上 下
598 / 1,897

エクスブロジオンオーガの違い

しおりを挟む


「ふっ! ……ん?」
「ギギィ!」
「ギィ! ギィ!」

 ある程度慣れてきたもので、動きの遅いエクスブロジオンオーガの攻撃を避けながら、剣を使って倒していく。
 ものの数分で半分くらい倒せたかな。
 目の前にいたエクスブロジオンオーガに剣を突き立て、致命傷を与えて爆発させる。
 小さい傷程度じゃ爆発しないけど、大きな傷を与えたら爆発するから、止めを刺す手間が省けるとも言えるかもね。

 これも何度か戦って慣れた事で、どれくらいのダメージを負わせたら爆発するかが、なんとなくだけどわかってきたおかげだね。
 部位を斬り離したり意識を完全に奪うまでしなくとも、放っておいたら……という程度の傷を負わせればいい。
 剣に気を使って戦わなければいけない状況では、少しありがたい……爆発で迷惑している鉱夫さん達にとっては、ありがたくないんだろうけど。
 そんな中、爆発をさせた目の前のエクスブロジオンオーガがいなくなった事で気付く。

「あいつだけ、少し違う……かな?」

 残っているエクスブロジオンオーガのうち、一番俺から遠い場所にいるのだけ、違うような気がする。
 鉱山内は薄暗く、他のエクスブロジオンオーガの後ろにいるため、体の一部しか見えないけど、色が違って見えた。

「……考えるよりも、近付いてみれば早いかな。……せい!」
「ギギィ!」

 動きを止めて考えるのではなく、気になったら見に行くという方を選択。
 足に力を込め、まずは一番近いエクスブロジオンオーガに駆け込みながら剣を振り下ろし、爆発させる。
 爆発すると一瞬だけ視界を奪われるので、足を止める事になるけど、ソフィーのように備えなくてもいいのは楽かもね。
 まぁ、爆発に伴って四散する体に当たると、血が付いたりするから、できるだけ避けるようにしてるけども。

 ん……? 血……?
 そういえば、エクスブロジオンオーガが爆発する時、体の一部以外に血液が付いていない……というより、体が四散するのに対して血が飛び散ったりする事はない……。
 今まで気にしていなかったけど、どういう事だろう? 剣で斬った部分からは、ちゃんと血が流れているのに……。
 ……いや、今は考えている状況じゃないね。
 さっき気になった奴もまだよく見えないし、とりあえずそっちを優先しよう。

 考えを打ち切り、エクスブロジオンオーガを倒す事に集中した。
 考えるのは、後でもできるからね。

「はぁ! ……ふぅ。やっぱり、他のエクスブロジオンオーガと色が違う……」
「ギギ!?」

 違和感のあるエクスブロジオンオーガ以外を倒し終えて、残っているのに注目すると、違和感の正体がわかった。
 そのエクスブロジオンオーガだけ、肌の色が赤みがかっておらず、緑色をしていたから。
 とはいえ、やはり土や埃で汚れているため、黒や茶色も混ざっている。

「ギィ……ギィ……」 
「怯えてる? 他のエクスブロジオンオーガとは違うのかな?」

 今まで戦ったエクスブロジオンオーガは、人間……というより俺達を見ると、問答無用で襲い掛かって来ていた。
 まぁ、驚いたりする事はあったけど、人間に対して明確に敵意を持っていた。
 なのに緑の肌色を持つエクスブロジオンオーガは、俺へと襲い掛かる事もなく、仲間と言える他のやつらがいなくなった事を確認するように、顔をキョロキョロとさせながら、俺から後退りをしている。

「うーん……怯えてる魔物を倒すのは、気が引けるけど……」

 散々エクスブロジオンオーガを倒しておいて、今更だろうけど、やっぱり怯えてこちらに向かって来ない相手を倒すのは気が引ける。
 多分、エアラハールさんとかがいたら、甘いと言われてしまいそうだけどね。

「ギィ……ギッ!」
「っ!?」

 どうしようかと考えていたら、突然残ったエクスブロジオンオーガが、こちらへ手を向けた。
 怯えた様子なのはそのままだけど、力を込めたように思う手からは目に見えない何かが飛び出したように感じる。
 その瞬間、俺の体に見えない何か……多分魔法だと思うけど、それが当たって弾けた。

「ギィ! ……ギ? ギギ!?」
「今の、風の魔法……だよね? アルネとかが使ってた……」

 エクスブロジオンオーガからは、一瞬だけどうだ! というような声が聞こえたけど、俺が傷を負う事もなく魔法を受けて何事もない事を確認し、驚いた様子で声を上げていた。
 見えない魔法……確か、アルネやフィリーナが使っていた風の魔法は、目で見えなかったっけ。
 風の刃……同じような魔法だとすると、アルネ達の威力が弱い魔法を使ったんだと思う。
 幸いにして、俺にはよくわからない魔力の防御があるから、ほとんど何も感じなかったけど、身に付けている革の鎧……ではなく、その下に着て鎧から出ている部分の服が少しだけ切れていた。

 やっぱり、風の刃を放ったって事なんだろう。
 さっきまで、一切魔法を使って来なかったエクスブロジオンオーガ。
 鉱夫さん達は、発見した当初は使っていたと言っていたけど、俺が見るのは始めてだね。
 やっぱり、一体だけ緑色の肌をしているのは、何か理由があるのかもしれない……。

「ギ! ギ!」

 魔法でビクともしない俺を見て、さらに怯えて混乱した様子のエクスブロジオンオーガは、何度も同じ魔法を放つ。

「うーん……怯えてるのを倒すのは気が引けるって言っても、魔物だし、話は通じそうにないからなぁ……仕方ない。……はぁ!」
「ギギィーー!?」

 魔法自体は大したことがなくても、相手は魔物。
 このまま逃がすわけにもいかないし、連続で魔法を放っているから、そろそろ服がボロボロになってしまいそうだ。
 仕方なく、剣を構えて魔法を放つエクスブロジオンオーガがかざす手の横をすり抜けさせ、そのまま胸部へと突き刺してすぐに抜き去る。
 断末魔のような声を上げ、エクスブロジオンオーガの目に光がなくなり、爆発……しない?

「……あれ?」

 少しだけ身構えていた体の緊張を解き、ピクリとも動かなくなったエクスブロジオンオーガを見る。
 大の字になって後ろに倒れ、目は見開かれているけど白目になっている。
 呼吸もしておらず、完全に絶命している事がわかるけど……爆発しなかった。

「えーと……なんで?」

 よくわからないけど、そのエクスブロジオンオーガだけが爆発せず、五体満足と言っていいのかわからないけど、初めて形を保ったまま倒せてしまっている。
 首を傾げつつ、一応時間差で爆発する事がないよう少し様子を見てから、結界を解除した。

「リク!」
「ソフィー。えっと、こいつなんだけど……」
「あぁ、結界の外から見ていた。離れて見ていてもわかったが、やはり肌の色が違うな」

 結界を解除してすぐ、ソフィーが俺に声をかけながら駆け寄る。
 近くに来たソフィーに応えつつ、倒れたまま爆発していないエクスブロジオンオーガを示した。

「爆発しなかったのはなんでだろう……? あ、それとこいつ、魔法を使ったんだ」
「結界の外だと何も音は聞こえないから、わからなかったが……あの手をリクへ向けた時か?」
「うん。アルネ達が使う風の魔法よりも弱かったけどね。ほら……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...