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ヘルサルの冒険者ギルドへ
しおりを挟む「それじゃあ、お昼に冒険者ギルドで話しましょう」
「わかりました。クラウス殿には、私から伝えておきます」
「はい、お願いします。……あ、昼食はこちらで用意すると言っておいてください」
「リク様が? よろしいのですか?」
「どうせ、俺達も食べないといけませんからね。マックスさんに頼んで、用意してもらいますよ」
「評判の獅子亭の料理が食べられるのなら、嬉しい限りですな。では、そのように……」
冒険者ギルドで話す事に決まり、クラウスさんに伝えに行くハーロルトさんを見送る。
俺とモニカさんは、残っていたお茶を飲み干して、お昼の営業の手伝いを始めた。
ソフィーやフィリーナも手伝ってるし、お昼の用意をお願いするのに、何もせずに座ってるのはね……。
獅子亭での準備手伝いが終わり、お昼の用意をしてもらって、皆で冒険者ギルドへ。
一緒にいるのは、モニカさんとフィリーナ、それにエルサだ。
ソフィーはこういう話には疎いとの事で、獅子亭の手伝いに残った。
ヤンさんとの関わりも少ないし、あまり大勢で行っても……という事らしい。
ユノの方は、常連さんに可愛がられてる事を喜び、こちらも同じく手伝いに残った。
ちょこまかと動いて料理を配膳する姿は、女性客から特に人気だしね。
ちなみにエルサは、絶対について行くと言って、俺の頭にしがみついた。
元々置いて行こうとは考えてなかったんだけど、キューの事だから必死なんだろうな……とモニカさんとソフィーが温かい目で見てた。
自分が見られてるようで、ちょっと微妙な気分だったけどね。
「えーっと、すみません……」
「リク様! ……失礼しました。お待ちしておりました。既にクラウス様と副ギルドマスターは、別室にてお待ちしております」
冒険者ギルドに入り、カウンターの受付をしている女性に声をかけると、俺に気付いて大きな声を上げた後、ハッとなって頭を下げて謝り、俺達を案内するようにカウンターから出て来てくれた。
以前にも話した事のある人だったから、俺の顔を覚えてたみたいだね。
クラウスさんとヤンさんは既に待っているようで、受付の女性に案内されて、建物の奥へと案内された。
待たせちゃったかな?
「おぉ、リク様! 久しぶりでございます!」
「お久しぶりです、クラウスさん。ヤンさんとトニさんも」
「久しぶりですね。活躍は聞いていますよ」
案内された部屋に入ると、10人程度が座れる大きめの机に向かって、クラウスさんとヤンさんが座っていた。
トニさんは、クラウスさんの後ろに立って、静かに待機してる。
多分、小会議室のような部屋なんだろう。
俺が入って来た事に気付くと、すぐにクラウスさんが立ちあがり、揉み手をしながらニコニコと大袈裟に声を上げる。
オジサンに喜ばれても……とは思うけど、それでも嫌がられるよりは良いか。
クラウスさんに挨拶をしながら、ヤンさんとトニさんにも挨拶。
にこやかに返すヤンさんと、会釈だけをするトニさんは対照的だ。
秘書として、前に出ないようにしてるんだろうね。
「リク様が王都に活動拠点を移され、ヘルサルで過ごす日々は寂しく、無為にすら思えましたが……こうしてまた会えた事に喜びを感じます」
「あははは……大袈裟ですよ、クラウスさん」
詩を詠むように、大袈裟に俺と再会した喜びを伝えて来るクラウスさんだけど、さすがにそこまで言うのは大袈裟だろうと思う。
というか、これで頬でも赤らめてたら告白というか、好きな人に言ってるように見られかねない。
……オジサンに告白される趣味はないから、変な想像は止めておこう。
「リクさん、マックスさんからもそうですが、冒険者ギルドを通じて、活躍は聞き及んでいますよ」
「活躍なんて……エルサもそうですけど、皆がいるおかげですよ」
「いつもの謙遜するリクさんですね。あぁ、そうでした。Aランク昇格おめでとうございます。見事、統括ギルドマスターにも認められたようですね。最年少で最速のAランク……歴史に残るでしょうね」
「ありがとうございます。でもヤンさん、Aランクになるための書類を、本人に運ばせるのはどうなんですか?」
「ははは。本来は安全に運ぶため、別の冒険者に依頼したりするものですが……リクさんに運んでもらうのが、一番安全ですからね」
目を輝かせているクラウスさんに、若干引き気味になりながら、ヤンさんと話す。
俺の事や、パーティでの活動はギルドから情報を得ているようだ。
まぁ、各街や村と情報を共有しないといけない事もあるだろうから、知ってて当然か。
情報のやり取りをしていないと、別のギルドで受けた依頼を、行った先の街にあるギルドで報告なんてできないわけだしね。
ヤンさんから、Aランクに昇格した事を祝われ、クラウスさんも横でうんうん頷いて嬉しそうだ。
統括ギルドマスターというのはマティルデさんの事だろう。
歴史に残るとかは、特に気にしてないんだけど、俺が昇格するかどうかという書類を自分で運ぶというのはちょっとどうかと思う。
俺はそんな事をしようとは思わないけど、中を見たり、無くしてしまったりする事もあるだろうに……。
安全かどうかは……まぁ、エルサやユノがいれば大丈夫だと思うけど。
「リク様、よろしければ王都での武勇伝などをお聞かせ願いませんか?」
「え? 武勇伝って……でも、俺の事は知ってるんじゃないですか?」
「国からの報告は受けております。リク様がいればこそ、王都を始め、この国は救われたのだと。ですが、私はリク様から直接聞きたく存じます……」
「そ、そうなんですか……? でも……」
「んんっ!」
高揚した様子のクラウスさんから、王都での事を聞かれる。
俺の事は色んな所から聞いて知っていそうだけど、クラウスさんは直接聞きたいらしい。
んーそう言われてもな……目を輝かせるクラウスさんの希望に添えないのは悪いとは思うけど……。
そう考えながら、立ち上がっているクラウスさんの後ろに控えているトニさんを見ると、咳ばらいを一つ。
やっぱり、あまり話が逸れるのは良くないよね。
「む、トニ……いいではないか。せっかくこうしてリク様が戻って来て下さったんだ」
「ですがクラウス様、仕事も残っておりますので、時間も限られております」
「ぬぬぬ……仕方ないな……」
「ははは、それじゃあとりあえず簡単に話だけしますよ。どうせ、お昼も食べないといけませんしね」
「おぉ、そうですな。獅子亭の料理を持って来て下さったとか。わざわざありがとうございます。ほら、少しくらいいいだろう、トニ?」
「はぁ……わかりました。食事を済ませる間だけですからね……」
「マックスさんの料理は美味しいですからね。冒険者をしていた頃は、よく食べていました」
トニさんに止められて不満そうなクラウスさんだが、そんな二人の間に入って、食事の間だけ少し話をする事を提案した。
すぐに食いついたクラウスさんと違い、トニさんは仕方なさそうに頷く。
すみません、トニさん。
多くの時間が取れそうにないから、さっさと食事の準備を済ませようと、モニカさんやフィリーナと一緒に持って来ていた料理を机の上に広げる。
準備をする間に、ヤンさんが懐かしそうに呟いたのを聞く。
確かに、ヤンさんとマックスさんや、マリーさんは同じパーティの冒険者だったらしいから、マックスさんの料理を食べててもおかしくないか。
その頃からマックスさんは、料理が上手かったんだなぁ。
というより、ヤンさんは懐かしそうにしなくても、獅子亭に食べに行けば良いのに……と思わなくもない。
まぁ、忙しいとか、お客さんが多いとかであまり行けてないんだろうね。
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