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ワイバーンを運んで王都へ
しおりを挟む「やっぱりリクに任せるのは間違いだったのだわ!」
「ごめん、ごめん。次はちゃんとやるから」
「……信じられないのだわ……」
どうやら、鼻をぶつけた痛みで、俺の信用はゼロになってしまったらしい。
まぁ、気分良く飛んでいて、いきなり目の前に壁を出現させられ、さらにそこに激突したら、エルサでなくても怒るか……俺には空を気持ちよく飛ぶ感覚はわからないけど。
「えーと、エルサが動くのに合わせて、結界も動くように……」
「……移動してる物と結界を線で繋げて、内側から結界を押すイメージなのだわ」
「お、ありがと、エルサ」
怒りつつも、ちゃんとイメージを教えてくれるエルサ。
成る程……内側から棒を突き出して、それで動かすイメージか。
箱の中にある物が動いても、まず棒状にした物が先に当たるから、中にいる物がぶつかる事はないんだな。
えーと、結界自体が風船のように動くようにイメージして……。
「……エルサちゃんとリクさんが、何を言ってるのか理解できないわね」
「私達とは、根本的に魔法の考え方が違うみたいだからな」
「イメージで魔法って、本当になんなのかしらね?」
「人間はもとより、エルフ達でも理解はできんだろうな……魔法の理から外れている」
「リクとエルサが特別なのよ!」
イメージしてる最中、皆の声が聞こえて来たけど、そこまで理解できない事なのかな?
まぁ、ドラゴンの魔法……という事だから、人間やエルフとは全く別物何だろうけど。
そもそも、ユノが神様の時に作ったエルサ……ドラゴンだから、ユノが言う特別、というのも間違いじゃないのかもしれない。
「……イメージし直して、結界!」
「……今度は大丈夫なのだわ?」
皆の話し声を聞きながら、イメージを固めて、再度結界を張り直す。
さっきの結界は、二度目の発動と同時に消しておいた。
二度目がうまくいっても、そっちが残ってたら、また激突するからね。
「大丈夫だと思う。エルサ、動いてみて?」
「……わかったのだわ……そ~なのだわ」
先程結界にぶつけた鼻が、余程痛かったのか、エルサは空中で器用に手を前に出しながら、ゆっくり移動する。
「ぶつからないのだわ。これなら、大丈夫なのだわ?」
「大丈夫そうだね。それじゃ、改めて王都へ行こう」
「わかったのだわー」
しばらく移動した後、何にもぶつからない事を確認したエルサは、安心した様子で王都へと再度、飛んで向かう。
「今度は、息苦しい事はないわね?」
「そうだな。いつも乗ってるのと変わらない感じだ」
「浮遊感は多少なりともあるから、やっぱりまだ慣れないけどね」
「だが、息ができないという事はないからな。それだけでも十分だ」
「風があまり感じられないの……」
皆の方も、さっきと違い、風が遮断されて快適になった事で、安心したようだ。
呼吸困難はつらいだろうからね……数分なら耐える事ができても、王都までは数時間かかる。
その間ずっと苦しんでたら、王都に付く頃には疲労困憊だ……下手したら命が危ないからなぁ。
ユノだけが残念そうだったけど、だからと言って結界を解いたりはしないからな?
いつか暇な時にでも、結界が無くても大丈夫な俺と二人で、エルサに乗って風を楽しみながら空を楽しむ……というのも良いかもしれないな……。
俺も、実はちょっとだけ、強く吹き付けて来る風が気持ち良かったからね。
「そろそろ王都ね……」
「遠目に城が見えて来たなぁ」
「……いつもより、飛ぶ速度が速いのではないか?」
「……かもね。エルサ?」
「どうしたのだわー?」
「いつもよりスピードが速い気がするんだけど、どうなんだ?」
「今回はリクの結界があるのだわ。だからいつもより速度を出しても、リク達に影響が少ないのだわー」
「そういう事か……」
王城が薄っすらと遠くに見え始める頃、いつもより速度が出ていた事に気付いた。
エルサに聞いてみると、俺が結界を張ったかららしいが……まぁ、飛びながらエルサが結界を張るよりは、しっかりした結界になるのは当然か。
ワイバーンにも結界を使ってるから、全力じゃないんだろうけど、それでもいつもよりスピードが出ているため、今日はどこかで野営をして、明日の昼くらいに王都に到着する……と何となく考えていた予定も、前倒しになったようだね。
……それだけ、エルサが早くキューを食べたい、という現れなのかもしれない……いつものスピードも今も、流れて行く景色の速さに目が追いつかないから、気付かなかった。
「……リクさん、このまま王都に行くのは不味いんじゃない?」
「ん? どうして?」
「いえ……エルサちゃんはまだしも、大量のワイバーンを持って来てるし……」
「あぁ、そうかもしれないね……」
エルサは、以前の魔物達の襲撃の時、一緒に戦ってるのを見てる人達もいるだろうから、王都の近くに降りて、誰かに見られても問題は少ない。
全くないとは思わないけどね。
でも、バラバラになったワイバーンを、大量に持って来てるのを見られたら、城下町の人達を驚かせてしまうかもしれないね。
特に、見張りをしている兵士さん達とか……。
「それじゃ……そうだな、近くで隠せるような場所があると良いんだけど……」
「ワイバーンの皮は高価な物だからな……おかしな連中が接触して来る事も考えられる。かくして見つからないようにした方が良いだろうな」
「エルサ、もう少しスピードを落としてくれ」
「わかったのだわー」
ワイバーンを隠すための場所を探すため、上空から辺りを見下ろしながら、スピードを落としてもらう。
できれば、街道から離れた場所で、人に見つからない場所が良いんだけど……?
「あ、リクさん。あの辺りが良いんじゃない?」
「ん、どれどれ……? ……そうだね。あそこなら見つかりにくそうだね」
モニカさんが見つけ、指を差し示した方角を見ると、そこは王都から離れ過ぎず、近過ぎずの場所で、さらに街道からも離れている。
それなりに木々があって、目隠しになるから、何も知らずに近くを通っても見つかりそうにない……と思える場所になってるね。
「よし、エルサ。あの木がいくつかある場所に降りてくれ」
「わかったのだわー」
エルサに指示を出して、モニカさんが見つけてくれた場所に向かう。
「ここなら、しばらくは見つからないかもしれないな。……あまり長い時間置いておけないだろうが……」
「そうだね。一度王都に戻って、明日にでもまた来よう」
「疲れたのだわー」
ソフィーと話しながら、ワイバーンを木の陰に隠す。
エルサが結界を解いたら、バラバラになって崩れたから、ちょっと大変だったけど……。
そんなエルサは、結界でワイバーンを運びながら空を飛んだからなのか、疲れたと言って小さくなり、俺の頭へコネクト。
魔力も使っただろうからね。
「エルサちゃん……まだ王都までは少しあるんだけど……?」
「疲れたから、もう飛べないのだわー。キューがないから飛べないのだわー」
「……エルサ」
モニカさんが、王都までの距離を確かめながら、エルサに聞いても、俺から離れたり大きくなる気はないようだ。
キューがないからって……ドラゴンらしい我が儘……なのかな?
「仕方ないわね。ここまで飛んで運んでもらっただけでも、ありがたいわ」
「だな。ここからは、歩いて行っても良いだろう」
「……はぁ……そうね。今度から、キューを絶やさないように気を付けないと」
「あはは、そうだね。俺ももう少し持って来てれば良かったよ」
フィリーナとアルネは、歩いて王都に戻る事を提案。
まぁ、エルフの二人は、まだエルサに乗って飛ぶことに慣れていないからだと思うけどね……。
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