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手加減をするための剣
しおりを挟む思い返すと、ユノはしっかり相手の攻撃が当たらないように動いていたと思うし、それこそ相手に攻撃させないように動いていたとも思う。
ただがむしゃらに、相手を斬る事だけが技術じゃないという事に、今更ながらに気付かされた。
もしかすると、これに気付かせるためにモニカさん達を使って、二人がかりで俺に相手をさせたのかもしれない。
俺からの攻撃をさせなければ、防御をどうするか考えないといけなくなるからね。
「ふむ、その顔を見ると気付いたようじゃの。リク、お主は常に緊張状態でいる事は既に指摘した通りじゃが……それは防御面に不安があったからじゃ。自分が避ける技術、受け流す技術に優れていれば、ある程度緩ませても対処はできるものなのじゃよ。じゃが、リクはその頑丈さがあるためにそちらに考えが回らず、攻撃する事、相手を打ち倒す事ばかりを考えておるようじゃった。攻撃する時は、当たり前じゃが体に力を入れなければならぬ。向こうが先に攻撃して来たとしても、こちらが攻撃する事で全て弾き飛ばせるのが、原因かのう……」
「……そう、かもしれませんね」
「じゃから、攻撃する直前まで体を緩ませ、相手をよく見て一瞬で切り替える事で、力を込めて攻撃もしくは防御や回避といった行動に移る事ができないのじゃろう。ワシを持ち上げた時のように、なまじ力があり過ぎる故の弊害……とも言えるかもしれぬ」
「……」
難しい表情になっている自分を自覚しながらも、回避の事、防御の事を考えていると、エアラハールさんはようやく気付いたかとでも言うような表情だ。
そこから、俺がどういう状態だったかの分析をされた。
確かに、今まで薙ぎ払えばいい……とまでは考えてはいないけど、大体の攻撃は当たっても大丈夫だし、力任せに剣を振れば、相手はほとんど斬り裂けるか弾き飛ばせていた。
技術が足りないと感じていたのは、それに対する危機感のようなもののせいなのかもしれない。
逆に、無意識のうちに自分を過信していて、防御する必要がないと感じてしまっていたため、いつでも攻撃ができるよう、常に緊張状態でいた……という事かな。
攻撃する気満々だから、常に体へ力を入れていたし、いつでも剣を振れるようにしていた事が、エアラハールさんの言っている緊張状態なんだろう。
ユノが剣を振る時、自然体で動いているようにも見えた事を考えると……俺は今まで、初心者のようにガチガチになった状態で剣を振るっていた状態だったのかもね。
いや、剣を使い始めてからの期間を考えると、実際に初心者に毛が生えた程度なんだけども。
「じゃから、これからしばらくの間リクには力を制限してもらう」
「力を、制限……?」
「うむ、そうじゃ。魔物相手に手加減しろという事じゃ」
「手加減……」
俺なりに、今まである程度は手加減をしてきたつもりではある。
完全に力任せに剣を振れば、今使っている剣が魔法具な事もあって、周囲に影響を及ぼしかねないから。
それに、オシグ村の魔物討伐で試したように、グリーンタートルの甲羅を素手で割る事もできたのだから、その力を平気で使うわけにはいかない。
だけど逆に、本当に全力で戦うという事も実はした事がない。
それは多分、センテ近くの森で初めて戦った野盗を、勢い余って殺してしまってから……なのかもしれない。
魔物相手にも、ある程度力を制御しているつもりで戦っている。
というより、魔物の場合は魔法を使ってどうにかする事もあるから、全力が出せないという事もあるんだけどね。
なにせ、本当に全力を出すとヘルサルでゴブリン相手にやってしまった事のようになるから……一応俺も、魔物を見てできるだけ周囲に影響がないように考えて魔法を使っているから。
……時折、考えていたよりも威力があったりで、城門周辺を傷だらけにしたりもしたけどね。
ともかく、意識的にも無意識にも、今まで手加減をしてきているのだから、これからさらに手加減を……と言われても、どうすればいいのかよくわからない。
「ですがエアラハールさん、魔物を相手にする場合に手加減をしていたら危ないのでは?」
俺が俯いて考え込んでいると、ソフィーが代わりにエアラハールさんへ質問をした。
確かに、手加減をし過ぎると魔物を倒せなくて……という事も起こりえるからね。
「リクならば平気じゃろう。まぁ、多少痛い思いをするだけじゃ。それが嫌なら、回避や受け止め、流す方法を学ぶ事じゃな。もちろん、周囲に被害が及ぶ可能性もあるのだから、相手にもよるがの。それに、じゃからこそ、ワシがリクに同行するのじゃ」
「エアラハールさんが同行する事が、ですか? リクさんや私達に訓練をという事で、話はしましたけど」
「うむ。それもあるがの。リクがどれだけの手加減をするのか、ワシならば判断できる……かもしれん。とりあえず、この国に出るような魔物とは戦った事があるしのう」
「その時々によって、手加減の内容を変えると?」
「その通りじゃ」
多少の痛い思い、というのはできる事なら痛くはないと思うけど……それもエアラハールさんの訓練に必要な事であれば、仕方ない。
さすがに、大きな怪我をするとまでなったら、反対するけどね。
誰だって、進んで痛い多いなんてしたくないものだし。
ともあれ、エアラハールさんが俺達が冒険者として、依頼を遂行する場合に同行するというのは、そういう考えもあったみたいだ。
元Aランクだから、様々な魔物と戦った事のある経験が生きて来る……のかもしれない。
「差し当たっては、この剣を使って戦って見る事じゃ」
「この剣は……エアラハールさん、さっきまで剣を持っていませんでしたよね?」
俺に向かって鞘に入ったままの剣を差し出して来る、エアラハールさん。
その剣はショートソードで、初めてマックスさんに借りた剣や、ユノが使っている剣と似たような物だ。
ただ、相当使い込んでもいるようで、鞘に入っているので中身は確認できないけど、飾り気のない外観は、大分くたびれているように見えた。
「当然じゃ、城に入る時に預けないといけないからの」
「では、なんで今持っているんですか?」
俺が初めて王城へ来た時、入場の際に剣を預けるという手順があった。
今では、勲章を授与された事の他に、バルテルに捕まった姉さんを助けた事や、城に押し掛ける魔物を倒した功績で、俺やモニカさん達は武器を持って入る事を許可されているけども。
……まぁ、顔パスで出入りできているから、割と後になってそう言えばと思い出したんだけどね。
ヒルダさんに聞いたら、許可が出ているので気にしなくて大丈夫という事だった……信用されてるなぁ。
「ん? この剣はほれ、そこに合った物を拝借しただけじゃ」
「……城の備品じゃないですか!」
「多くあるのじゃから、一本くらい拝借しても構わんじゃろう? それに、リクが一言言えば、もらえそうじゃしの」
エアラハールさんが示した先は、木剣を含め訓練に使う道具が保管してある場所。
学校によってあるかないかがわかれるかもしれないけど、体育館の中にある、体育倉庫を思い浮かべるとちょうどいいかもしれない。
武器が多くあるため、いつもは扉が閉まっているのが、今は空いていた……エアラハールさんがあけたんだろうな、いつの間に……。
その場所自体は、訓練場を使う人が自由に出入りしてもいい場所だから、それ自体は咎められないだろうけど、そこの物を盗って来るのはだめだろう……。
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