499 / 1,897
結界と新しい農業
しおりを挟む「そんな事よりも、りっくん?」
「ん、どうしたの?」
「昨日は途中までだったけど、ハーロルトからの報告を聞いたわ。ヘルサルでの結界の事よ!」
「魔物を寄り付かせないための結界だったんだけど……どうかした? 何か悪い事でも……」
「その逆よ。多分、これは農業の革新になるわよ?」
「革新……?」
うーん、魔力を練る事の方で、近い事を聞いたような……?
確か、アルネかフィリーナ辺りが言ったんだったっけ。
そのアルネとフィリーナは、夕食はいらないと言って、書庫へと引きこもった。
なんでも、魔力を練るという事に近い記述を見たという、アルネの言葉によって、その本を探して研究するためらしい。
俺が魔力を練る方法を見せた事で、本に書かれていた事がもしかしたらそうではないかと、思い当たったらしい。
それまでは、何のことが書かれているのか、ほとんど理解できなかったとの事だ。
昔の人も、同じように考えて試してだたんだなぁと思うのと一緒に、何かの参考になったようで嬉しい。
おっと、今はそれじゃなく、ヘルサルでの結界の話だね。
でも、結界を張って魔物を防いだ事が、どうして農業の革新につながるんだろう?
「昨日はまだ、時間がなくて魔物がどうの……という話までしか報告を聞いていなかったけど、今日結界って魔法を農場に張ったというのを聞いたのよ」
「そうだね、確かに結界を農場に張ったね。フィリーナが協力してくれたおかげで、魔物が入り込む危険が減って良かったよ。それが農業の革新ってやつなの?」
「うんまぁ、魔物が近寄って来ないというのは、素晴らしい事だと思うわ。作物や人が被害に遭う事が少なくなって、結果的に生産力の向上にも繋がるはずよ。でもそういう事じゃなくてね? その、結界というのは、農場全体を完全に覆っているのよね?」
姉さんは今日になって、ハーロルトさんからの報告を全て聞いたようで、興奮気味に話している。
昨日は、ヴェンツェルさんを捕まえたり、姉さんの方にも仕事があったりで、全部聞く余裕はなかったんだろう。
さすがに、全体の概要くらいは聞いてると思うけどね。
けど、昨日の夕食の時はそうでもなかったのに、今日いきなりこの様子になっているのはどういう事なんだろう?
結界が関係してるみたいだけど……。
なんだか、魔力を練るという事を知りたがったアルネ……は言い過ぎだけど、ヘルサルでのフィリーナと同じくらいの食いつきだ。
うぅん……魔力の事もそうだけど、そんなに驚くような事をしてたかなぁ?
思わぬ姉さんの勢いに、モニカさん達一緒に夕食を頂いている皆が、ポカンとしていた。
「確かに結界は、農場を覆ってるね。ただ、完全にじゃないよ? 人が出入りする事も必要だから、入り口を作ってあって、そこを魔物が入らないように見張っていれば大丈夫なようにしてある」
「そうなのね……いや、入り口の事は今はいいわ。とにかくその結界よ。確か、空気すら遮断するんでしょう?」
「え? うん、そうだね。目にはほぼ見えないけど、薄い壁を作る感じに似てるかな? 本来は魔法なんかの攻撃を防ぐ物だと思うけど……まぁ、色々あって外に漏れないようにしたんだ」
「魔力だまりだったわね。それも報告で聞いたわ。それはともかく、気付かない? 空気も通さないような密閉空間を作ったのよ、りっくんは?」
「密閉空間……まぁ、入り口はあるけど……それは置いておいて……何か問題でもあるかな?」
密閉空間を作ってそこを農場に、というのは何かあるんだろうか?
降った雨が農地に行かないから、天気とか関係なく水を運んでやる必要があるけど……それが革新なんて言い方になるわけないし……。
「もう、りっくん。ハウス栽培よ、ハウス栽培!」
「ハウス栽培……? あの、ガラスやビニールで覆って、温室を作る?」
「そうよ、それよ! 温度管理がちょっと難しいだろうけど、りっくんがヘルサルでやったのは、ハウス栽培と似たような事なのよ!?」
「えぇと……そんな事は考えてはいなかったんだけど……」
ハウス栽培は、ガラスやビニールを使って温室を作り、一年を通して内気温を一定にする事で、季節が変わってもずっと同じ物を栽培できる……というものだった気がする。
農業に関してはあまり詳しくないから、正しいのかわからないけど、おおよそそんな感じだと思う。
冬なんかは、内部を温かくするのが大変とか夏は冷やしたりなど、温度管理をする必要があるみたいだけど、一定に保たれた温度で栽培された作物は、品質を保ちやすいとかなんとか聞いたような気もする……違ったかな?
あと、ちゃんと管理していれば確か害虫とかを減らせるんだったけ……これはこの世界における魔物も同様、と考えられるのかもね。
「考えていなくとも、結果そうなったのだから関係ないわ。ともかく、ハウス栽培ができるのなら、この国の作物事情は一気に変わるわよ? それこそ、一年中キューを作る事だって可能よ」
「キューをなのだわ!?」
興奮した様子で力説する姉さんに、キューと聞いてエルサが大きく反応。
とりあえず、エルサは少しおとなしくしていような? キューを年中栽培すると決まったわけじゃないから。
おとなしくしてもらおうと、モニカさんとユノに預けて、可愛がってもらう事にする……ソフィーも手を出したそうだね……まぁ、いいんじゃない?
「ガラスは高価で採算が合わないし、ビニールなんて生産できないから、諦めていたのだけど……その結界があれば、ハウス栽培を実現して生産力を向上させる事ができるわ! なんてったって、広大な農場を簡単に覆えるくらいなんだから!」
「まぁ、ガラスやビニールを使って覆うよりは、簡単にできるよね……俺が結界を張るだけだし」
「陛下、その……ハウ栽培? というのは、それ程の物なのですか?」
「そうよエフライム! 魔物を引き寄せない事で、人や作物への被害が抑えられる。さらに天候による影響を減らせられるから、作物を確実に管理する事ができるわ。農作業をする人の手間すら減る事も多いはずよ。あとそうね……これが最大の利点だと思うのだけど、年中同じ作物を育てる事ができるから……例えば、取引される作物が効果になる時期を狙って出荷する事で、利益を増やす事もできるわね」
「それはすごい事ですね陛下! 民の負担を減らせられて、利益も増えるのなら、民が……後々は国全体が潤う事ができる!」
「そうなのよ。さらに言うなら、天候に左右されないために不作になる事も減るはずよ。つまり、豊かな国にする事ができるはずだわ!」
「おぉ……ハウ栽培とはそこまで……」
「一応言っておくけど、ハウス栽培ね、エフライム」
作物に関する事なので、次期子爵家当主のエフライムが興味を持ったようだ。
まぁ、領地を治めるのなら、そういう事も考えないと駄目だからなんだろう。
興奮が収まらない姉さんに力説され、ハウス栽培の素晴らしさを理解したエフライムは、そのまま引き込まれるように興奮し始めた。
せっかくエルサをおとなしくさせたのに、興奮している人が増えちゃった……。
0
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる