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リクの紹介と年の近い友人
しおりを挟む「俺達は、今王都で活動している冒険者です。王都で、この近くにある村と、子爵邸のある街との間で魔物が集まって通行ができなくなっていたので、依頼されてその魔物を討伐しに来ました」
「成る程な。お爺様も、バルテルに監視されて対処に動けなかったのだろう。もしかすると、報告すらされていない可能性もあるか。ともあれ、領内での魔物討伐、お爺様に代わって感謝する。領民には苦労を掛けてしまった」
「いえ、依頼をされ、それが人の助けになるのなら、率先して動く。それが冒険者ですから」
「うむ。この近くというと、オシグ村だな。確かにあの村と、トゥラヴィルトの街を繋ぐ街道を塞がれたら、大変な事になるな。しかし、どうして君達はオシグ村からお爺様の所へ?」
ロータのいた村は、オシグ村というらしい……そういえば、村の名前とか聞いてなかったね。
話の流れと、その村から街道で繋がっているという事は、俺達が行こうとしている子爵邸のある街が、トゥラヴィルトの街って事か。
子爵の名前といい、街の名前といい、言いにくい名前多くない?
「俺達は、ねえさ……陛下の使いで来ました。王都への招集を断った事や、魔物を対処せず放っておいてる事の様子を見に行ってくれと」
「陛下の!? そうか、陛下の耳にはこの領内の事も耳に入っているのか」
……正確には、俺が耳に入れたというか。
俺が、ロータに聞いた事を姉さんに伝えて、おかしいと考えた姉さんが、俺に様子を見てくれと頼んだんだけどね。
それよりも、ついつい姉さんと呼ぶのを外でも言ってしまいそうになるな。
姉さんと俺の関係は、あまり広げて良い話じゃないから、気を付けるように気を引き締めよう。
「しかし、陛下から頼まれ事をするとは……ただの冒険者ではないのだな。先程、俺達を助け出した手腕といい、名のある冒険者なのだろう」
「いや、名のあるって程じゃないですよ。まだ冒険者人なって数カ月しか経ってないですし」
「……リクさんが名のある人じゃ無かったら、ほとんどの人が無名になってしまうわね」
「リク……? 確か、王都へお爺様の招集理由が、リクという冒険者への最高勲章授与だったと記憶しているが……」
「リク様は、Aランク冒険者にして、アテトリア王国の英雄勲章を授与された、正真正銘の英雄です」
冒険者になって数カ月、色々活動はして来たけど、名のある人物という程でも無い。
パレードのせいで、王都では有名になってしまったし、ヘルサルでも同じような感じだけど。
でも、まだそれくらいだしね。
他にセンテとエルフの集落くらいかな……あ、あとオシグ村くらいか、俺を知ってる人がいるのは。
この国には、他にも色んな街や村があるんだから、それくらいじゃあまだまだ名のあるとは言えないだろう。
何か、モニカさんがボソっと呟いてるけど。
王都へ招集理由を覚えていたエフライムさんに、マルクスさんが仰々しく俺の紹介をした。
そこまでしなくても……。
「Aランク……それどころか、本当にあのリク、いやリク様だと!?」
「はい。陛下と近しいお方であり、王都でも凶行に走ったバルテルを止め、さらには魔物の襲撃すら退けております。王都に住む者は、皆リク様に感謝し、心酔しております」
「いや、マルクスさん。そこまで言わなくても……というか、そこまでの事はないと思うんですが……心酔って」
「何を仰いますか! バルテルから華麗に陛下を救い出し、空からワイバーンの群れが急襲すれば、空を駆けてそれを討ち、城に魔物が押し寄せれば、先陣を切って戦い一掃。ただの個人でこれを成し遂げられるのは、リク様を置いて他にありません! かくいう私は、バルテルの汚い手口によって、魔物襲撃の際は参加出来ませんでしたが、先の野盗達との戦いは見事な物でした……。リク様は、この国で語り継がれる伝説となるでしょう!」
「あー、えーっと……とりあえず、落ち着いて下さい、マルクスさん」
急に熱く語り出したマルクスさん。
もしかして、マルクスさんってヘルサルにいた代官の、クラウスさんと同類? まさか親類では無いと思うけど。
勢いよく語る内容に、エフライムさんは驚き、モニカさんは苦笑してる。
「んんっ! 申し訳ありません、つい取り乱しました。ともかく、リク様は正真正銘、陛下や国民が認めた英雄のリク様です」
なんとかいつも通りに戻ってくれたマルクスさんだけど、ついであんなに熱く語らないで欲しい。
俺が自分の事を言うのに、マルクスさんに任せると誇張される恐れがあるから、今度からは自分でやろう。
「そ、そうか……いや、そうですか。申し訳ありません。英雄リク様だとは気付かず……失礼を致しました」
「いやいや、今まで通りで良いですよ。そんなに畏まらないで下さい。見た所、年も近いようですし、普通に話しましょう?」
「……良いのだろうか?」
「リク様が許すのであれば、それで良いのです」
何だろう、ここに来て急にマルクスさんが、怪しい宗教の信者のようになった。
しかも、その信仰の先は俺か……ちょっと後で、マルクスさんとじっくり話さなければいけない気がするな。
それはともかく、エフライムさんだ。
相手は子爵家の孫、貴族の人なんだから、俺なんかに畏まって話す必要はないと思う。
年も近いし、普通に話して肩の力を抜きたい、というのは俺の願望だ。
考えて見れば、この世界に来てからというもの、近い年で同性の知り合いとか、いないしなぁ。
当然ながら、外で見かける事くらいはあったけどね。
「そうか。わかった、リク殿だな」
「できれば、殿も止めてもらえれば……」
「では、リクか。そちらも、畏まった話し方をしなくてもいい。俺も年の近い者と気兼ねなく話したいからな。俺の事はエフライムと呼んでくれ」
「わかりま……わかった。それじゃあエフライム、よろしく」
「あぁ、よろしく」
なんとなく、友人ができた気分だ。
エフライムと握手をし、お互い頷きあう。
「それじゃあ、エフライム達も助けた事だし、クレメン子爵の所へ行きましょう」
「リク様、クレメン子爵の所へ行くのは良いのですが、いささか時間が……」
エフライムの手を離し、立ち上がって出発しようと思ったけど、マルクスさんの言葉で我に返る。
空を見るまでも無く、話しているうちに周囲は既に真っ暗。
明かりは目の前の焚き火しかなく、遠くが見渡せないくらいになっていた。
これはこのまま、野営する事になるかな。
「ちょっと、こんな時間に街まで行くのは難しいですかね。それじゃあ、野営の準備をしましょうか。エフライムは、それでいいかい?」
「あぁ、構わない。久しぶりの外だ。星を眺めながら過ごすのも悪くないだろう」
空を見ながら、野営をしようとエフライムにも声をかける。
俺の言葉に頷いてくれたエフライムは、星を見て目を細め、少し嬉しそうにしている。
そうかぁ、星かぁ。
空を見るのはほとんど、日の位置を見て、時間の確認をするくらいになってたから、のんびり星を見るという事を忘れてた。
そんな事を思い出させてくれたエフライムは、もしかしたらロマンチストなのかもしれない。
長い間、窓も無い部屋に閉じ込められていたから、という事もあるかもしれないけどね。
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