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引き出したお金でエアラハールさんへ支払い
しおりを挟む「そんなに警戒せんでも、今は何もせんわい。……小さい嬢ちゃんが見張っておるでな」
「小さいは余計なの!」
「ははは、さっきは少し騒ぎを起こしましたけど、今はユノが何もしないように見張っているので大丈夫ですよ」
「そ、そう? ……リク君が言うなら、そうなのかしら。何かあったら、責任を取ってね?」
不貞腐れるように言うエアラハールさんに、小さいと言われたユノが小突いている。
エルサが何かしようとした時の守りで、ユノが止める役か……ドラゴンと元神様の手を煩わせるお爺さん、と考えると、エアラハールさんが凄い人に思えるから不思議だ……いや、元Aランクだから凄い人なんだけど。
とりあえず、エアラハールさんの事はユノに任せて、マティルデさん達には何もしないだろう事を伝えると、少し安心したようで、椅子を元に戻した。
責任を取ると言うのが、どういう事になるのかわからないけど、俺の右隣でモニカさんが剣呑な雰囲気を出していたので、触れない方が良さそうだ。
というかマティルデさんは、年齢不詳でお色気を前面に出している人だから、エアラハールさんが痴漢を働こうとしても気にしない人かと思っていたけど、違うみたいだ。
意外に身持ちが固いのかな? というのは、見た目の印象からそう感じるだけで失礼かもしれないけど。
ミルダさんの方は、ロータのような少年が好みだろうから、エアラハールさんを避けるのはなんとなくわかるね。
「それで、なんで元Aランクと現Aランクが一緒にいるの? 多くないAランク同士が組むという事はあるけれど、引退した人物と現役の冒険者が一緒にというのは珍しいわね?」
「それなんですけど……」
首を傾げるマティルデさんに、エアラハールさんと一緒にいる理由を説明する。
冒険者ギルドに来たのは、久しぶりに王都に来たから、挨拶というか様子見に来ただけで、特に理由はないんだけどね。
「ふーん、元Aランク冒険者が、現Aランク冒険者にねぇ……? 大丈夫なのかしら? いえ、確かに引退した冒険者が、これから冒険者を目指したり現役の冒険者に教えを説くという事は多いけれど……リク君にそんな事が必要なのかしら?」
「いやいや、俺はまだまだ冒険者になって日が浅いですから、経験豊富な人から教えられる事はありがたいですし、貴重ですよ」
「確かに……リク君は最速でAランクになっているから、経験という意味では足りないのかもしれないけど……剣を教えるねぇ? 大丈夫なの?」
「失礼なおなごじゃのう……」
「簡単に手合わせをしましたが、有効な一撃を与える事すらできませんでしたよ」
「そうなの!? ……確かに、女好きのエアといえば、剣の腕が立つというのも有名だったかしら? 昔の事だから、話に聞いただけだけれど」
経験という意味では、Aランクまで昇格し、Sランクになる可能性もあったというエアラハールさんに俺は遠く及ばない。
そういう意味でも、頼りになると思っているし、教えてくれるのはありがたいと思う。
本題は剣を教えてもらう事だけどね。
経験という話で一応は納得したマティルデさんだけど、それでもまだ俺に必要なのかと疑いの視線をエアラハールさんに向けている。
その視線を受けて顔をしかめるエアラハールさんだけど、軽く聞いた昔の悪名だとか、冒険者ギルドには行ってすぐに起こした騒ぎとかを考えると、確かに疑いたくもなるかな。
俺も、初めて会った時は、少し大丈夫かと心配になったくらいだし……まぁ、実際に手合わせをして確かな腕を持っていると納得したけどね。
マティルデさんやミルダさんは、現役の頃のエアラハールさんを話に聞いた程度だろうし、実際に見ていないんだからわからなくて当然かもしれない。
「まぁ、そういう事で、しばらく俺とモニカさんとソフィーが、エアラハールさんに教えてもらう事になったんです。それでなんですけど……冒険者ギルドに預けていたお金を、少し引き出そうかなと思って……」
「あぁ、成る程ね。生計を立てるために、引退した冒険者が誰かに教えを説く際にお金を頂く……よくある事ね。――ミルダ?」
「はい。それでは、冒険者カードを。私が手続きをさせて頂きます」
お金が必要になったからという事もついでに説明し、ミルダさん経由で引き出しの手続きを行う。
冒険者カードを渡し、簡単な書類に記入してお金を引き出す……地球での銀行のシステムと少し似ているけど、大体そんな風になるものなのかもしれない。
「では、こちらになります」
「はい、ありがとうございます」
一旦退室したミルダさんが、引き出す分のお金持って戻ってくる。
引き出したお金を受け取った俺とモニカさん、ソフィーはその場で確認し、エアラハールさんへ渡した。
「ふむ、確かに言った通りの金額じゃ。……こんなに簡単に大金を出すのなら、もっと多く言っておけばよかったかのう?」
受け取ったお金を確認しながら、ボソッと呟いていた。
さすがに、これ以上高い金額になると……ちょっと躊躇うかなぁ?
使いどころのないお金になっているけど、元々大金を使った経験がほぼない俺……いや、俺達だから、大きなお金を動かすのは気後れしてしまいそうだ。
そもそも、日本にいた時も一万円を超える物を買う事すら、小一時間悩むような小市民だったのに。
……なんで、使い切れないような大金を持っているんだろうか、俺。
「それで、リク君達の用は終わりかしら? 他には……依頼を受けたいと、以前はよく言っていたと思うけど、今回は?」
エアラハールさんに渡した、金貨がたんまり入った麻袋を見ながらお金について考えていると、マティルデさんから声がかかった。
依頼かぁ……冒険者としての経験のためにも、困っている人を助けるためにも受けたいとは思うけど……どうだろう、剣の訓練を受けるから、ちょっと難しいかもしれない。
「冒険者の本分は、依頼を受けてそれを遂行し、人々の生活を助ける事じゃしの。ギルドマスターと直接話すという特別待遇じゃ、受ける依頼があるか探すのも悪くないじゃろうのう」
「えっと……エアラハールさんから訓練を受けるのはいいんですか? 今日は昼過ぎからを予定してますけど、依頼を受けたら訓練が滞るんじゃ……?」
「なに、訓練が伸びればその分、料金を追加すればいいでな? 簡単にこれだけの金を払えたんじゃ、それくらいはできるじゃろ?」
「いやまぁ、可能ではありますけど……」
「……それはさすがに……ねぇ?」
「まぁ、余裕はあっても、な……」
冒険者らしく、本分が依頼であると説くエアラハールさん。
だけど、依頼を受けると訓練が滞ってしまう。
一日で終わらせられる依頼というのもあるだろうけど、数日かかったり……それこそ王都を離れないといけないような依頼もあるだろうし、訓練を行えなくなってしまうからね。
だからと考えていたんだけど、訓練が滞った分は、延長料金として追加で払えばと言われてしまった。
確かに、お金はあるし余裕もあるけど……さすがに小心者としては微妙だ。
見ると、モニカさんやソフィーも難しい顔をしている。
モニカさんは、獅子亭のお金関係を管理していた経験もあるから、ポンと大金を出すのは躊躇われるだろうし、ソフィーはソフィーで装備なんかを買いた買ったりもするだろうから、多くのお金を出すのは気が進まないよね……。
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