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空から飛来する物

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「リク、お待たせなの! エルサが助けてって言ってたから、助けに来たの!」
「ユノ……いや、ありがたいけど……大丈夫なのか?」

 一直線に魔物の中を突撃してきたユノは、俺やエルサと同じように血塗れだ。
 ユノの事だから、怪我をしたとかではなく、返り血なんだろうけど……見た目が幼い少女が血塗れというのは、ある種インパクトがある。

「大丈夫なの! すぐに蹴散らしてやるの!」

 血塗れでやる気満々のユノ……蹴散らすというより剣を使ってだろうというのは、どうでもいいツッコミか。

「エルサが教えてくれたけど、リクはちょっ頑張り過ぎなの! 魔物、ほとんど私の方へ来なかったの!」
「そう言われてもな……被害を出さないために、できるだけ魔物を街へ近付けたら行けないと思っていたから……」
「私に任せれば問題なかったの。もう数十体くらいなら大丈夫だったのよ? でも、おかげで元気なの!」
「あ、あぁ……そうか……」

 魔物の包囲へと自ら飛び込み、尚も元気なユノ。
 もう少し、手加減というか魔物を街に向かわせても良かったと言われてもなぁ……さじ加減が難しいところだ。
 多過ぎても、被害が出てしまうだろうし……。
 
「リク、ちょっと下がっておくの!」
「え? でも下がるって言っても、囲まれているから……」
「私が切り開いたの! だから、そこなら大丈夫なの!」
「あー……」

 魔物に周囲全てを囲まれている状態で、何処へ下がればと思ったが、言われて見れば確かにユノが一直線に通って来た道は、開けていた。
 というより、魔物達の死骸が積み重なっているおかげで、そこに他の魔物が来れないだけか。
 まぁ、死骸が邪魔をして視界を塞いでいるせいで、俺がそこから包囲の外へ行ったり、外側の様子を見たりはできないけど。

「行くの! ……んっ」

 今まで俺がいた魔物達による包囲の中心、そこでユノが剣を構える。
 背中に盾を背負っているが、使うつもりはないようだ。
 ユノなら早々魔物に傷付けられる事はないんだろうし、誰かを守るためじゃないから、今は必要ないんだろう。
 両手で剣を持ち、眼前へと掲げている。

 今まで魔法だとか、魔物からの攻撃がずっと続いていたのに、今は少しだけ静かになっている。
 おそらく、突撃して来たユノが一瞬で道を切り開いて、複数の魔物を倒したのを見て驚いたり戸惑ったりしているせいだろう。
 だけどそれも、一瞬の事でまたすぐに攻撃が再開されるだろう。
 今は、その一瞬を利用してユノが力を溜めている様子だ。

「最適な一手! 最適な一手!」
「うぇ!?」
「最適……最善? なんだったっけ?」
「いやいやいやいや! 最善の一手だけど……ユノも使えるのか!?」
「お爺ちゃんに使えて、私に使えない道理はないの!」
「それは……そうかもしれないけど……」

 頭上から、再開された魔法が降り注ぎ始めた頃、ユノが動き出した。
 技の名前を叫びながら、魔法すらも剣で斬り裂き、周囲の魔物を倒していく。
 技の名前は間違えているし、本来叫ぶ必要もないんだけど……ユノも使えるのか……ちょっとどころではなく自信をなくしそう。
 いや、ユノは元神様だし、技術は元々凄かったというのは間違いないのだから、仕えてもおかしくないか。

 それこそ、グリーンタートルの甲羅を斬ったりしていたのも、最善の一手と似たような事なのかもしれないし。
 だけど、ユノが最善の一手を使えたとしても、所詮は剣を使った攻撃。
 マンティコラースを顔や胴体、尻尾を別々に斬るのが面倒だからと、全て縦に一閃して切り裂いたのは驚いた……最善の一手ってそんな事もできるんだ、というか、剣先から剣閃のようなものが出ている気もする。
 それはともかく、俺は体力的にも多少戦える程度だし、ユノが頑張っていても相手にできる数には限界がある。

 無限の体力で無限に戦えるわけでもないし、さっきそれっぽいのを使った感覚だと、最善の一手は体にも負担がかかる。
 さすがに全ての魔物を倒すまで、ずっと使い続ける事もできないだろう……。

「ユノ、もう少し加減をして戦った方が、長く戦えるんじゃない……かっ!」

 ユノにだけ任せるわけにもいかないので、剣を持ち上げるのも億劫な体に鞭を打って、魔物を倒しながら注意する。
 近付き過ぎると、ユノの邪魔をしてしまいかねないので、少し離れた場所でだが。

「大丈夫なの! もう少しであれが来るの!」
「あれ……?」

 ユノが言うあれとはなんなのか、俺にはわからないが……ともかく大丈夫というのなら、信じるしかないか。
 エルサが街へ向かってから、しばらくの間一人だったせいもあって、誰かと一緒に戦える事に心強さを覚えつつ、なんとか戦い続ける。

「ぐぁっ!」
「リク!?」
「大丈夫だ。俺は気にせず、ユノはそのまま戦っててくれ」
「……わかったの! このぉ!」

 鈍った動きで、キュクロップスの蹴りに直撃してしまった。
 左腕に当たり、その場で耐える事もできず、少しだけ飛ばされる。
 ユノが俺を守ろうと、盾を背中から降ろそうとしていたので、慌てて止める。
 俺の事を守るよりも、今はユノが思いっきり戦ってくれた方が、魔物の数を減らせそうだしね。

「つぅ……折れては、いないと思うけど……さすがに痛くて動かせないや、ははっ」

 キュクロップスの巨体から放たれた蹴りを受けて、うでが変な方向に曲がるなんて事もなく、痛いだけで済んでいるのは、我ながら頑丈だと思う。
 だけど、痛みに慣れていないせいもあって、ズキズキとする左腕が挙げられなくなってしまった。
 無理をすれば使えるけど、痛みで動きが鈍るくらいなら、このまま使わない方がいいか。
 幸い、俺は右利きなので剣を振るのに支障は……多分ない。

「っ!? リク、こっちへ!」
「どうしたんだユノ!?」
「いいから早くなの! っ!」
「どわ! ユノ? って、おぉう!?」

 左腕を垂らしたまま、ユノが来る前の怪我で軽く痛みのある右腕を使い、なんとか戦い続けていたある瞬間。
 急にユノが空を仰いで、俺を呼んだ。
 どうしたのかと疑問に思ったが、急いでいるようなので、飛んで来る魔法を避けながらユノの近くへ。
 すぐに俺の頭を抑えつけて地面に伏せさせ、自身の体で庇うようにしながら背中の盾を、左腕で空へと突き出した。

 次の瞬間、ドドドドッ! というような音と共に、飛来する何か。
 魔物が放った魔法か何かか?
 ユノが庇ってくれたおかげで、俺には当たる事はなかったけど……盾の方には当たっていたようで、俺に覆いかぶさっている小さな体から、衝撃は感じられた。

「エルサ、やりすぎなの。ここに私達がいる事がわかっているはずなのになの……」
「エルサ? これはエルサの魔法なのか? でもあいつ、魔力がもう少ないはずじゃ?」
「違うの、エルサがやった事ではないの。でも、指揮をしているのはエルサなの。あと、お爺ちゃんも」
「お爺ちゃん……エアラハールさんか? でも指揮って一体何が……?」
「だわーーー!!」

 俺の頭の上でぼやくユノ。
 エルサの名前が出て思わず聞くが、どうやら今飛来した何かは、エルサが関係しているらしい。
 でも、指揮とかエアラハールさんとか、何がどうなっているのか要領を得ない。
 飛来する物は落ち着いたようなので、ともかく状況確認をしようとしていると、聞き覚えのある叫び声。
 さっきユノが来た時と、微妙に似ているね……叫ばずにはいられないのかな?
 空から聞こえる、暢気な声の主は……。

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