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依頼へは明日の出発

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「落ち着いた?」
「うん……ごめんなさい」
「ううん、良いのよ。辛かったものね……」

 しばらく泣き続けたロータを皆で見守る。
 涙が収まって来た頃に、優しく声をかける副ギルドマスターのミルダさん。
 子供とか好きな人なのかもね。

「それじゃ、リク君への依頼は……ロータがいた魔物の討伐依頼ね。もちろん、討伐した魔物によっては、素材を買い取るわ。これは依頼とは関係のない部分だしね」
「野盗の方はどうなりますか?」
「ギルドは取り締まる機関じゃないから、排除すれば成功とみなされるわ。生き死には問わないという形ね。あと、国の機関に引き渡せば、それなりに報奨金が出ると思うわよ。特別報奨金がかけられてるようなのもいるから……引き渡すなら、国の方へお願いね」
「わかりました」
「王都との間で野盗と出会ったんだから……まずはそっちの方よね」
「ああ……ロータの父の無念を晴らさねばな……」

 マティルデさんに軽く依頼の説明を受け、頷く。
 小さい声でロータに聞こえないよう、父親の事をできるだけ思い出さないように、モニカさんとソフィーが話してるけど、俺も同じ気持ちだ。
 野盗達がした事は、許せる事じゃないからね。

「それじゃ、さっき渡した依頼書の方は……どうするの?」
「そっちは……また帰って来てからにします。それでいいよね、モニカさん?」
「ええ。緊急性の高い依頼は無いという事だったし、軽く見た感じだと、今すぐ対処しないと誰かが被害に遭うような依頼は無かったようだからね」
「それに、あっちは他の誰かが依頼を受ける事もあるだろうが、こっちは私達くらいしか受けられない依頼だろうしな」
「リク君のパーティだからか、皆お人好しね……」

 一度持って帰って決めると言った依頼書だけど、ロータからの依頼が舞い込んだため、マティルデさんに返す事にする。
 しまってあった依頼書を、モニカさんとソフィーが取り出して、マティルデさんに渡した。
 それを受け取りながら、マティルデさんは苦笑しつつ言う。
 まぁ、お人好しと言われても、父親を亡くして泣いてる男の子を放ってはおけないからね。

「それじゃあ……出発は明日かな?」
「そうね。日帰りできる事じゃないから、準備も必要だし……明日ね」
「その間、ロータはどうする?」
「城に連れて行こうかと思ってるけど……」
「リク君、さすがにそれは止めておいた方が良いわよ?」
「え、どうしてですか?」

 出発は明日。
 ロータは、依頼金も含めてお金は父親が持っていたようだから、宿に泊まるお金もないだろう。
 だからというわけでもないけど、必死に王都まで来たために、汚れている衣服や体を城でお風呂にでも入って綺麗にしてあげたい。
 顔や髪も、土が付いてボロボロだしね……涙の跡も綺麗にしないと。
 そう思うんだけど、マティルデさんに止められた。
 どうしてだろう?

「……リク君……今日ここまではどうやって来たか覚えてる? 普通の人が使える道じゃないでしょ? ロータが他人に言いふらすとは思わないけど……知っている人は少ない方が良いと思うわ」
「……そう言われれば……確かに」

 城の地下通路を通ってギルドまで来たのを忘れてた。
 外から侵入されても、迷って城まで辿り着かないようにできてるけど……知っている人は少ない方がいいか。
 でも、それなら俺達が城に帰ってる間、ロータはどうしよう?
 俺達は、まだ町を普通に出歩ける状態じゃないしなぁ……。

「それなら、私が世話をしますよ。1日程度ならなんとでもなりますから!」
「ミルダ、良いの?」
「ええ。こんな男の子を、王都のそこらに放り出したりなんてできませんからね」

 という事で、ロータの面倒は明日までミルダさんが見る事になった。
 ちなみに、ミルダさんに対してロータが「おば……」と呼ぼうとした瞬間、目にも止まらぬ速さでミルダさんの右手がロータの口を塞いだ。
 「お姉さんでしょ?」とロータの耳元で囁くミルダさんは、正直怖かった。
 ……結構強めにロータの顔を掴んでたけど……トラウマにならないと良いなぁ……。

 ロータくらいの年なら、ミルダさん……見た目的には20代の女性がそう見えてもおかしくない。
 俺の口も塞がれる可能性があるから、口には出さなかったけどね。


「すみません、城までお願いします」
「はっ!」

 あの後、マティルデさんに見送られて、ミルダさんがギルドの受け付けの様子を見てから、コソコソと外へ出た。
 運良く人通りが少なく、何の問題も無く地下通路へとつながる民家へ戻る事ができた。
 中にいる兵士さんにお願いして、城まで案内してもらいながら、地下通路を通って城へと帰る。
 魔法を無効化する物なんて持ってないし、それがなくとも道順を覚えてないから、案内がないと絶対迷ってしまうからね。

 ちなみに、明日は昼前あたりに南門を出た所で、ロータと合流という事になった。
 ミルダさんがそこまで連れて来てくれるそうだ、ありがたい。
 南門前で、と最初は考えていたんだけど、出入りする人が多いから、俺達が見つかって人に囲まれると混乱する……という事で、外に出てからとなった。
 ……それは良いんだけど……外に出るのはどうしよう?


「帰りました」
「お帰りなさいませ、リク様。無事、ギルドへは?」
「はい、辿り着けました」
「そうですか。昼食の方は如何致しましょうか?」
「あー……まだ食べていないので、お願いできますか?」
「はい、畏まりました」

 部屋に戻り、ヒルダさんに挨拶する。
 地下通路の往復で結構な時間が経っていたのと、わりと長い時間マティルデさんやロータと話してたみたいで、すっかり昼も過ぎてしまってる。
 夕食まで我慢しようかと考えたけど、帰りの地下通路を歩いてる時から、エルサとユノが空腹を訴えていたので、お願いする事にした。

「明日の準備だけど、どうする?」
「この前キマイラ討伐に行った時の物があるから、宿に戻って荷物をまとめるだけで大丈夫よ」
「エルサのおかげで、最低限の行程で移動できたからな。消耗品も不足していない」
「それじゃ、明日は問題なく出発できそうだね」

 ソファーに座り、明日の事についてモニカさん達と話す。
 前に王都から出た時は、予想よりも早く帰って来たから、駄目になった道具もなく、特に買いに行かなくても不足はないようだね。
 買いに行かないと……となったら誰かに頼まないといけないだろうから、良かった。

「あぁそうだ。フィリーナとアルネはどうするの? 連れて行く?」
「どうしようか……あの二人は冒険者じゃないからなぁ……」
「戦力になるのは間違いないんだがな。私とモニカが前衛で、あの二人が後ろから魔法というのは、バランスが良い」
「そうなんだよねぇ」

 って、俺とユノがソフィーの考えの中に入ってないんだけど……。
 ユノは前衛で、俺は魔法も剣も……と考えてればいいか。
 パーティを組んだ時、俺は遊撃で状況を見て……って言われてたしね。

「あの二人がついて来たいと言えば、一緒に行く……で良いかな?」
「そうね。本人達の考え次第ね。……ついて行きたいって言いそうだけど」
「ともあれ、あの二人は今宿でゆっくりしている。それを邪魔するのも悪いしなぁ……明日までに話す機会がなかったら……仕方ないか?」
「そうだね。まぁ、誰かに頼んで連絡をする事もできるだろうけど、ゆっくりしてるなら邪魔したくないね」

 結論として、二人と話す機会があって、ついて行くと言えば連れて行くという事になった。
 冒険者じゃない二人だから、こちらから働きかけて巻き込むのも何か違う気がする。
 今回は報酬に期待できないだろうし……二人が報酬を期待して動いてるとは思ってないけどね。


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