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出発直後の面倒事

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「……リク様や子爵の行く手を塞ぐとは……リク様、このまま轢いてしまいますか?」
「いやいや、突然過激な事を言わないで下さい。何か事情があるかもしれませんよ? それに、馬や馬車に轢かれると痛いですからね」

 道の中央に立って、3人の男達が行く手を塞いでる状態になっているのを、マルクスさんが睨み付けながら、急に恐ろしい事を言い出す。
 確かに、俺はともかく、貴族の行く手を塞ぐのはただ事じゃないだろうけど、いきなり轢くだなんて物騒な……。
 車に轢かれた事があるからわかるけど、あれって結構痛いんだから……いや、痛みを感じる暇もなく、こっちの世界に来たんだけどね。
 あれ? 実際に轢かれる直前で移動したんだっけ? まぁ、どっちでもいいか。

「しかし、リク様の行く手を塞ぐ者は、何人たりとも許すなと陛下からの命令が……」

 姉さん、マルクスさんに何て物騒な命令をしているのか……。
 尚も前方を睨み付け、手綱を握って「いつでも走る準備はできてます」と言わんばかりのマルクスさん。

「と、とりあえず、話を聞いてみましょう。向こうにも何か事情があるかもしれませんし、いきなり馬車で轢くのはやり過ぎですって……」
「……リク様がそう仰られるのであれば。どんな事情があれど、厳しく追及させて頂きます」
「はぁ……厳しくしなくてもいいんだけどなぁ」
「進行停止!」

 後ろの馬車にも聞こえるよう、マルクスさんが声を張り上げて馬を止める。
 馬車が道の途中で止まった事で、周囲の人達も何事かとこちらを見ているのがわかる。
 元々クレメン子爵の馬車も、俺が乗ってる馬車も、商人が使うような馬車と違って、装飾が施されているため、注目は集めていたけど、それがさらに強まった感じだ。
 先頭を進む俺達の馬車が止まった事で、何か異変があったと考えたのか、後ろで護衛をしていた騎士さんのうち2人がこちらへ馬に乗って近づいて来た。
 俺達が止まる様子を見ていた、前方で道を塞いでる男達は、こちらが止まったと見るや否や、俺達に向かって走り出した。

「っ!」

 突然俺達へ向かって走り出した男達は、それぞれ腰や懐に手をやり、下げている剣や忍ばせていた短剣を抜き、こちらに向かって刃を向ける。
 それを見たマルクスさんが、すぐに腰から剣を引き抜き、いつでも戦えるように構える……とはいえ、御者台に座ってる状態だから、ちょっと不格好だけど。

「狙いは何だ!?」 
「……俺やマルクスさんって事はない……ですよね。まさか!」
「覚悟ぉぉぉぉ!」
「「おぉぉぉぉ!」」

 剣を男達に向けながら、マルクスさんが叫ぶ。
 走って来る男達を見ながら、俺も剣を抜き、呟いた。
 途中で男達が叫び、俺達の馬車へ向かって来ていた3人が左右に別れた。
 俺から見て、右に2人、左に1人だ。

 それぞれの方向には、様子を見に来た騎士さん達がいる。
 騎士さん達は、剣を抜いてはいるものの、少し戸惑っている様子が見て取れる。
 しかも、街中である事や、馬に乗っている事もあって、走り込んでくる男達を相手に、対処は難しそうに見えた。
 ……狙いは、クレメン子爵達の方か。

「行かせない! 結界!」
「「「ぶべっ!」」」

 馬車を曳いている馬の横をすり抜け、さらに俺達の横をすり抜けて行こうとした男達。
 その男達の狙いに気付いた俺は、咄嗟に結界で馬車の周囲を覆うように結界を張った。
 ちょっと大きめにしたから、男達がすり抜ける隙間がなく、そのまま無防備にぶつかり、変な声を出して沈黙した。
 ちなみに、横をすり抜けさせないよう、御者台から飛び降りながら、男達に剣を振り下ろそうとしたマルクスさんは、結界に弾かれて呆気にとられた顔をしていた……すみません、急な事だったんで。

「? ……?」
「壁? いやしかし、何も見えないのだが……?」

 様子を見に来ていた2人の騎士さん達も、結界の内側から迎え撃とうと構えていたはずが、突然男達が何かに激突して動きを止めた事を驚いている。
 そのうち一人は、男達が何かにぶつかったと見える、結界の境目に剣を突き出し、ツンツンしてそこに何があるのかを調べてた。

「マルクスさん、騎士さん。魔法で壁を作って遮りました。今解除しますので、捕縛をお願いします」
「は……? はっ!」
「「……はっ」」

 一瞬何の事かわからない、というような表情をさせたマルクスさんは、すぐに俺の魔法だと思い当たったようで、返事をした後剣をしまった。
 騎士さん達はマルクスさん以上に、どういう事かわからない様子だったけど、まずは男達をどうにかするのが先だと考え、すぐに頷いてくれた。
 男達の方は、わけもわからずいきなり結界に激突して、完全に動きを止めていた……というより、全力疾走からの激突で、立っている人はいなかった。
 あれ、一人は気絶してるんじゃないかなぁ? ……凄い勢いで頭をぶつけてたみたいだから、仕方ないか。

「リクさん?」
「あぁ、大丈夫。もう終わったから」

 御者台の後ろ、馬車の中から外の異変を感じたモニカさんが、間の小窓から声をかけて来るけど、もう終わった事を伝えながら、マルクスさん達によって縄で縛られて行く男達の様子を見守った。


「全員、捕縛完了しました」
「はい、ご苦労様です。えーと、どうしましょうか?」
「リク様、クレメン子爵からの伝達です。何も問題が無いようであれば、このまま街の外へ。捕まえた男達は、街門にいる兵士達に引き渡せばいいだろうとの事です」
「はい、わかりました。マルクスさん、そういう事だそうです」
「わかりました。では、再び出立します!」

 3人の男達を捕縛し、騎士さんの一人がクレメン子爵達の方へ報告。
 俺は馬車内のモニカさんや、レナに状況を説明していた。
 捕縛が終わり、マルクスさんが戻って来てどうしようか考え始めたあたりで、報告に行っていた騎士さんが戻って来て、伝言を教えてくれた。
 クレメン子爵が、それでいいと言うのなら、それでいいか。

 目立つ馬車が道半ばで止まり、それに向かって男達が全力疾走。
 さらに、突然何か見えない物にぶつかって停止後、捕縛される……という、非常に目立つ事になっているので、街の人達の視線が痛い。
 まぁ、そのうち一つの馬車がクレメン子爵の物だとはわかっているようで、不躾な視線はあまり感じなかったけど、やっぱり好奇の視線は向けられるようで、居心地が悪いから、早く移動するに越した事はない。
 フィリーナ達エルフって、こんな視線にいつも晒されてたのかなぁ……? いや、違うか。


「リク様、引き渡し終了しました」
「ありがとうございます。それじゃ、街を出ましょう」
「はっ!」

 早々に突然の捕縛劇が行われた場所から離れ、街門で衛兵をやっていた兵士さん達に、襲って来た男達を引き渡す。
 ちなみに、男達は縄で縛られた後、騎士さん達の馬に繋がれて地面を引きずられた。
 歩く速度での移動だから、死ぬ事はないだろうし、運ぶ手間も省けるので丁度いいという事だった。
 擦りむいたりの怪我をしたりと、痛い事は間違いないけど……自業自得だね。

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