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妙な人物

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「他の街から来た人物ですからねぇ……この街にいる奴らでも、下っ端はいつ働いてもいつ辞めても構わない事になってるんです。大体は上のもんに話をするんですが、何も言わずにいなくなる奴も珍しくはありません。そういうのはほとんどが、この街の人間じゃないですけどね」
「鉱山は範囲も広く、人数も多く必要で過酷な環境だからな。根性が足りなくて止めて行く奴は多い。下っ端まで完全に管理してたら、人手が足りねぇからな」
「そうなんですね……」

 登録制の日雇いバイトとかに近い……のかな? やった事ないからよくわからないけど。
 ある程度慣れて来た人だとかはわかるけど、その日その日で入れ替わる人を、全て管理するには人手が足りないんだろう。
 事務職に人を割くよりも、まず採掘できる鉱夫に人を……という感じだと思う。
 勝手にいなくなるのは問題だと思うけど、それは日本での感覚。
 過酷な職業だから長続きしない人もいれば、体調を崩して街を去る人だっていそうだしね。

「けど、その人がどう変だったんですか? 勝手にいなくなるのは珍しくないみたいですけど」
「まぁ、珍しいのはひ弱に見える細身で鉱夫なんて力仕事をやりたがった事と、エクスブロジオンオーガの事をやけに気にしていたんですよ」
「エクスブロジオンオーガを?」

 エクスブロジオンオーガは、結構珍しい魔物だったはずだ。
 鉱山特有の魔物らしいとは聞いているけど、ブハギムノングでは最近出没し始めただけで、今までいなかった。
 他の鉱山でも、いない方が当然というくらいの魔物だったのに、冒険者でもないその人がなぜ知っていたんだろう?
 いや、元々冒険者をしていたりとか、誰かから聞いて知っていたというのもなくはないだろうけど。

「名前までは知らなかったみたいですがね? 鉱山に出る珍しい魔物がとか、出ると採掘に支障が出るのでは……とかやたら気にしていましたねぇ。そういえば、エクスブロジオンオーガが発見されてから、姿が見えなくなったような気がします」
「大方、珍しい魔物と聞いて興味をそそられたが、実際に見て恐れたんだろうよ。体つきも鉱夫らしくなかったようだし、過酷な仕事で辟易してたところに魔物が出没。下っ端が逃げ出すには十分だ」

 フォルガットさんがいなくなった人の事を、吐き捨てるように言う。
 根性がない人、という事で歯牙にもかけないという事なんだろう。
 鉱夫の仕事は過酷なのは確かだろうし、体育会系っぽい人達だから根性のあるなしである程度見ているのかもしれない。
 もちろん、仕事ができるかどうかも見ているんだろうけど。

「俺んところも、何人かいなくなったなぁ……まぁ、採掘が滞って仕事ができなくなったから、他で探すって奴がほとんどだったが。そいつとは違って、一応俺にも断りを入れて行ったしな」
「仕事がなくなったら、すぐにどっかいっちまう奴は多いからな。魔物まで出ているからなおさらだ」
「エクスブロジオンオーガを気にしていた人物……鉱山内に出てからいなくなった……うぅん」
「いや、変な事を言っちまいましたね。忘れて下さい。多分、どこぞに逃げてそれなりにやってる事でしょう」
「あぁいえ、ちょっとした事でも何が役に立つかわからないので、気になった事を言ってくれて良かったですよ」

 エクスブロジオンオーガに直接関係ない事だからか、話し始めた鉱夫さんに頭を下げられた。
 でも、ちょっとした事でも気付いた事がったら聞いておきたかったから、特に気にしていない。
 話は逸れてしまったけど、なんというか……理由はわからないけど、その人の事が気になっている俺。
 エクスブロジオンオーガが発見される前に街へ来て、名前は出さなくともそれらしい存在を知っていた……。

 実際に、エクスブロジオンオーガが発見された頃合いで姿を消した、かぁ……。
 何かしらの関係性を疑うのは考え過ぎなのかもしれないけど、何かがあるような気がする。
 とは言え、その人がエクスブロジオンオーガを発生させたなんて事はないだろう。
 人間が魔物を発生させられるなんて、聞いた事がない……召喚できると過なら別だけど、凄腕の魔法使いだったら鉱夫として働く理由もないし、人間に大量のエクスブロジオンオーガを呼び出せるとは思えない。
 いや、エルフだったらとかそういう事を考えているわけじゃないけど……サモナースケルトンでさえ魔物を限定して呼び出す事はできていなかったわけだしね。

「すみません、ちょっとその人の事をもう少し聞かせてもらっていいですか?」
「え? 魔物や鉱山に関係してるとは思えないんですが、いいんですかい?」
「何となく気になるので……」
「俺は気にする必要はないと思う。だが実際、調査をしてくれているのはリクだ。――話してやれ」
「わかりました……」

 気になる、というだけだと理由としては不十分だろうけど、聞くだけは聞いておきたい。
 結局、役に立たない事だったとしても、話を聞くだけなら大した手間でもないからね。
 フォルガットさんに促されて、話し始める鉱夫さんへと耳を傾け、しばらく変な奴……という人物の事に付いて話を聞いた。
 ちょっと長話になったためか、帰り道でエルサが食べ物を要求して来るのを宥めるのに苦労したけど。
 ……頭にくっ付いて騒ぐエルサに対してモフモフを撫でながら、話す俺を見かけた街の人達から変に思われなかったか、ちょっとだけ心配だ。


「リク、戻っているか?」
「うん、いるよー」
「失礼するぞ」

 昨日も行った酒場の片隅でエルサに夕食を食べさせ、俺もお腹を膨らませて宿へ戻ったあたりで、ソフィーが部屋を訪ねて来た。
 見計らったかのようなタイミングだけど、まだ髪が濡れてしっとりしているのを見るに、お風呂上りなんだろうと思う。
 ソフィーはモフモフと美味しい物好きな事以外、喋り方からも男勝りな部分があるけど、こうして湯上りで部屋に来るとちょっとドキッとしてしまうのは、男の性なのかもしれないね。
 というか、同じパーティだから本人も油断しているんだろうけど、何も知らない人から見たら、勘違いしそうな状況だよね……何故かモニカさんの怒っている表情が思い浮かんだので、すぐに考えるのを止めた。

「すまないが、髪を乾かしてもらえるか? エルサが途中で寝てしまうのも納得の気持ち良さだからな」
「そういえば最近はやってなかったっけ。まぁ、王城と宿で別だったりするし、仕方ないか」
「あれは安眠に最適なのだわー」

 どうやら風呂上がりで来た理由は、俺が使うドライヤーもどきが目当てだったようだ。
 最近機会がなかったからやってなかったけど、ちょうどいいと風呂上がりに部屋へと来たんだろう。
 エルサもソフィーに同意しているし、いつも途中で体を倒して寝てしまうくらいだしね。
 自分自身が使う魔法だからなのか、俺はどれだけ気持ちいいのかわかりづらいけど、確かに以前ソフィーやモニカさんの髪を乾かすのに使った時に気に入ってくれていた。

 姉さんも気に入ってたから、王城に戻ったらやってあげようかな……一応女王様として頑張っている姉さんへの、弟からのサービスとして。
 そんな事を考えながら、椅子に座るソフィーに後ろから手をかざし、濡れた髪へと温風を吹かせた――。

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