591 / 1,903
妙な人物
しおりを挟む「他の街から来た人物ですからねぇ……この街にいる奴らでも、下っ端はいつ働いてもいつ辞めても構わない事になってるんです。大体は上のもんに話をするんですが、何も言わずにいなくなる奴も珍しくはありません。そういうのはほとんどが、この街の人間じゃないですけどね」
「鉱山は範囲も広く、人数も多く必要で過酷な環境だからな。根性が足りなくて止めて行く奴は多い。下っ端まで完全に管理してたら、人手が足りねぇからな」
「そうなんですね……」
登録制の日雇いバイトとかに近い……のかな? やった事ないからよくわからないけど。
ある程度慣れて来た人だとかはわかるけど、その日その日で入れ替わる人を、全て管理するには人手が足りないんだろう。
事務職に人を割くよりも、まず採掘できる鉱夫に人を……という感じだと思う。
勝手にいなくなるのは問題だと思うけど、それは日本での感覚。
過酷な職業だから長続きしない人もいれば、体調を崩して街を去る人だっていそうだしね。
「けど、その人がどう変だったんですか? 勝手にいなくなるのは珍しくないみたいですけど」
「まぁ、珍しいのはひ弱に見える細身で鉱夫なんて力仕事をやりたがった事と、エクスブロジオンオーガの事をやけに気にしていたんですよ」
「エクスブロジオンオーガを?」
エクスブロジオンオーガは、結構珍しい魔物だったはずだ。
鉱山特有の魔物らしいとは聞いているけど、ブハギムノングでは最近出没し始めただけで、今までいなかった。
他の鉱山でも、いない方が当然というくらいの魔物だったのに、冒険者でもないその人がなぜ知っていたんだろう?
いや、元々冒険者をしていたりとか、誰かから聞いて知っていたというのもなくはないだろうけど。
「名前までは知らなかったみたいですがね? 鉱山に出る珍しい魔物がとか、出ると採掘に支障が出るのでは……とかやたら気にしていましたねぇ。そういえば、エクスブロジオンオーガが発見されてから、姿が見えなくなったような気がします」
「大方、珍しい魔物と聞いて興味をそそられたが、実際に見て恐れたんだろうよ。体つきも鉱夫らしくなかったようだし、過酷な仕事で辟易してたところに魔物が出没。下っ端が逃げ出すには十分だ」
フォルガットさんがいなくなった人の事を、吐き捨てるように言う。
根性がない人、という事で歯牙にもかけないという事なんだろう。
鉱夫の仕事は過酷なのは確かだろうし、体育会系っぽい人達だから根性のあるなしである程度見ているのかもしれない。
もちろん、仕事ができるかどうかも見ているんだろうけど。
「俺んところも、何人かいなくなったなぁ……まぁ、採掘が滞って仕事ができなくなったから、他で探すって奴がほとんどだったが。そいつとは違って、一応俺にも断りを入れて行ったしな」
「仕事がなくなったら、すぐにどっかいっちまう奴は多いからな。魔物まで出ているからなおさらだ」
「エクスブロジオンオーガを気にしていた人物……鉱山内に出てからいなくなった……うぅん」
「いや、変な事を言っちまいましたね。忘れて下さい。多分、どこぞに逃げてそれなりにやってる事でしょう」
「あぁいえ、ちょっとした事でも何が役に立つかわからないので、気になった事を言ってくれて良かったですよ」
エクスブロジオンオーガに直接関係ない事だからか、話し始めた鉱夫さんに頭を下げられた。
でも、ちょっとした事でも気付いた事がったら聞いておきたかったから、特に気にしていない。
話は逸れてしまったけど、なんというか……理由はわからないけど、その人の事が気になっている俺。
エクスブロジオンオーガが発見される前に街へ来て、名前は出さなくともそれらしい存在を知っていた……。
実際に、エクスブロジオンオーガが発見された頃合いで姿を消した、かぁ……。
何かしらの関係性を疑うのは考え過ぎなのかもしれないけど、何かがあるような気がする。
とは言え、その人がエクスブロジオンオーガを発生させたなんて事はないだろう。
人間が魔物を発生させられるなんて、聞いた事がない……召喚できると過なら別だけど、凄腕の魔法使いだったら鉱夫として働く理由もないし、人間に大量のエクスブロジオンオーガを呼び出せるとは思えない。
いや、エルフだったらとかそういう事を考えているわけじゃないけど……サモナースケルトンでさえ魔物を限定して呼び出す事はできていなかったわけだしね。
「すみません、ちょっとその人の事をもう少し聞かせてもらっていいですか?」
「え? 魔物や鉱山に関係してるとは思えないんですが、いいんですかい?」
「何となく気になるので……」
「俺は気にする必要はないと思う。だが実際、調査をしてくれているのはリクだ。――話してやれ」
「わかりました……」
気になる、というだけだと理由としては不十分だろうけど、聞くだけは聞いておきたい。
結局、役に立たない事だったとしても、話を聞くだけなら大した手間でもないからね。
フォルガットさんに促されて、話し始める鉱夫さんへと耳を傾け、しばらく変な奴……という人物の事に付いて話を聞いた。
ちょっと長話になったためか、帰り道でエルサが食べ物を要求して来るのを宥めるのに苦労したけど。
……頭にくっ付いて騒ぐエルサに対してモフモフを撫でながら、話す俺を見かけた街の人達から変に思われなかったか、ちょっとだけ心配だ。
「リク、戻っているか?」
「うん、いるよー」
「失礼するぞ」
昨日も行った酒場の片隅でエルサに夕食を食べさせ、俺もお腹を膨らませて宿へ戻ったあたりで、ソフィーが部屋を訪ねて来た。
見計らったかのようなタイミングだけど、まだ髪が濡れてしっとりしているのを見るに、お風呂上りなんだろうと思う。
ソフィーはモフモフと美味しい物好きな事以外、喋り方からも男勝りな部分があるけど、こうして湯上りで部屋に来るとちょっとドキッとしてしまうのは、男の性なのかもしれないね。
というか、同じパーティだから本人も油断しているんだろうけど、何も知らない人から見たら、勘違いしそうな状況だよね……何故かモニカさんの怒っている表情が思い浮かんだので、すぐに考えるのを止めた。
「すまないが、髪を乾かしてもらえるか? エルサが途中で寝てしまうのも納得の気持ち良さだからな」
「そういえば最近はやってなかったっけ。まぁ、王城と宿で別だったりするし、仕方ないか」
「あれは安眠に最適なのだわー」
どうやら風呂上がりで来た理由は、俺が使うドライヤーもどきが目当てだったようだ。
最近機会がなかったからやってなかったけど、ちょうどいいと風呂上がりに部屋へと来たんだろう。
エルサもソフィーに同意しているし、いつも途中で体を倒して寝てしまうくらいだしね。
自分自身が使う魔法だからなのか、俺はどれだけ気持ちいいのかわかりづらいけど、確かに以前ソフィーやモニカさんの髪を乾かすのに使った時に気に入ってくれていた。
姉さんも気に入ってたから、王城に戻ったらやってあげようかな……一応女王様として頑張っている姉さんへの、弟からのサービスとして。
そんな事を考えながら、椅子に座るソフィーに後ろから手をかざし、濡れた髪へと温風を吹かせた――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる