205 / 1,903
大浴場へ皆で移動
しおりを挟む「はぁ~」
「陛下、だらしないですよ」
「仕方ないじゃない……言いたいことも言えなかったんだし」
マックスさん達が部屋を出てすぐ、姉さんが大きなため息を吐いてソファーに倒れ込む。
ヒルダさんに注意されるが、それにも構わない。
マックスさん達に言いたい事を言えなかった事が、よっぽど窮屈だったらしい。
女王様モードを続けるのも、楽じゃないのかもね。
それを見るモニカさん達、事情を知るメンバーは姉さんの変わりように苦笑するしかできない。
「せっかくりっくんがお世話になってる人に会えたのに、姉として挨拶できないなんて……」
「陛下は今、この国の女王なのですよ? リク様の姉という事は内密なのですから、致し方ありません」
「陛下、父さん達には先程の言葉だけで十分ですよ。リクさんには、私達親子もお世話になってるんですから」
「ん~、モニカちゃんは良い子ねぇ」
「へ、陛下……」
姉さんは随分と俺の姉である事にこだわるようだけど、実際日本にいた時もこんな感じだったから、俺としては懐かしいくらいなんだけど、他の人にとっては女王様が……という事でちょっと戸惑ってるみたいだ。
ヒルダさんが注意する中、モニカさんがフォローするように声を掛け、体を起こした姉さんに頭を撫でられ始めた。
モニカさんの方は、どうして良いかわからず戸惑うばかりだけど、姉さんの方は楽しそう。
これも昔からの癖みたいなものなんだけど、姉さんは可愛い女の子を可愛がるのが好きみたいだ。
同性愛とかそんなんじゃなく、単純に可愛い物を愛でるという感覚との事だ。
……以前、姉さんは男じゃなく女の子が好きな人なのかと聞いたら、鉄拳制裁されたのは、微妙な思い出だ。
「モニカちゃん……良い子なんだけど……ちょっと匂うわね……。駄目よ? 可愛い子が汗を掻いてそのままにしてちゃ」
「あ……す、すみません!」
モニカさんの頭を撫でながら、鼻をひくつかせて汗のにおいを嗅ぐ姉さん。
……その様子は、弟として何だか恥ずかしい気分だ。
「皆さま、本日は兵士を始め、ヴェンツェル将軍との合同訓練お疲れ様でした。大浴場を用意しております」
「大浴場?」
「城の浴場か……興味はあるな」
「女として、これに乗らない手はないわよね」
「お風呂なの!?」
ヒルダさんは、俺達が戻って来る時間に合わせて、大浴場を用意してくれてたみたいだ。
城の大浴場というのがどんな物なのか気になるが、俺以上に興味を示してるのは女性陣。
やっぱりこういう事は、女性の方が気になるものなんだろう。
部屋の隅でうとうとしていたユノすら、顔を上げて大きく反応している。
「ふむ……久々に私も入ろうかしら?」
「陛下が入るのでしたら、他の者に伝えて貸し切りと致しますが?」
「そうね、それで良いわ」
「し、城の大浴場を貸し切り?」
「とんでもない贅沢だな」
「……良いのかしら?」
「贅沢なのー!」
姉さんも一緒に皆と入りたがり、それを聞いたヒルダさんが貸し切りとしてくれるよう手配してくれるみたいだ。
贅沢な事なんだろうけど、女王様である姉さんが一緒にいるからできる事なんだろうな。
「大浴場は本来、城の兵士、使用人等の者達が入るための物だったのですが……陛下が即位した後、入りたいと我が儘を申しまして……」
「大きなお風呂! 入りたいじゃない!」
「……姉さん……」
大浴場は兵士や使用人たちが大勢入るために作られた場所のようだ。
城の中で仕事をするにあたって、汚れる事もあるだろうから、確かに一人一人順番に入るよりも、大きな場所で一気に入る方が効率が良いのだろう。
大きなお風呂に入りたいという気持ちは、俺にもわかるけど、姉さんは女王としての特権で貸し切りにして入れるようにしたらしい。
大きなお風呂に入れる事の素晴らしさを、身振り手振りで大仰に伝える姉さん。
「……まぁ、そういう事でして。よろしければ、皆様もいかがですか?」
「そう、ですね……陛下と同じお風呂に……というのは恐れ多いのですけど」
「そんなの気にしないで! 一人で入るより一緒に入った方が楽しいわよ!」
「陛下がよろしいのであれば、お言葉に甘えましょう」
「私も、入らせていただきますね」
ヒルダさんの勧めに、最初難色を示していたモニカさんだけど、姉さんが皆で一緒にと言ってくれたおかげで、ソフィーさんを始め、フィリーナも一緒に入る事にしたようだ。
しかし姉さん……女王様と一緒に入るのが恐れ多いと考える皆の意見は完全に無視なんだな……まぁ、もしかしたらいつも広い大浴場に、貸し切りで一人だけだったのかもしれない……寂しかったのかな?
「リク様とアルネ様はどう致しますか?」
「俺は……大浴場の方に行きます」
「俺は遠慮しておこう。興味がないわけではないが……この部屋の風呂を使わせてくれれば良い」
俺とアルネにも訪ねて来たヒルダさん。
俺は大きなお風呂と言うのに興味があったから、もちろん入る事にする……銭湯みたいなところかなぁ?
アルネの方は、興味がありながらも断るようだ。
まぁ、男だと皆と一緒に入って楽しいという感覚はほとんどないから、こんなものなんだろうな。
「りっくん、一緒に入る? 久々に頭を洗ってあげるわよ?」
「姉さん……それは駄目だろう……」
「リクさんと一緒に……」
「はっはっは、私は気にしないがな。しかし、リクは昔そうだったのか?」
「リクの子供の頃……これは興味があるわね……」
「リクと入るの? それも楽しそうなの!」
姉さんがいきなりの爆弾投下。
確かに……昔はシャンプーが目に入るのが嫌で、姉さんに洗ってもらってた事があるけどさ……。
本当に小さい……ユノよりも小さい頃の話だからね?
とは言え、さすがにこの年になってまで女性陣と一緒に入るわけにはいかない。
恥ずかしいしね……興味がないわけじゃ……ないんだよ? うん。
「あはは、まぁ、りっくんも大きくなったという事で、今回は別々ね」
「今回は、というよりこれからはずっとだよ……」
笑ってる姉さんだけど、他の皆は俺の子供の頃の話に興味津々だ。
……姉さん、風呂場で余計な事を言わなきゃ良いけど……昔を知られてるから、恥ずかしい話なんていっぱいあるから……。
モニカさんだけは、何か別の事を考えているようで、顔を真っ赤にして俯いている……どうしたんだろう?
「こちらになります」
「ほぁ~」
「広いな……」
「大、浴場とはまさにこの事ね」
「広いの! ……泳げるかなぁ?」
ヒルダさんに案内されて、アルネ以外の皆で大浴場に到着。
百人くらいが一斉に入れるくらいの大きさの脱衣場の入り口から、皆感嘆の声を漏らしている。
だけどユノ、湯船で泳ぐのはマナー違反だから、あまりやらないように。
……姉さんなら進んで泳いで良いとか言いそうだけど……。
「それじゃ、俺はこっちだね」
「また後でねー」
姉さんやヒルダさん、他の皆に断って俺だけ別の場所に移動。
さすがにここから先は一緒に入る事はできない。
男女別になっている脱衣場の、男用に入り、中を見渡す。
ヒルダさんからの連絡のためか、そこには俺以外誰もいない。
……姉さんが皆と入りたがる気持ちが少しわかったかも……この広さで一人だけというのは、少し寂しいかもしれない。
1
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。
ninjin
ファンタジー
魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。
悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。
しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。
魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。
魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。
しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる