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失敗しないようにイメージを練る
しおりを挟む「こんな調子で、明日のパレードでの魔法は大丈夫なのかしら? もし失敗したら、エルサちゃんの言っていたように、観衆に危険が及んでしまうわ……」
「話を聞いた限りだとだわ、リクが魔力調節に失敗したのだわ?」
「うん、そうだよ」
ぶつぶつ言う姉さんと、詳しい状況を聞くエルサ。
自分の失敗を説明するのは気が進まないけど、仕方ないね。
線香花火の魔法の失敗と、水の球を作り出した時のしっぱいをエルサに伝えた。
「その失敗なら、明日は大丈夫なのだわ」
「そうなの?」
「だわ。リクは魔力量が多過ぎて、小さい魔法を使うのが不慣れなのだわ。明日の魔法は今日の魔法より大きな魔法……リクが気を付けていれば、失敗する可能性は低いのだわ」
「でも、エルサちゃんも最初は失敗する事を危惧して、反対だったんでしょ?」
「それはそうなのだわ。あの時は、リクがどんな魔法を使うのかわからなかったのだわ。そんな状況で、リクが魔法を失敗させる可能性を考えると、反対するしかないのだわ」
「ふむ……でも今は、大丈夫だと?」
姉さんとエルサが話す内容を、黙って聞き続ける。
失敗した俺には、発言権は無いとばかりの姉さんの迫力だから、黙ってソファーの上で正座しているしかない。
「昨日聞いた花火の魔法なら、そうそう今日のような失敗をする事は少ないのだわ。上空で破裂して、地面に降って来るまでに燃え尽きる……イメージをしっかりしてれば大丈夫なのだわ。あと、リクが落ち着いてる事も条件なのだわ」
「ふむふむ。それでも、失敗する可能性はあると?」
「もちろんあるのだわ。リクの失敗を目の当たりにしたのならわかるのだわ?」
「周囲に被害が出たらどうしようかしら……」
「それは大丈夫なのだわ。その時は、私が何とかするのだわ」
「エルサちゃんが?」
「うむなのだわ。私が結界を張って、被害が出ないようにするのだわ」
「エルサちゃんがそう言うなら……でもねぇ……?」
もしもの時は、エルサが結界を張って周囲を守ってくれるらしい。
そう考えると安心だけど、エルサの結界をよく知らない姉さんは、まだ半信半疑のようだ。
結界かぁ……もしもの時は、俺も使おう。
「大丈夫だよ、姉さん。エルサの結界と俺の結界で皆を守るから」
「そんな事を言えるのかしら? 今日も失敗したのに……」
「まことに、申し訳ございません」
「パレードの時、馬に乗るから私はリクと一緒にいられないのだわ。けど、離れたところで様子を見て、危なかったら結界を使うのだわ」
「はぁ……わかったわ。エルサちゃんがここまで言うのなら、ね。エルサちゃんに感謝するのよ、りっくん?」
「はい……」
エルサが説得してくれたおかげで、何とか姉さんも納得してくれたようだ。
魔法をどうしても使いたい、というわけじゃないけど、考えてイメージを固めつつある花火の魔法を、皆に見せたいという思いがある。
エルサも、俺が花火を……と考えていなかったから、打ち合わせの時に反対しただけのようだし、良かった。
まぁ、今回のような失敗を考えると……派手で見栄えの良い魔法と考えた時、花火のような魔法でなければ反対したくなる気持ちもわかる気がする……。
反省して、もっと練習しよう……うん。
「はぁ……大浴場はやっぱり良いわね」
「あれだけ広い場所だとな」
「……集落にも、あれと同じ物を作った方が良いと思うのよ?」
「しかし場所がな……村のはずれとかになってしまうぞ?」
「皆様、お帰りになりました」
「ご苦労様、ヒルダ」
「皆、お帰り」
姉さんやエルサと話して、結論が出たあたりで皆が大浴場から帰って来る。
ずぶ濡れになったけど、すぐにお風呂で温まったおかげで、体調を崩してる様子はないようで安心だ。
俺は、タオルで拭いただけだから、まだ少し濡れてるけど……。
「リクさん、ただいま」
「しかしリク、あれだけの魔法で失敗するとなると、明日は……」
「そうよ、周囲に被害を出すわけにはいかないわ」
「失敗しないと信じたいが、先程のあれを見るとな……」
「それなんだけどね……」
「大丈夫なのだわ」
皆が明日のパレードでの魔法を心配して、それぞれ声をかけて来るけど、姉さんとエルサが協力して問題が無い事を伝えてくれた。
エルサの結界を知ってる皆は、それならとすんなり納得してくれる。
ちなみに俺はその間、反省のためとずっと正座をしたままだ……そろそろ足が痺れて来たんだけど……。
「それじゃ、私達は帰るわね」
「あぁ、大分遅くなってしまったな」
「ごめんなさいね、私の弟が……」
「いえ、陛下が謝らなくても良いのですが……」
「冒険者の失態を、女王陛下が謝る……不思議な光景だな……」
「この度は、ご迷惑をおかけしました……」
モニカさん達が宿へと帰る時、姉さんが俺と一緒になって謝ってる様子に、エルフの二人が戸惑う。
確かに、一国の王が元弟のために頭を下げるなんて前代未聞……なのかもしれない。
改めて、皆に深々と謝り、今回の事をしっかり反省しよう。
「じゃあ、りっくんはこのままちゃんと魔法を成功させるために、しっかり反省する事。良いわね?」
「はい、頑張ります……」
「破裂させる部分のイメージさえしっかりしてれば、大丈夫だと思うのだわー」
そろそろ夜も深くなって来たから、お風呂に入って寝たいと考える事も許されず、花火のイメージを固める事を厳命された。
反省するべき事だから、仕方ないよね。
部屋から出て行く姉さんを見送り、改めてヒルダさんにもお礼と謝罪をして、ソファーでエルサをモフモフしながら、花火のイメージを始める。
モフモフがあった方が、リラックスして集中できるなぁ……。
「んっと、花の見た目は覚えたから……あとは……」
さっき見た花を思い出しながらイメージを固める。
メアリーの花……姉さんの名前と一緒ってのは、ちょっと複雑な気分だけど、そう呼ばれてるのだから仕方ない。
それが終わったら次は、別の花火のイメージだ。
同じ魔法というより、別の魔法として区別して考えた方がやりやすいかな?
基本は一緒で、見た目だけを変える……。
「んー……細かい部分がちょっと不安だけど、空高く打ち上げるんだから、これで良いか」
細かく作り込んでも、おそらく皆からは見えないだろう。
そこまでこだわらなくても、多分大丈夫だろうしね。
こういうのは、細かい部分にもこだわりを持って……と考えてる職人さんあたりが聞いたら、文句を言われそうだけど、時間がないから仕方ない。
「あとは……」
「ちゃんと空に打ち上げるまで、破裂しないよう練り込むのだわ。私は人間を守るためにいるのじゃないのだわ」
「ははは……それでも、もしもの時は守ってくれるんだろ? 頼りにしてるよ」
「言ったからには守るのだわ。リクがそうしたいと考えてるようだからなのだわ。私としてはどっちでも良いのだわ」
俺に毛を撫でられながら、そっぽを向いて言うエルサ。
多分だけど、人を守ると言った自分が今になって、少し恥ずかしくなってるんだと思う。
出会った頃のエルサだったら、キューをもらう以外でこういう事はしなかっただろうなぁ……。
「リクが困るのは本意では無いのだわ。だから、失敗しても大丈夫なようにするだけなのだわ」
「ありがとう。俺のためだとしても、嬉しいよ」
「契約者だからなのだわ。それ以外の理由はないのだわ……」
「それでも、だよ」
これが人間だったら、顔が赤くなってたりするのかな?
あいにくと、犬に似た造形をしてるドラゴンの顔は、人間のように照れて赤くなるような事は無いのがだ残念だ。
けど、エルサも色々考えが変わって来ている部分もあるようだから、きっとそうなんだろうと思った。
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