546 / 1,903
ガッシリした人の多い街
しおりを挟むブハギムノングの街に入って、ソフィーやエアラハールさんと三人で、周囲を見渡してみる。
人の姿はちらほらと見えはするんだけど、建物は大きな物がなく、ボロボロではないけど年季が入っている。
さらになんというか……さっきから見かける人達の元気がなさそうに見える事から、雰囲気が暗い気がして、寂れているような印象だ。
元気がない人達……ほとんど男性なんだけど、筋骨隆々とまではいわなくとも、結構ガタイがいい人が多い事から、あの人たちが鉱夫なんだろうね。
時折、ツルハシだったりハンマーだったりを持っている人を見かけるから、間違いないと思う。
持っている道具の大きさは大小さまざまで、両手で持たないと重そうな物から、手のひらサイズの物を持っている人もいた。
腰のベルトに取り付けて、いつでも使えるようにしている人もいたね。
ノミに近い形の物は……なんだっけ、確かタガネだったかな?
それも、大きさはさまざまだった。
「申し訳ない、冒険者ギルドはどこにあるか、わかるか?」
「あん? あんたら冒険者か? だったらあっちだ……」
俺が見かける人を観察して、鉱夫の人達が使う道具に感心していると、ソフィーが近くを通りがかった男性に声をかけた。
いけないいけない、観察している場合じゃなくて、まずは冒険者ギルドに行って話を聞かないとね。
ソフィーが声をかけた男性も、ガタイが良く身長も高い人だった。
二メートル近い身長のその人は、軽々と身の丈程もあるツルハシを持っている事からも、鉱夫である事がわかる。
道を教えてくれた男性にお礼を言って、ソフィーやエアラハールさん達と一緒に、街中を歩く。
冒険者が少ない場所でもあるため、旅装をしている俺達の姿は街の人達から珍しく映ったんだろう、色んな所から見られている気がする……。
「ここ……だよね?」
「そのようだ。はっきりと書いてある」
「……小さいのう。ワシはここに来るのは初めてじゃが、これ程小さい冒険者ギルドというのは、ほとんど見た事がないぞ?」
しばらく歩くと、教えてくれた通り冒険者ギルドらしき建物があった。
らしきというのは、その建物が冒険者ギルドの使っている建物に見えなかったからだ。
周囲にある民家よりは少し大きいけど、二階建ての建物で、エルサが大きくなったら軽く踏みつぶせそなくらいの大きさだ……そんな事はしないけども。
今まで見てきた冒険者ギルドには、広い体育館……訓練場が併設されていたのに、ここにはないようだ……冒険者が少ないからなんだろうね。
この街だと、冒険者になるよりも鉱夫になった方が見入りがいいだろうし、安定して仕事がありそうだし……他から来る冒険者も少ないんじゃ、規模も大きくできないのかもしれない。
その建物の入り口横には、俺よりも少し背の高い木の板が立てかけてあり、そこにでかでかと「冒険者ギルド・ブハギムノング支部」と書かれているから、間違いないんだろう。
「とりあえず、入って見ようか?」
「そうだな。まずは話を聞かない事には、依頼がどうなっているのかわからないからな」
ソフィーと話し、その建物へと入る。
入り口のドアを開けるとき、やけに木の扉から音がしたけど、それはあまり手入れされていないうえ、建物が古いからなんだろうね……。
「……こんにちわー?」
「あら、珍しい。こんな辺鄙な場所に冒険者かしら?」
中に入りながら声をかけると、すぐに奥から女性の声が聞こえた。
建物の中は、入り口からすぐの場所に椅子が幾つかありと、その先にカウンターが設えられていた。
そのカウンターの奥に扉があり、そこから声がしたようだ。
「えーっと、依頼を受けて来たんですけど……?」
「ちょっと待ってねー、今そっちへ行くからー。……っと、お待たせ! あら、若い冒険者ね? こんな寂れたギルドに何の用かしら?」
もう一度奥へ向かって声をかける。
聞こえた声に従って、少しだけ待つと扉の奥から女性が一人こちらへ来る。
その女性は、大体20代くらいに見えるけど身長が低く、小さな耳と大きなモフモフ尻尾が付いていた。
獣人だろうけど……リスっぽいかな?
「えーと、王都から調査の依頼で来たんです」
「王都!? はー、ようやく来たのね。いつ依頼を向こうに頼んだか忘れちゃうくらい……ようやくねぇ……」
俺が王都からというと、耳と尻尾をピンと立てて驚く女性。
いつ頼んだか忘れるくらい前って……ルジナウムの街が、一カ月前くらいって言っていたから、多分そこまで前じゃないんじゃないかなぁ?
長く見ても二カ月くらいだと思うけど……それくらいの事を忘れるって、この冒険者ギルドは大丈夫なのか心配だ……。
それとも、忙し過ぎて忘れてた……なんて事は、建物を見る限りありそうにないね。
一応、今いる場所は十人程度が入れそうな空間になっているけど、俺達の他には誰もいないし……。
受付にも、獣人の女性以外はいない。
「えーと……?」
「あぁ、ごめんね。ようやく来たからちょっと驚いてね。えーと、まずは冒険者カードを見せてくれるかしら? ランクなんかの確認もしたいしね。……それにしても、王都はなんでこんな若い子達を……一人、爺さんが混じってるけど……絶対ランクが高いなんて事は……えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
「うるさいのう……」
驚いた様子のままな女性に、どうしたらいいかを尋ねるように首を傾げると、ようやく落ち着いたようだ。
女性に取り出した冒険者カードを渡し、確認をしてもらったんだけど……何やらブツブツ言いながらカードを見た女性は、耳と尻尾を立てるだけでなく、その毛まで逆立てるようにして驚いた。
驚きと共に叫び声も上げたので、エアラハールさんがうるさそうにしていたけど、まぁ……仕方ないかな。
とりあえず、尻尾と耳がモフモフした触り心地そうだなぁ……もちろん、エアラハールさんのように無許可で触ったり、初対面で触らせてくれなんて、女性に頼んだりはできないけど。
……我慢我慢。
「えぇぇぇぇぇぇAランクゥゥゥゥゥ!?」
「えっと、はい……」
驚きの声から、Aランクに繋げて叫ぶ女性。
よく息が続くなぁ……と思いつつ、頷いておく。
「ししししし……しかも、お名前がリク……ですって!? ……若い見た目とこの名前、しかもはっきりと冒険者カードに記載され、さんぜんと輝くように記されているAランク! まさかあの!?」
「……あのと言われても、どれかわかりませんが……とにかく、リクです」
「ほ、ほほほほ、本物の英雄リク様!?」
「えーと……まぁ、そんな風に呼ばれたりもしますね」
カードを凝視するように見て、驚き続ける女性。
見た目としては小柄……というより、ユノより少し大きいくらいの獣人さんだけど、声は大きい。
……ちょっと耳が痛いなぁ。
ふとソフィーとエアラハールさんの方を見てみると、二人共耳を塞いでいた。
エルサも、結界を張っているような感覚が後頭部から感じる……どうせなら俺も包んで防音して欲しかったなぁ……。
まぁ、そんな事をしたら話を聞くための会話もできなくなるから、しなくて正解なんだけどね――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる