389 / 1,903
訪ねて来たヴェンツェルさん
しおりを挟む「それじゃ、頼むよ」
「任せてくれ」
「リクさんの代わりに、しっかり報酬を受け取って来るわね」
「行って来るの!」
部屋で、昼食を頂いた後、依頼達成の確認書類をモニカさん達に渡し、冒険者ギルドへの報告を任せた。
報酬をしっかり受け取って来るのはいいんだけど、そこにはあまりこだわってないんだけどなぁ。
まぁ、お金の事はモニカさんが得意そうだから、任せておけば問題はないだろう。
楽しそうに出て行く二人に、ユノもついて行った。
パレード以来、町を自由に動けなかったからかもしれないね。
いい機会だから、久しぶりに色々見て回って、楽しんできて欲しいと思う。
……羨ましくなんて……あるんだからね!
「はい? どなたですか?」
「ヴェンツェルだ」
「ヴェンツェルさん?」
モニカさん達を見送って、レナ達と話しながらゆっくりしていると、部屋の扉がノックされた。
普通のノックはコンコンという軽い音なのに、ヴェンツェルさんの場合はゴンゴンと拳で叩くような音だ。
相変わらず、力が漲ってるようだなぁ……。
「どうぞ」
「失礼する。リク殿が戻ったと聞いてな。久しぶりだ……野盗を捕らえた森以来か」
「お久しぶりです、ヴェンツェルさん」
俺が城に戻ったと聞いて、部屋を訪ねて来てくれたらしいヴェンツェルさん。
フィリーナとアルネは知っている相手だから、普通にしているが、何故かさっきまで一緒に話してたメイさんは、シュタッと言う音と共に消えた……うん、本当に天井に張り付けるんだね……。
レナは、突然知らない人が訪ねて来たからか、ヴェンツェルさんが入って来た入り口の反対側、俺の後ろに隠れるようにしてる。
もしかすると、筋肉の塊とも言えるヴェンツェルさんに怯えてるのかもしれない。
クレメン子爵の所にいた、騎士団長さんも結構がっしりした体つきだったけど、服が盛り上がる程の筋肉という程ではなかったからね。
ちなみに、暑苦しい筋肉が苦手なエルサは、メイさんのお尻にくっ付いて天井にいる。
苦手なのはわかるんだけど、そこを避難場所に選ばなくても……柔らかそう……おっと。
「以前、野盗を捕まえた時に言っていた話なんだがな?」
余計な事を考えるのを止め、ヴェンツェルさんとの話に集中しよう。
えっと……野盗を捕まえた森の時って事は……あれか、訓練を付けて欲しいって言った事かな。
「訓練の事ですか?」
「あぁ。あの時は簡単に答えたが、戻って来てよく考えると……どうしようかと思ってな」
「どうしようかと? 普通に訓練を受けさせてもらえれば、それでいいんですけど……」
難しい顔で、どうしようか悩んでいる様子のヴェンツェルさん。
そこまで難しく考えなくても、兵士さん達にするような訓練を、受けさせてもらえればいいんだけどなぁ。
さすがに特殊部隊用とか、普通ではない訓練や厳し過ぎる訓練だった場合は、心構えをする時間が欲しいと思うけどね。
「はぁ……リク……ヴェンツェル様が言っているのは、リクが常軌を逸しているという事よ?」
「うむ……」
「常軌を逸している? んー……兵士さんと同じような訓練を受ければ、精神面で鍛えられるかなぁと思ったんだけど」
話を聞いていたフィリーナが、溜め息を吐きながら説明するように言うけど、俺ってそうなの?
いや、さすがに常軌を逸してるというのは、言い過ぎだよね……ははは……。
ともかく、兵士さんと同じ訓練……軍の訓練と考えると、当然厳しいものを想像するから、それを受ければもう少し、俺自身の精神面が鍛えられると思ったんだ。
野盗のボスの時もそうだったけど、戦う時とかその前後で、もっと冷静に考えたい。
悪党とはいえ、野盗のボスを殺してしまった事も気になる。
悪人にも人権が……とかまでは考えてないけど、誰であろうと人間を怒りに任せて殺すというのは、あまり良くない事のような気がするから。
どうしてもという場合もあるだろうし、魔物と違って人間相手は色々と難しい……。
そういう部分を、訓練をこなす事で鍛えられたらなぁ。
「いや、リク殿が兵士と同じ訓練をしたところで、鍛えられる事はほとんどない気がするぞ? 私が軽々こなすような訓練だ、私より強いリク殿がやったところで、効果は期待できないだろう?」
「そうですよねぇ。そのあたり、リクは疎いので……」
「いや、そうなの……かな?」
ヴェンツェルさんは見た目通り、自分に厳しい訓練を課しているようで、通常の兵士と同じ訓練は軽々こなしてしまうようだ。
盛り上がる程の筋肉を見る限り、並大抵の訓練じゃないと思うけど……さすがにそれと同じ訓練を、とは思わない。
ヴェンツェルさんみたいに、筋骨隆々とした肉体を目指しているわけじゃないからね。
悩むように言うヴェンツェルさんに、うんうん頷いているフィリーナ。
そうなのか……俺に普通の訓練は効果が薄いのか。
こうなったら、ユノに頼んで訓練してもらおうかな?
結界を破る事ができるから、エルサあたりに命知らずとか言われそうだけど……。
「そういうわけで、俺にはリク殿の事を訓練で鍛えるという事は、できそうにないのだ」
「そうですか……残念です」
すまなさそうに言うヴェンツェルさん。
まぁ、仕方ないか。
元々、俺は軍の兵士ではない冒険者だし、訓練をしてくれるかどうかはヴェンツェルさんの厚意次第だ。
そのヴェンツェルさんが、効果的な訓練ができないと言うのであれば、仕方ない。
それでもどうしても……と頼み込むような事はできないよな。
これでも、忙しいだろうし。
やっぱり、ユノに頼むか……。
「だが……一つだけ、リク殿にとって有意義と言えるかもしれない訓練があるんだが」
「え? それはなんですか?」
「うむ……リク殿は以前、体力はまだしも、技術が足りないというような事を言っていただろう?」
「そうですね」
いつ言ったのかまでは覚えていないけど、ヴェンツェルさんと話してる時にふと言った事があるかもしれない。
ユノはまだしも、ソフィーにも技術という面では敵わないと考えてるからね。
ヴェンツェルさんの技を真似た事もあったけど、それは力で無理矢理再現しただけだし……やっぱり俺には剣の技術、戦いの技術というのは不足してると思う。
子爵邸で騎士団相手に行った訓練でも、副騎士団長さんに押されてたし。
結局力押し勝ったけど、あれは俺としてはあまり勝ったような気分じゃない。
剣の技術でスマートに勝利を……とは行かないまでも、力押しだけに頼るんじゃないようになりたいからね。
「そこでだな……私が直接教えられない代わりに、別の人物にリク殿を鍛えてもらおうかと考えたんだ」
「別の人物、ですか。それはどんな?」
「まぁ、早い話が俺やマックスにとって、剣の師匠とも言える人物だ。本人はもう、高齢で引退したと言っているが……リク殿に剣を教えることくらいはできるだろうと思ってな」
「へぇ~、ヴェンツェルさんや、マックスさん達の師匠なんですか!」
ヴェンツェルさん本人じゃなく、その師匠という人がいるそうだ。
マックスさんは元冒険者でランクBだけど、その実力はランクAにも匹敵するんじゃないかと考えてる。
ヴェンツェルさんも、将軍という軍のトップだし……これは個人の強さだけじゃないだろうけど、それでも魔物や野盗のいる世界だ、弱い人がなれるわけがない。
そんな二人の師匠か……どんな人なんだろう?
1
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる