証はありません」
「はい。実際に複数種類の魔物が集結する理由、魔物同士が争わない理由を考えると、誰かが仕掛けている事ではないかと考えました。……やり方は、わかりませんが」
「そうだなぁ……魔物を集める方法としては、その魔物を理解し、好む物をうえば集める事はできるが……いかんせん数が多過ぎる。それに、複数の種類がいるのに、争わないという方法はわからんな」

 魔物を集める方法、あるんだ……。
 まぁ、魔力溜まりにマギアプソプションが集まるという性質あったんだから、他の魔物も何かに集またりする物があるかもしれないか。
 それを利用すれば、単一の魔物なら集める事ができるだろうけど……やっぱり複数種類を大量に集める方法には使えない。
 それに、魔物同士が争わないようにする事には使えないだろうし。
 何か、別の方法で集めたのかな? いや、一つの方法とは限らないから、いくつかのやり方を同時にという事なら、あり得るかもしれないね。

「それらの理由に関しては、今森を調査するよう手配しています。魔物はリク様が倒したので、今は安全ですからな。まぁ、多少の魔物入るでしょうが、キマイラなどの強力な魔物はいません」
「それもこちらで確認している。まぁ、調査依頼そのものはリク様達だが、周辺調査や本当に魔物が争っていなかったかの痕跡を見る事くらいはできるからな」

 フランクさん、ノイッシュさんに帝国が仕掛けている可能性というのを、話さないようにしているみたいだ。
 既に二人で共有している事なのかもしれないな。
 あ、いや、国に関する事だから、国に寄らない組織である冒険者ギルドには、言えないという可能性もあるか――。


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