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女性ギルドマスター
しおりを挟む「はぁ、他のギルドでもたまにこういう奴らがいるもんだが……王都にもやっぱりいたか」
「人数が多いから仕方ないのかもしれないわねぇ」
「……すみませんでした」
「相手を見て、絡んだことを後悔してももう遅いだろう」
「冒険者たるもの、相手を見極める事も重要よ。見誤ると……死ぬわよ?」
「「「ひぃ!」」」
マックスさんもマリーさんも、溜め息を吐きながら委縮してしまった男達を見る。
……マリーさんの死ぬわよという言葉は、近くで聞いていた俺もちょっと背筋が凍るような感覚があった。
横を見れば、モニカさんも顔を強張らせている。
マリーさんをよく知ってる俺やモニカさんでもこうなんだから、それを直接言われた男達が恐怖して短い悲鳴を上げるのは当然だね。
「リク、俺達はこいつらに冒険者としての心得を指導するから、お前達はギルドマスターに会いに行ってくれ」
「こんな事でリクの時間を取らせるわけにもいかないからねぇ。さ、あんた達はこっちよ」
「「「は、はい!」」」
「……良いのかな?」
「……まぁ、母さんと父さんがあの様子なら、心配はいらないと思うわ。私達だけでギルドマスターに会いに行きましょ?」
「引きずられて行くの」
「……あ、後でどんな要件だったのか聞かせてねー」
マックスさんとマリーさんは、絡んできた男達に対して色々と指導をするつもりのようだ。
近づいて来た男達だけでなく、こちらを見て笑っていた人達も全員マックスさんの分厚い腕に掴まれて、ギルドの端に連れて行かれた。
俺とモニカさんが答える間もなかった。
冒険者らしい装備をした男達が、引きずられて行く様を見送っていたら、マリーさんが気楽に声を上げた。
こういう事はあっても、ヤンさんの頼み事に対しての興味は無くなっていなかったようだ。
……後で、しっかり教えよう……連れて行かれる男達のようにならないために……冷静なユノの言葉を聞きながら、そう心に刻んだ。
「冒険者ギルドへようこそ。本日は依頼受注ですか、依頼報告ですか?」
「えっと、ギルドマスターに用があるんですけど」
「……どんなご用件でしょうか?」
「あ、こちらを」
ちょうど話が終わって空いた受付に来た。
カウンター越しに、営業スマイルを浮かべた女性が用件を聞いて来たので、ギルドマスターに用がある事を伝える。
それを聞いた女性は訝しげな顔をして俺を見たので、すぐにヤンさんから預かったバッジを見せた。
何も無く、顔馴染みでもないのにいきなりギルドマスターを、と言ったら変に思われるのも当然だよね。
初めての店で、店長を出せと言ってるようなものだ。
「このバッジは……失礼しました。少々お待ち下さい、確認してまいります」
「はい、お願いします」
バッジを見せてすぐ受付の女性は納得顔になり、俺に断って奥へと向かった。
ヤンさんから預かったバッジは、ちゃんと効果があったようだ。
無かったら困るし、無駄な物をヤンさんが渡して来るとは思えないから当然なんだけどね。
「ここのギルドマスターはどんな人なのかしら?」
「んー、王都の大きなギルドだから……きっとマックスさんみたいな大男かもしれないね」
モニカさんと、待ち時間の間に話す。
さっきのような、素行が悪い冒険者をまとめないといけないのだから、見た目からして威圧感のある人がギルドマスターをしているのかもしれないと想像する。
さっきの人達は、お酒で酔ってたから……というのもあるかもしれないけどね。
「ヘルサルのギルドマスターみたいなタイプって事ね……リクさんには腰が低かったけど……」
「ははは、何か色々感謝とかされたよね。でも、センテのギルドマスターみたいな人もいるから……一概には大男とは限らないか」
ヘルサルではほとんど用件はヤンさんと話して終わっているけど、一度だけあったギルドマスターはマックスさんのような筋骨隆々としたタイプだった。
まぁ、ヘルサルの防衛をしたりとかで色々感謝されたりしてペコペコしてる印象が強いけど。
逆に、センテのベリエスさんは、痩せ型で戦闘が出来るタイプには見えない人だった。
もしかしたら何か武器を使えたり、魔法を使えたりするのかもしれないけど、見た目の印象だけでは事務職のオジサン、という感じだったなぁ……本人には失礼かもしれないけど。
「暑苦しい人は、父さんだけで十分よ」
「肉体的に強い事は、悪い事じゃないと思うけどね。でも、ここのギルドマスターはどうなのかなぁ?」
モニカさんは、いつも近くにマックスさんがいたから、大柄な男性に慣れてるのかと思っていたけど、実際はちょっと苦手らしい。
ちょっとだけ嫌そうな顔のモニカさんを見て笑いながら、ギルドマスターが来るまでの時間を想像して楽しみながら過ごす。
「ギルドマスターだからって、男じゃないと務まらないといけないわけじゃないのよ? ボーヤ」
「え?」
「……お待たせしました」
大柄な男性が来ると想像していた俺の前に、細身で釣り目の美人さんが声を掛けて来た。
その横には、さっきバッジを見せた受付の女性がいる。
という事は……?
「貴女が、ここのギルドマスターですか?」
「そうよ。私がギルドマスターなの。驚いた?」
「……まぁ、多少は……」
「想像とは全然違ったわね……」
受付の女性が連れて来たという事で、ギルドマスターかという問いにその女性は頷いて答えた。
その女性はスラっとしたスレンダー美女で、艶やかな黒髪と年齢不詳な容姿があいまって妖艶という言葉が似合う見た目だ。
体にぴったりとした赤い服を着ていて、目に毒な感じもするけど……むやみに派手なのと、モニカさんと比べると一部のボリュームが足りないのがちょっと残念な気もする。
……どこのボリュームが足りないのかは、失礼だからあまり考えない事にするけど。
「あら、どこのボーヤが私を呼び出したのかと思ったら……結構可愛いじゃない?」
「えっと……」
「リクさんを変な目で見ないで下さい!」
流し目で微笑みながら俺を見るギルドマスターの視線を遮るように、モニカさんが割って入った。
反応に困るから、モニカさんのこの行動には助かった気分だ。
大人な女性を相手にした事って、今まで無かったからね。
「おや、可愛らしい子に守られちゃって……ん? 今リクって言った?」
「え? はぁ。俺の名前はリクですけど……」
「リクって……あの英雄リク!? ヘルサルを救ったっていう……昨日も王城に押し寄せる魔物をちぎっては投げて蹴散らした、あの!?」
「俺一人で戦ったわけじゃないんですけどね……」
ギルドマスターは、俺の名前に反応して凄く驚いてるみたいだ。
英雄と呼ばれる事には慣れて来たけど、ここまで驚かれるのはどうかと思う。
「どこかのギルドから使いが来たって言うから、どんな青二才が来たのかと思ったけど……まさか英雄リクが来るなんてね……」
「青二才なのは間違いないですけどね」
目の前にいる王都のギルドマスターの年齢はわからないけど、少なくとも俺やモニカさんより年上なのは間違いない。
ギルドを取り仕切ってる人から見たら、俺はまだまだ青二才だろうから、この人が考えてる事も間違ってはいないと思う。
「英雄の事を青二才なんて言う奴はこのギルドにはいないわよ。……自己紹介がまだだったわね。私はマティルデ……アテトリア王国王都冒険者中央ギルド、統括ギルドマスターよ」
「……Cランク冒険者のモニカです、ヘルサルギルドから来ました」
「Bランク冒険者のリクです。同じくヘルサルのギルドから来ました」
マティルデと名乗ったギルドマスターは、俺に一礼をするようにしながら自己紹介を始めた。
その仕草は、艶っぽく見えて思わず見とれそうになるけど、モニカさんが自己紹介を始めた事ではっとなり、俺も自己紹介を済ませた。
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