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ヘルサルを歩きながらの雑談

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「次は、何処へ行くんだ? そろそろ訓練とかやるのか?」
「ん~、どこに行こうかな?」

 お婆さんの家から離れ、適当に街中を散策しながら、ルギネさんに聞かれて何処へ行こうか考える。
 特に目的があるわけじゃないから、これから考える必要がある。
 早めに獅子亭へ戻って、お店の手伝いをしようというのも、頭の片隅によぎったけど……マックスさんにはのんびりして来いと言われてるから、早く帰って手伝おうとしたら、怒られてしまうかもしれない。
 いや、さすがに怒ったりはしないか……苦笑くらいはされるかもしれないけど。
 かと言って、ルギネさんが言うように訓練するのも、何か違う気がするし……そもそもやる場所がない。

「ルギネさん達は、普段どうしてるの?」
「私達か?」
「うん。自分以外の冒険者が、普段どうしてるかあまり知らないからね」

 どうしようかと迷って、ルギネさんの方へ逆に聞いてみる。
 考えて見れば、俺は他の冒険者さん達がどういう風に過ごしているのかよく知らない。
 時折街中で見かけるし、冒険者ギルドに行けば会う事もあるけど、あまり関わった事がないからね。
 モニカさんは、俺と同じようなものだし……唯一パーティで参考になるのはソフィーだけど、武具店を回るとか、美味しい食事処を探すくらいしか帰って来なさそうだしね。
 武具店に行く事はあるだろうけど……なんというか、冒険者の普通とは少しずれてる気がするんだよね。
 俺自身、人の事を言えないかもしれないけど……。

「そうねぇ、普段はパーティ揃って冒険者ギルドにいる事が多いわねぇ」
「おい、アンリ!?」
「別に隠す事でもないでしょう? 知られたからといって、不都合な事があるわけでもないし……リク君……リクさん? は私達が普段何してるかを知っても、変な事をするような人でもないでしょうしねぇ?」
「ははは、呼び方は好きな方でいいよ」
「そう、それじゃ私はリク君で」

 俺の質問に、ルギネさんではなくアンリさんが答え始めるけど……そうか、女性だけのパーティだから、そういう事を根掘り葉掘り聞いて、ストーカー紛いの事をする奴も出る可能性もあるのか。
 これは、まだあまり親しくなってすらいないかもしれないのに、聞いてしまった俺が悪いかもね。
 冒険者によって、他の冒険者に教えたくない事だってあるだろうし……情報は大事だしね。
 とりあえず、アンリさんには笑いながら、どうするか迷っていたので呼び方について自由にしていいと言っておく。
 アンリさんの方が年上だろうから、君を付けて呼ばれるのも不自然じゃないしね。
 姉さんで慣れてるという事もある。

「それは……そうだが……」
「そ、れ、にぃ。教えておけばぁ、ルギネもリクさんに会いやすいでしょ? 向こうから会いに来てくれるかもしれないしぃ……」
「おい、アンリ!!」

 少し渋るように、顔をしかめるルギネさんだけど、アンリさんが顔を近付けて耳元で囁くと、顔を真っ赤にして、アンリさんに怒るように叫んだ。
 なんで赤くなったのかはともかく、囁くなら、もう少し小さな声にしないと、俺やユノにも丸聞こえだ。
 わざとなのかもしれないけどね。

「まぁまぁ、そういう事で、私は教えても構わないと思ってるわよぉ?」
「……まぁ、リクになら構わないか」
「無理はしなくてもいいんだけどね……」

 結局、アンリさんの説得? によって、ルギネさんが折れる形になったようだ。
 無理に聞く事じゃないから、嫌なら教えてくれなくてもいいのになぁ……と思いながら、苦笑しつつ、無理はしないよう言っておく。

「無理なんてしてないわよぉ? Aランクとの繋がりは、これからの私達にも必要かもしれないしねぇ。特にルギネがぁ……」
「もう余計な事を言うな、アンリ!」
「はいはい……」

 ルギネさんが大きめの声でアンリさんを止めて、やれやれと言うような仕草で言葉を止める。
 結構、ルギネさんはからかわれる事が多いみたいだけど、大丈夫なのかなぁ?

「んんっ! まぁ、私達は普段、冒険者ギルドにいる事が多いな。依頼を受ける事もそうだが、自分達に合った依頼を探すのも必要だしな。その時によって、合わない依頼だけ……という事もある」
「もちろん、報酬もちゃんと見るわよぉ。私達、修理費を払って、今、金欠気味だしねぇ……」
「あははは、そうなんだ……」
「踊る獅子亭……と言ったか。昨日食べに行った評判の店は良かったな。値段は手頃なのに安くて美味い」
「ちょっと、私には量が多かったけどねぇ?」

 ルギネさん達が、普段冒険者ギルドにいる事が多いと言うのはわかる。
 選り好みばかりしてはいられない状況、というのもあるけど、依頼はそれぞれで内容が変わる。
 魔物を相手にする事だって、色んな魔物がいるんだし、それによって得意不得意が変わる。
 パーティに合った依頼を受けるために、吟味するというのは必要なんだろう。
 ランクは大丈夫でも、パーティメンバー全員が苦手にするような魔物に挑んでも、失敗する可能性が高いし、危険だからね。
 そのために、自分達に向いてる依頼をいつでも受ける事ができるよう、冒険者ギルドに足しげく通うというのは、よくある事だ。

 報酬も、依頼の難易度によって変わるけど、中には何故か報酬が異様に高かったり、逆に低い事だってある。
 報酬が低い依頼はあまり受けられてないし、高い依頼は怪しい何かの企みが絡む事もある……というのはソフィーから聞いた。
 もちろん、冒険者ギルドの方で調査をしたり、精査するんだけど、日々大量の依頼を処理しているから、そこから漏れたりすり抜けたりする事も、多々あるようだ。
 冒険者の方でも、依頼を受けるのに気を付けないといけない……と、以前キマイラ討伐の依頼を勢いで受けてから、注意された。
 考えて見れば、俺は今まで依頼内容を自分で吟味する事はあまりなかったからね……気を付けないと。
 まぁ、ほとんどヤンさんやマティルデさんが出してくる事が多いから、受付で通常通り依頼を受諾するよりも安全なんだろうけど。

「獅子亭は、確かに冒険者にとってはありがたいかな? 料金控えめ、量が多くて満足できるし、何より美味しいから」
「リクも、踊る獅子亭を知っているのか。まぁ、評判の店らしいからな。確かに、評判になるのも頷けるところだった」

 獅子亭の話になったので、冒険者から見て良い場所だと頷く。
 ルギネさん達は、マックスさんからも聞いていたけど、やっぱり昨日は獅子亭で夕食をとったみたいだね。
 評判の店というのは以前からだし、誰かから話を聞いたんだろう。
 アンリさんは少し量が多く感じたみたいだけど、それでも食べ切っちゃうのが、獅子亭の美味しさなんだよねぇ。

 俺が知っているのは、評判だからというより、元々住み込みで働いてたからだし、今もお世話になってるからなんだけどね。
 昨日はヤンさん達と話し込んで、帰るのが遅くなったから、ルギネさん達とは獅子亭で会ってないため、俺達があそこにお世話になってる事は知らないんだろう。
 俺達の噂はまだしも、食事処の話で俺達が獅子亭にいる事なんて、あまり話されないだろうしなぁ。


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