上 下
194 / 1,903

暑苦しい再会

しおりを挟む


「それでは、昼食の支度をして参ります」
「人数が多くてすみません」
「いえ、このくらいの人数でしたら問題ありません。城の兵士達の数に比べれば……」
「ははは、そうですね」
「城の料理か……興味があるな……」
「食べ物なのだわ!?」

 合同訓練は昼食後だ。
 まだ少し昼食には早い時間だけど、ヒルダさんが朝食を取ってない俺を気遣って、少し早めの時間でも用意してくれる事になった。
 まぁ、作るのは城の料理人なんだけどね。
 マックスさんは、料理人として城の料理に興味がある様子だ。
 昼食と聞いて、ずっとベッドで寝こけていたエルサが反応して飛び起きた。
 ……こういう時だけ反応が良いな……昨夜の優しい感じのエルサは一体どこへ行ったんだろうか……?

「どうぞ」
「失礼する。リク殿、準備は整ったか?」

 昼食後、皆でお茶を飲みながら休憩していると、ヴェンツェルさんが部屋を訪ねて来た。
 ノックの音にヒルダさんが確認をし、許可を出すと入って早々ヴェンツェルさんが聞いて来る。
 よっぽど俺と手合わせしたいのか、表情はワクワクしているかのように見える。

「はい、大丈夫ですよ」
「ヴェンツェル、久しぶりだな」
「懐かしいわね」
「おぉ、マックス。マリーもいるのか!」

 準備が整った事を伝えると、マックスさんといマリーさんもヴェンツェルさんに声を掛けた。
 二人を見たヴェンツェルさんは、驚いているようだ。
 ここにいるとは知らなかったなら、久しぶりの二人と会えて驚くのも無理はないよね。

「どうしてここにいるんだ? 二人は冒険者を引退してヘルサルにいると聞いていたが……ん、ヘルサル?」
「気付いたか、ヴェンツェル」
「何の縁か、リクとは私達の獅子亭で暮らしてたからね」
「やはりそうなのか!?」

 マックスさんと俺が一緒にいる事と、ヘルサルという街の名前で、俺が獅子亭にお世話になっていた事を察したようだ。
 面倒見のいい人達だから、マックスさん達の人柄を知っていれば、そう考えるのも自然な事なんだろう。

「今日はリクからの誘いでな。俺達も訓練に参加する事にしたぞ」
「そうか! 久しぶりにお前達の動きを見られるのは嬉しいな!」
「まぁ、現役を引退して長いから……昔より衰えてるけどねぇ」
「しかし、ヴェンツェルよ。お前が国の将軍とはな……出世したものだ」
「まぁな。これも昔、お前達と鍛えたからだと思ってるぞ、マックス!」
「そうか、ヴェンツェル!」

 訓練に参加する事を伝えてるマックスさんだが、マリーさんの方は現役から衰えてると言う。
 防衛戦の時の戦いぶりを思い出すと、とても衰えてるとは思えないんだけど……もしかすると現役はもっとすごかったのかもしれない。
 それはともかく、急にマックスさんに詰め寄るヴェンツェルさん。
 それに合わせるように、マックスさんの方もヴェンツェルさんに向かう。

「ふっ! はっ!」
「ぬぅん! はぁ!」

 急に二人は拳を突き出し、お互いの拳を何度も打ち付け合い始めた。
 暑苦しい掛け声と二人の筋肉が異様に躍動している気がする……。

「……始まったわね……これさえなければ……」
「母さん……父さんは一体何を?」
「二人の間で、これが会話の代わりみたいなものらしいのよ。男にしかわからない世界とか言ってたわね」
「急に部屋が暑くなった気がするな」
「……男でも、エルフだから私はわからないのだろうか……?」
「エヴァルトとなら気が合いそうね……」
「素手を打ち合ってるのに音が聞こえてくるの!」
「……暑苦しいのだわ」

 溜め息を吐くような感じで、マリーさんは呆れ顔だ。
 父親の見た事の無い姿に戸惑っているモニカさんにマリーさんが説明。
 他の皆は、暑苦しい二人を見て様々な表情をしているが、俺はエルサの言葉に賛成だ。
 それとアルネ、多分エルフとかは関係無いと思うよ……フィリーナが言うエヴァルトさんと気が合いそうというのは、何となくわかる気がするけど。

「まだまだ衰えていないようだな、ヴェンツェル」
「若い者に負けていられんからな。そう言うお前こそ、引退したとは思えんな……マックス」
「まぁ、日々重い鍋を振り回してるからな」

 足を動かさず、その場で拳を打ち合っていた二人が急に動きを止め、がっしりと握手をする。
 お互いを認め合う笑顔を浮かべ、互いに衰えていない事を確認したようだ。
 だけどマックスさんは、料理をするために重い鍋を持っているのは確かだけど、振り回してはいないと思うのは、無粋なのだろうか……。

「……あのー、そろそろ良いですか?」
「おっと、すまんなリク殿。マックスと久しぶりの再会で張り切り過ぎてしまった」
「まぁ、それは良いんですが……兵士達との訓練もあるんでしょう?」
「そうだな。私が訓練場に案内する。付いてきてくれ」

 がっちりとした握手をしている二人の横から、おずおずと声をかける俺。
 部屋の温度が上がるから、張り切るのは程々にして欲しい。
 ヴェンツェルさんに近付くのを止めようともがくエルサをそのままに、俺の声で何のためにここに来たのか思い出したヴェンツェルさん。
 ヒルダさんを部屋に残して、俺達皆でぞろぞろとヴェンツェルさんに付いて行った。

「ここが訓練場か。冒険者ギルドにある場所よりも充実しているようだな」
「そりゃあ、ここは国の中心部だからな。軍の中心でもあるから、日頃の訓練は欠かせん」

 マックスさんが案内された訓練場の中を見渡しながら感嘆の声を漏らす。
 それに答えるヴェンツェルさん。
 確かに国の中心で、重要な軍が訓練する場所だから、色々と充実するのは当然だね。

 俺達が訓練場に入ると、先に集まっていた数十人の兵士達が整列して迎えてくれた。
 全員、兜は被らず、鎧だけを着ている。

 訓練場は屋内で、多分だけど日本の学校にある体育館よりも大分広いように見える。
 まぁ、剣を打ち合ったりするだろうから、広いのは当然かもね。
 床は板張りとかではなく、土の地面だ。
 壁には刃引きした剣や槍、斧がまとめて立てかけてあったり、木剣等の木で作られた物もある。
 藁で作られた人形のような物もあるから、それを相手に訓練をする事もあるんだろうな。 

「集めた兵士達は、私の直属の部下。それと、見込みのある者達だ。あとは今回の訓練を希望した者達だな」

 綺麗に整列している兵士達の前に移動しながら、ヴェンツェルさんが集まった人達の説明をしてくれる。
 その兵士達の中には、魔物が襲撃して来た時や、姉さんを謁見の間に助けに行ったときに見かけた人もいるようだ。

「皆、今回の訓練に特別に参加してくれる、リク殿とその仲間達。それと、私と旧知の仲であるマックスとマリーだ。リク殿の事は皆知っているだろう。マックスやマリーも手練れだ」

 俺達もヴェンツェルさんの後を付いて行き、兵士達の前に来る。
 整列した兵士達の前で止まったヴェンツェルさんが、訓練場全てに聞こえるような声で話し始めた。
 訓練開始前の訓示のようなものかな。

「先日の魔物襲撃の際、力不足を実感した者もいるだろう。かく言う私も、バルテルの策謀により陛下の危機に際し何も出来なかった。今日の訓練は、不甲斐ない自分達を鍛えなおすいい機会だ。リク殿は言わずもがな、その他にも冒険者やエルフと顔ぶれは多彩だ。外からの刺激が、お前達に良い結果をもたらす事を期待する!」
「全員、将軍、並びにリク様一行に敬礼!」

 ヴェンツェルさんの訓示が終わると、一人の兵士が一歩前に出て号令。
 その号令が響くと同時に、整列していた兵士達が一斉に俺達に向かって敬礼をした。
 一糸乱れず動く姿は壮観だけど、ちょっとだけ気圧されてしまうね。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...