278 / 1,903
祝勝パレード終了
しおりを挟む「……失敗したかも」
「え!? エルサちゃ……」
「いや、危なくはないと思うよ? けど、さすがに人の顔は難しかったかぁ……」
「……ほっ……。人の顔なのはわかるけど……誰の顔かまではわからないわね。笑ってるようには見えるわ」
「うん。……姉さんの顔なんだけどね……」
「私の!? りっくんには、私がああ見えているの!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
空を見上げながら、ポツリと失敗したと呟けば、姉さんが驚いてエルサを呼ぼうとする。
それを遮って、危険があるような失敗じゃないと伝えると共に、姉さんの顔を模したのだと伝えた。
けど……あれはさすがになぁ、と自分でも思う。
なにしろ、顔の輪郭と笑ってそうな口元わわかるんだけど、それ以外が崩れててよくわからない……。
色を黄色にしたのが悪かったかな……? そういう問題じゃないか……。
「怖がってる人もいるみたいよ……?」
「うーん、人の顔が崩れて見えるからかな?」
「私の顔で、誰かが怖がってるって……納得いかないんだけど……」
「そこはまぁ……ごめんとしか……仕方ない。……ウィルオウィスプ!」
空を見上げている観衆を見ると、主に子供達が怯えてるように見えた。
さすがに、花火で子供が怯えて終わらせるのはちょっとなぁ……。
と考え、一番わかりやすい花火を打ち上げる事にした。
色とかが付いていないから、ちょっと見えづらいかもしれないけど……下手にイメージを練って再現しようとしたら駄目だね、練習くらいはしておかないと。
「真っ直ぐ空に向かって飛んで。家とかを燃やさないように、ある程度の高度になったら、爆発して」
「……何その魔法?」
横で姉さんが首を傾げてるけど、それには構わず召喚した3体のウィルオウィスプを空へ向かうように指示する。
「ウィルオウィスプっていう、召喚魔法だって。この前キマイラと戦う時に、なんとなくイメージしたらできたんだ」
「何となくで召喚魔法って、できるものじゃないと思うのだけど……」
簡単に姉さんに説明しておき、空へと向かったウィルオウィスプを見る。
3体はそれぞれ俺の指示に従って真っ直ぐ上へと飛び上がり、さっきまでの花火よりも少し下の辺りで静止する。
そこで少しだけとどまって、炎を燃え上がらせ、破裂した。
パパパンッ!
3体同時に破裂して、その音が周囲に響くと同時、綺麗な火花が空で咲く。
音も見た目も、こちらの方が花火っぽいな……変に凝らなくても良かったかも……?
さすがに明るいと、煙も少なく、色が付いていない分見にくいけど、薄暗くなって来た空に咲く花火は綺麗だ。
「「「「「…………」」」」」
「皆驚いてるみたいね……召喚魔法に驚いてるのか、花火に驚いてるのか……これじゃわからないわ」
「えーっと……そうなの?」
「まぁ、デモンストレーションとしては、成功かもね?」
空を見上げて静まり返った観衆。
一緒に周りにいる貴族の人達も、兵士さん達も口を開けて空を見上げてる。
花火じゃなく、召喚魔法に驚くのは……ちょっと納得いかないんだけど……まぁ、初めてだからこんなものなのかもね。
驚かせるという意味では、デモンストレーションして成功としておこう。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
「え!?」
「皆正気に戻ったみたいね。驚きから戻って来たって感じかしら」
静まり返った周囲から、急に歓声が上がる。
いきなりだったから、驚いた。
「すげぇ、リク様すげぇ!」
「何あの魔法!」
「あんな魔法見た事が無いわ!」
「途中の魔法はちょっと怖い形だったけど、最後のは綺麗だったな!」
「ええ。子供が泣き出すかと思ったけど、最後の魔法で全て吹き飛んだわ!」
「誰も見た事のない魔法を使うなんて、さすがリク様!」
「キャーリク様ー! 私を燃やしてー!」
「私を打ち上げてー!」
等々、周囲から一斉に空を見上げていた人達がそれぞれに声を上げた。
やっぱり、変な事を言う人達がいるのは気にしない。
ほとんど、花火の事よりも魔法に対して驚いてるみたいだけど……まぁ、初めての花火だからこんなものかな。
「皆、楽しんでくれたみたいよ? 打ち上げる?」
「いや、変な事を言った人の声を取り上げないで。人を打ち上げるなんてできるわけないじゃないか。……ともかく、楽しんでくれたのなら良かったよ」
「まぁ、ほとんどが見た事のない魔法に対してだけどね」
「花火は失敗だったかなぁ? でも、初めて見たんだから仕方ないか」
「そうね。とりあえず、りっくんは帰ったら説教ね」
「何で!?」
「何でって……私の顔はあんなにおかしな顔じゃないわよ!」
「……それはゴメンナサイ」
イメージが足らなかったのか、花火で人の顔は無謀だったのか……タイプクイーンは不評なのは間違いない。
さすがに人の顔を無断で模して、さらに失敗と言えるような事になっていながら胸を張る事はできない。
姉さんには、部屋に戻ったらしっかり謝ろう……うん。
「リク様による魔法披露は終了! これより、進行を開始する!」
俺の魔法が終わり、少しだけ余韻のような間を開けて、先頭の兵士さんが声を上げる。
その声に従い、ゆっくりと行列が動き始め、大通りを進んで城へと向かう。
さっきの花火は、大通りの端にいる人達も見えたようで、最後の行進を見守る人達からは、それぞれに感想が叫ばれた。
ほとんど、見た事の無い魔法に対しての感想だったけどね……もう少し花火に対しての感想が欲しかった……。
予想より早く破裂したとはいえ、十分な高さで破裂してくれたから、大通り以外の場所にいる人達もきっと見えただろう。
今度、マティルデさんにも感想を聞いてみるか……その前に、冒険者を使って場所を確保した事を注意しておきたいけどね……苦情来たみたいだし。
ともあれ、少女が乱入というハプニングはあったものの、パレードは城へと入って終了だ。
集まった人達は、これからそれぞれお酒を飲みに行ったり、お祭り気分で色々楽しむんだろう。
「リク殿、お待ちしておりました」
「ヴェンツェルさん。ハーロルトさんも」
「先程の魔法、パレードの進行、お見事でした」
城門を通り、城前の広場へと帰りつくと、休憩時に交代していたヴェンツェルさんとハーロルトさんが迎えてくれた。
魔法はともかく、パレードの進行の方は、俺じゃなく他の皆を褒めて欲しい。
警備してくれた人や先導してくれた人、それぞれの協力があってできた事だからね。
「陛下、リク殿……こちらへ」
ヴェンツェルさんに呼ばれ、馬に乗ったまま俺と姉さんが隣へ移動する。
その場で馬を操り、城前の広場へと戻って来た皆の方へと向く。
「総員、下馬! ……では、お願いします」
「うむ。……これにて、祝勝パレードを終了する! 皆の者、ご苦労であった!」
「「「ははっ!」」」
「りっく……リク、最後に一言頼む」
「……わかりました」
ヴェンツェルさんの号令で、戻って来た皆が馬や馬車から降り、俺や姉さんに向かって敬礼をする。
それを見た姉さんが頷いて、皆へ言葉をかけて、パレードの終了かと思ったけど、俺からも何か言わないといけないみたいだ。
こういうのは、あまり得意じゃないんだけど……女王様モードの姉さんに言われたら、断れない。
「えーッと、皆さん。本日は俺のためにありがとうございました。おかげさまで、無事パレードを終える事ができました。……えっと、お疲れ様でした!」
「「「ははっ!」」」
「りっくん……もう少し格好よく言えなかったのかしら……?」
皆へ声をかけ、それに答えるように兵士さん達が姉さんの時と同じく、応えてくれた。
隣で小さく呟いてる姉さんの声は、聞こえないふり。
だって……皆の前で格好よく決めるとか、何も考えて無かったから仕方ないじゃないか……。
1
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる