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天国と地獄?

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「モニカ、モニカ」
「ん、どうしたのユノちゃん?」
「リクが死んじゃうの。モニカのおっきなのに挟まれて、息ができなくなっているの」
「はっ!」
「あぁ……幸せが……」
「リク、しっかりするのだわー!」
「ごふっ! ぐふ……はぁ……はぁ……」
「よし、なのだわ!」
「よしじゃないよ……痛いじゃないか……」
「あのままじゃ、リクが浸って呼吸を忘れているままだったのだわ。感謝するのだわー」

 ユノが何か、とんでもない事を言っているような気がした次の瞬間、柔らかい幸せな感触が突然離れた。
 朦朧とした意識の中で、それを残念に思っていると、お腹……正確にはそれより少し上の部分に、激しい衝撃。
 思わず体中の空気を吐き出し、新しい空気を求めてあえぐように呼吸した。
 エルサがやり遂げたような表情と仕草をしていたので、どうやら俺のお腹めがけて体当たりしたようだ。
 確かに呼吸を忘れていたけどさ……もう少しやり方があったんじゃないかな?

「リクさん……その、今のは忘れて、ね?」
「あ、え? えーっと……うん……」

 先程までの勢いはなんだったのかと思う程、俺から離れたモニカさんは、顔を真っ赤にしたままチラチラとこちらを窺っている様子。
 未だによく理解できない事が多いけど、なんとなく心臓が脈打ったような気がして、頷くだけで済ませた。
 戦闘をしているわけでもないのに、なんだったんだろう?

「……んん! それにしても、リクさんはやっぱり凄いわね。あれだけの魔物を倒したんだから。それに、エルサちゃんやユノちゃんも」
「頑張ったの!」
「別に、これくらいはなんともないのだわ……疲れたけどだわ」
「でも、やっぱり俺だけじゃどうにもならなかったのが、少し悔しいかな。結局、街の人達の力を借りないといけなかったし……」

 気を取り直すように咳払いをしたモニカさん、ユノやエルサも含めて、魔物と戦った俺を褒めてくれるけど、なんとかすると言っておきながら、結局助けてもらった不甲斐なさで、悔しさも感じるんだよね。
 まぁ、大きな被害が出ていなさそうな事は、誇らしく思うけど。

「でも、リクさんがいなかったら、私も含めてルジナウムは壊滅していたわ。それに、ユノ絵ちゃんやエルサちゃん、リクさんの頑張りがなければ、さっきの総攻撃で魔物を倒す事はできなかったもの」
「んー、そうなのかなぁ?」
「そうよ。何せ、もうリクさん達の周りにしか、魔物は残っていなかったんだから。もしかすると、助けもいらなかったかもね?」
「そうなのだわ。飛んで確認していたのだけどだわ、もう魔物もほとんど残っていなかったのだわ。だから、リクに向けて攻撃したのだわ……目印なのだわ」
「エルサ……俺やユノを目印にするなよ……はぁ。とにかく、それじゃもう少し頑張ってたら、全滅させられてたのかぁ……限界が近かったから、そろそろ駄目かと思ってたけど」

 どうやら、知らないうちに大半の魔物は倒していたらしい。
 まぁ、あれだけ戦い続けて、魔物を倒し続けていたんだから、減っているのはわかっていたけど、そこまで頑張っていたとは……大きな魔物に邪魔されて、視界が塞がれていたからわからなかった。
 ユノやエルサの頑張りも大きいし、俺一人だけの成果じゃないけど、やり遂げた実感が少しだけ沸いてきたかな。
 もう少し魔物の攻撃をしのぎながら、ユノが頑張ってくれたら応援も必要なかったのかも。

 ともかく、俺やユノの周囲に魔法や矢が降り注いだのは、俺を標的にしたかららしいけど……ユノがいなかったら本当に危なかったんだけど……。
 ユノがいるからこそ、なんとかなると思っての事だとは思うけどね。

「とにかく、リクさんも無事だし、街も皆も無事よ。良かったわ」
「そうだね……大きな被害もなかったんだし、それを喜ぼう。はぁ……疲れたからさすがに休みたい……」
「街へ戻って休みましょう?」

 体もそろそろ限界なようで、とにかく休みたい欲求に駆られる。
 とにかく今は、何も考えずに泥のように寝たい気分だね……。

「私も疲れたのだわー、ふわぁ~……眠いのだわ」
「あれ、いつもの場所じゃなくて、私なの?」
「リクは汚れているのだわ。それに、魔力も流れて来ないから、今はこっちなのだわー」
「汚れてるって、酷いなエルサ……」
「うふふ、まずは魔物の血を洗い流さないとね?」
「あ、モニカさんも汚れてる……ごめん」
「いいのよ、これくらい。リクさんの頑張りに比べたら、ね?」
「そうかな? ははは……あ……」
「ん? どうかした、リクさん?」
「いや……なんでもないよ……」

 エルサはいつもとは違い、俺ではなくユノに抱かれるようにふわふわ飛んですっぽり収まった。
 モフモフが感じられないのが残念だけど、今はお互い魔物の返り血で血塗れだから、それどころじゃない。
 濡れてペッタリしているから、モフモフじゃなくなっているからね……それに、魔力も少なくなってエルサに流れていないようだから、仕方ないと思っておこう。
 自分も汚れているのに、俺だけ汚いような言い方はちょっと不満だけど……。

 と、笑っているモニカさんの方を見ると、胸辺りを中心に服が赤く汚れているのに気付いた。
 さっきモニカさんが来た時に、俺へと抱き着いたのは既にわかっている事だけど、その汚れを見て俺を包んでいたのがどの部分がはっきりと理解してしまった。
 微妙に理解しちゃいけない気がして、考えないようにしていたんだけど、それを見たらいやがおうにもわかってしまう。
 やっぱり、あの幸せな感触はモニカさんの……。

「そう? 何か変よリクさん? 顔も赤くなっているような……血が付いているから、そのせいかもしれないけど」
「いや、うん。本当に何でもないから……ん?」
「どうしたの?」

 俺の顔を覗き込むモニカさんに、顔が熱くなるのを感じながら、どうにか誤魔化そうとする。
 モニカさんの方は無理矢理切り替えたようだから、もう平気なんだろうけど、どうにも俺はこういうのはどうしたらいいのかわからない……。
 とにかく誤魔化して街に帰ろうとしていると、視界の隅で何かが動いたような気がした。
 首を傾げるモニカさんの前に立ち、そちらに視線を向けた瞬間……。

「GYUUUUAAAAA!!」
「きゃっ!」
「危ない! つぅ……このぉ!!」

 突然、魔物の死骸が積み重なっている下から、マンティコラースが飛び出してきた!
 モニカさんを庇うようにして立っている俺に向かって、突撃して来るマンティコラース。
 咄嗟の事で、悲鳴を上げるモニカさんの声を聞いた瞬間、痛みを感じる腕を無理矢理動かして、剣を持ち上げる。
 体当たりをするつもりだったのか、一直線に向かって来るマンティコラースの顔に、剣を突き刺し、足を踏ん張って勢いを止めた。

「まだ残っていたの! やー!」
「ぶわぁ!? だわ~あ~!?」

 ズザザ……と重さで少し押されて踏ん張った足が地面を滑る音を聞いた瞬間、横からユノが左手にエルサを掴んで振り回しながら、右手の剣でマンティコラースの体を両断。
 助かったけど、わざわざ左手でエルサを振り回さなくても……かわいそうに。
 動かなくなったのを確認しながらマンティコラースを見ると、、尻尾は既に斬り取られていたから、魔法が降り注いだ時か、俺達が戦っている時に、尻尾だけやられて死骸に埋もれていたため、まだ無事だったんだろうね――。


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