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酒場の店主からの情報
しおりを挟む「リクの噂は良い物ばかりじゃからのう。逆に気持ち悪いくらいじゃった。これで、多少悪い噂も流れれば、バランスが取れるじゃろ。人には良い面も悪い面もある。良い面ばかり噂されておると、息苦しくなったりもする。それに、良い事ばかり言われておる者は、案外脆いもんじゃ」
そんなものなのかな?
エアラハールさんの言う、良い面も悪い面もある……というのは納得できるけど。
ともあれ、いい噂ばかりでなく、ちょっとした悪い噂もあった方が、噂に縛られて気軽に行動できなくなるような気もするから、これはこれで良かったのかもしれない。
いや、お酒に酔って暴れたという事はいい事じゃないけどね……帰ったら、姉さんに叱られるだろうなぁ。
「それで、肝心の鉱山調査なんだけど……あのお店の人から、ちょっとした話を聞いたんだ」
「ちょっとした話?」
酒場の話を終え、本題である鉱山調査の話を始める。
昨日は俺がお酒を飲んでしまったせいで、できなかったからね。
今日もすでにお昼になるくらいの時間だし、早く話して調査を始めないといけない。
予定では、明日は一度モニカさん達の方へと様子を見に行く事になってるから、今日中に進めるとこまで調査を進めないとね。
まずはと、女店主さんに聞いた話をソフィー達にする。
エアラハールさんは助言をするくらいで、直接関わったりしない事になっているけど、元々が冒険者だったからか、ソフィーと同じように興味深そうな視線を俺に向けていた。
「えーと……あったあった、ここだ。多分この場所だと思うけど……というよりこの先から、エクスブロジオンオーガがよく出て来るらしいんだ」
「ここからか? ……ふむ」
「細い道じゃのう。人間一人通れるかどうか……といったところか」
テーブルに広げた地図を見て、女店主さんに教えられた場所を指で示す。
その場所は、この街から鉱山に入った一番大きな主坑道を少し進み、いくつかの道を曲がった先にある。
口で説明されたから、ちょっと自信がないけど、細い道が長く伸びている坑道って言っていたから、多分ここだと思う。
他にも似たような場所はあるけど、そこが一番長い細道で、道の先は地図では行き止まりになっていた。
「地図では行き止まりになっているし、他の道へ繋がっていないはずなんだけど……この道から、エクスブロジオンオーガが出て来るのを見たって人がいるらしいんだ」
「そうなのか。しかし、その話は組合の方では聞かなかったが?」
「目撃者が少ないからなんだと思うよ。それを見たって人も、下手に刺激しちゃいけないからって、すぐ逃げたらしいし。あと、入り組んでいるから、本当にここかどうかもわからないくらい曖昧なんだって。ここの周辺は、今はあまり採掘されてない場所らしくて、たまたま通りかかったとか言ってたらしいよ」
「鉱夫が坑道で迷うのか……いや、この地図を見れば、それも仕方ないと思うが」
鉱夫だからって、坑道内の全てを把握しているわけじゃないんだろう。
魔物が出る前は、日々採掘をされて新しく道が伸びたり分岐したりしていたようだから、偶然迷う事だってあるかもね。
一応、組合の方で地図は随時更新されているらしいけど、それでも毎日それを見て完全に全体を把握している人なんて、少数だろうし。
「組合としては、不確定な情報を教えるわけにはいかなかったのじゃろう。もしその話が間違いなら、無駄に調査をさせたとして、責任を感じるじゃろうしの」
「この街での冒険者ギルドを見るに、そちらに情報提供というのも考えにくいしな。どちらに行っても、聞ける情報ではないだろう。……暴れた甲斐があったな?」
「いや、暴れないで済むなら、その方がいいはずなんだけどね……?」
信頼できる情報とは言えない……という事を、女店主さんも言っていた。
気になったので、俺がなんとか聞き出しただけなんだけども……。
ともあれ、ある意味で酒場を使って情報収集という事を達成できたわけだ。
ちょっとどころか、普通ではない収集の仕方だけど……お酒は気を付けよう、ほんとに。
「不確定な情報じゃが……それを調べるのも調査のうちじゃ。それなりに深い場所のようじゃから、結構な時間を使うことになりそうじゃがの?」
「それでも、一応調べてみる事にします。今のところ、エクスブロジオンオーガは色んな場所に出て来るとしかわかっていないので、何も情報がない状態ですからね」
「そうだな。何もわからないまま、広くて複雑な行動をさまようよりはいいだろう。むしろ、無駄になる時間はそちらの方が少ないかもしれないしな」
「うん、そうだね」
有力な情報……と言えるか微妙な線だけど、ただ闇雲に坑道内を調べて回るよりはいいと思う。
広いし複雑だし……地図を見ても、あの道がここに繋がって、あっちの道は行き止まりだけどこっちの道は別の所に……なんて、覚えきるのはかなり苦労しそうだ。
それに、実際に入って見たら、もっと違う道があるかもしれないしね。
それを考えると、一応とはいえ目的の場所があるだけマシだと思う。
「それで、エクスブロジオンオーガは、昨日組合で見せたリクのやり方でいいんだな?」
「そうだね。えっと、エアラハールさん。魔法の使用許可なんですけど……」
「仕方がないの。こればっかりは、魔法を禁止して爆発させた挙句、鉱山に悪い影響を与えてはならんしのう。ただし、結界じゃったか? あれだけじゃぞ?」
「はい、ありがとうございます。結界で閉じ込めて、剣を使って倒します。俺自身を含めて包めば、結界は爆発の衝撃を防ぐだけですから」
「それでいいじゃろう」
「リク、それはエルサにもできるのか?」
「うん? んー、多分できると思うけど……どう、エルサ?」
「……ふあ……もちろんできるのだわ。リクのように広範囲にはできないけどだわ、人間を数人包むくらいの大きさなら簡単なのだわー」
調査を優先する場所を決め、今度はエクスブロージオンオーガと遭遇した時の対処方法。
これはもちろん、昨日フォルガットさんに見せた方法で、結界で包んで爆発の衝撃を鉱山へと伝わらせないようにする……というやり方。
エアラハールさんにお願いして、魔法を使う許可出してもらったし、これでモフモフ禁止にならなくて済みそうだ……剣を折らないように気を付けないといけないけどね。
腰に下げているボロボロになった剣の鞘に触れ、改めて気を引き締めていたら、ソフィーからエルサへの質問。
俺の頭にくっ付いたまま、ウトウトしていたエルサは、あくびのような声を漏らしながら答えた。
大きくなった体を自分自身で包めるのだから、エルサにもできるか。
「なら、リクは自分が戦う時に結界を。私はエルサに結界を使ってもらって、そこで戦う事にする」
「わかった。そうだね……役割分担はした方がいいか。それじゃ、エルサはソフィーと一緒にいた方がいいかな」
「仕方がないのだわー」
坑道内は当然狭い場所である事が予想されるので、常に俺が戦えるとは限らない。
人一人分の幅しかない道を通っている時に、前後からエクスブロジオンオーガが来たりすると、どちらか一方を俺が担当し、もう片方をソフィーが……という戦いができるから、名案だね。
ソフィーの提案に頷いて、エルサを頭から剥がして渡す。
くっ付いていたモフモフがなくなって少し寂しいけど……調査の間だけだから我慢だ。
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