上 下
203 / 1,903

姉とマックスさん達との初対面

しおりを挟む


「まぁ、リクも実りがあったと思えばいいさ。我々も勉強になったしな」
「そうね。武器と魔法……織り交ぜて使う事で戦い方にも幅が出るのね……」
「そっちも、収穫はあったみたいで良かったよ」

 フィリーナとアルネの二人は、魔法だけで戦うのではなく、武器も使いながら戦う事で幅を広げると言う事を考えられるようになったみたいだね。
 俺にはまだ無理だろうけど、剣を振りながら、魔法も使って相手を翻弄するというのは戦闘において有効な手段になるんだろう。
 ……確か、マリーさんがモニカさんに叩きこんでた戦法だね。

「かと言って、武器を使う事にばかり比重を置く事はできないからな。我々はエルフだからな」
「そのバランスが難しいのよねぇ……武器を使う事に集中すると、魔法の事を忘れがちになるし……逆も同じ」

 二人は頭を悩ませるように相談している。
 まぁ、エルフだから人間より威力のある魔法が使えるんだ、武器を使う事にばか気を取られてしまったら本末転倒になってしまうだろう。
 そういった点では、モニカさんと逆なのかな?
 モニカさんは武器を使いながら、牽制に魔法を使うように特訓したらしい。
 それとは逆に、武器を牽制に使って魔法を主に使う……という事だろう……二人には頑張ってもらいたい。
 俺には、調整が難しくて無理そうだからね。

「お帰りなさいませ」
「帰りました、ヒルダさん」
「お帰りー、りっくん……あ……。ヴェンツェルもいたのか。ご苦労だった」
「ね……陛下。会議はもう済んだんですか?」

 皆で一緒に部屋に戻ると、姉さんがまた昨日と同じようにくつろぎながら待っていた。
 ヴェンツェルさんやマックスさん達も一緒にいる事に気付いて、すぐに姿勢を正してたけど……もう少し油断しないようにした方が良いんじゃないかな?
 ……思わず姉さんって言いかけた俺が言える事じゃないかもしれないけど。

「会議なら少し前に終わった。その報告も兼ねてな……少し匂うな……」
「あぁ……まぁ、体を動かしてたので……」
「リク様、湯浴みの準備はできております」
「ありがとうございます、ヒルダさん」
「ふむ、俺達はどうするか……陛下と初めて会うのに、このままでは恐れ多い……」
「そうねぇ……私はあまり動いてないけど……さすがに気になるわ……」

 姉さんがこちらに近付きながらスンスンと鼻を鳴らして一言。
 今までしっかり訓練をしていたんだから、汗をかいているのも当たり前だ。
 一応、タオルで拭いたりはしているけど、着替えてたりはしないので、匂ってしまうのも仕方ないだろう。
 気を利かせてくれたヒルダさんにお礼を言って、さっさと風呂に入ってしまおうと考えてる時に気付く。
 そう言えば、マックスさんとマリーさんは、姉さんと会うのは初めてだっけ。

「陛下、私はこれで。今回の合同訓練、実り有る有意義なものでした」
「うむ、わかった。ご苦労」
「はっ。では」

 姉さんに簡易的な報告をして、ヴェンツェルさんは帰って行った。
 一応、不慣れな俺達を案内する役目があったからここまでついて来たけど、将軍という地位のある人だ、色々忙しいのだろう。
 会議と聞いて一瞬体を硬直させたから、それが原因で逃げ出した……と言う事は無いよね……?

「……逃げたわね……」

 ヴェンツェルさんを見送ってボソリと姉さんが呟く。
 ……やっぱり姉さんも逃げたと感じたようだ。
 会議とか議論とか、ヴェンツェルさんには似合わないからなぁ……それで将軍という役職がよく務まってるとは思うけど。

「陛下、お初にお目にかかります」
「リク、モニカ等、粗相は無かったでしょうか?」
「そなたらがモニカの父と母か。話は聞いているぞ」

 ヴェンツェルさんが部屋を出て行くのを見送った後、マックスさんとマリーさんが姉さんの前に跪いた。
 初めて会うから挨拶を、という事なんだろうけど……マリーさん、俺もモニカさんと同じ扱いなのかな……?
 まぁ、お世話になっているし、この世界での保護者のような感じだから、むしろその扱いは俺にとって嬉しい事でもあるけどね。

「りっく……リクはもちろん、モニカも我を楽しませてくれているぞ」
「はっ……陛下に何か失礼が無いかと心配しておりましたが……」
「リクはまだしも、モニカは世間知らずな所がありますので……」

 マリーさんからすると、俺よりもモニカさんの方が何かしでかさないかと心配だったらしい。
 むしろ、この世界の事をよく知らない俺の方が、何かしそうだと自分では考えていたんだけどなぁ……。
 マナーとか、未だによくわからないし。
 でも姉さん、女王様モードが続いてるから良いけど、やっぱり俺の呼び方を間違えそうになるんだな。
 ……ちょっと練習が必要……かな……?

「父さん、母さん……私はちゃんとしてるわよ?」
「ヘルサルではそうなんだが……リクに付いて行くまで、ほとんど街を出た事が無かっただろう?」
「世間知らずな所があるのは間違いないわね」
「ははは、モニカは両親からしっかり愛されているんだな」
「陛下まで……」

 モニカさんは、自分でしっかりしていると考えているから、マックスさん達の言い方に少し引っかかったようだ。
 まぁ、本当にモニカさんがしっかりしていても、親としては心配は尽きないものなんだろうな。

「それで……だがな……」

 姉さんが俺とヒルダさんへ視線をチラチラと向けながら、何かを言いたそうにしている。
 何となく言いたいことはわかる。
 姉さんにとって、俺という弟がお世話になってる二人だ、姉として何か言いたいんだろうけど……。

「陛下……」
「やはりか……仕方ない……」

 ヒルダさんは、姉さんの視線を受けて首を横に振る。
 姉さんはそれを受けて仕方ないと考えたようだ。
 ……これに関して、俺が何かを言う事はできないだろうけど……姉さんは一応この国の女王様……最高権力者だから、一介の元冒険者で今ではヘルサルで食べ物屋を営む国民である二人に、俺の姉として何かを言う事はできないんだろう。
 事情を知るのは、授与式の様子や姉さんと俺を見ていた中で、近しい人に限る……という方針みたいだしね。
 ……俺も、これに関しては世話になってる二人に言えないのは、あまりいい気分じゃないけど……仕方ないよね……いつか言えるようになれれば良いと思う。

「それでは陛下、私共はこれで」
「もう帰るのか?」
「ええ。私達は明日ヘルサルに向けて王都を発ちます。その準備も必要ですから。……それにヘルサルの店を人に任せたままなので、そちらも心配ですし」
「そうか、わかった。また何かあれば王都を訪ねて来れば良い」

 マックスさんとマリーさんは、明日王都からヘルサルに帰るようだ。
 マリーさんが言う準備というのも、本当だろう。
 この王都に来る時、エルサに乗って来たから、数日かかるヘルサルへの帰路は色々準備する事が必要なはずだからね。
 冒険者をしていて旅慣れた二人だから、心配する必要はないんだろうな。

「じゃあな、モニカ、リク」
「また明日、見送りに行きますよ」
「そう。それじゃ、また明日ね」
「私はもう少しここにいるわね」
「あぁ、ゆっくり話すと良い。……陛下に失礼の無いようにな」
「大丈夫よ」

 マックスさんとマリーさんが部屋から出るのを見送る。
 軽く二人とも話をして、明日の昼過ぎに王都入り口辺りで待ち合わせする事になった。
 初めて王都に来た時、入るために通った門のところだね。
 明日はマックスさん達を見送る事に決まった。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

転生最強ゴリラの異世界生活 娘も出来て子育てに忙しいです

ライカ
ファンタジー
高校生の青年は三年の始業式に遅刻し、慌てて通学路を走っているとフラフラと女性が赤信号の交差点に侵入するのが見え、慌てて女性を突き飛ばしたがトラックが青年に追突した しかし青年が気がつけば周りは森、そして自分はゴリラ!? この物語は不運にも異世界に転生した青年が何故かゴリラになり、そして娘も出来て子育てに忙しいが異世界を充実に過ごす物語である

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...