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王都城下町へ繰り出す
しおりを挟む考えてみれば、王都に来てから慣れない部屋で過ごし、ヒルダさんに世話をされたり、授与式があったと思たら、姉さんとの再会……そこからバルテルや魔物の襲撃……マックスさん達の一家と一緒にいる事で、日常が戻って来たような感覚になったのかもしれないな。
部屋やヒルダさんに不満があるわけじゃないし、姉さんとの再会は喜ばしい事ではあるんだけど、この世界での俺は、マックスさん達との出会いから始まったからね。
長い間この世界にいるというわけじゃないけど、こういう関係でいられるのは喜ばしい事だと思う。
「どうしたの、リクさん?」
「ん……なんでもないよ」
感慨に耽っていたら、いつの間にかモニカさんに顔を覗き込まれていた。
そんなモニカさんに笑って誤魔化しておく。
「さて、大活躍だったリクには、王都をしっかり案内してやらないとな」
「そうね。あれだけの活躍をしたんだもの、労われて当然ね」
「そんな、俺だけじゃなく皆も戦ったんですから……俺だけそんな事をされるのも……」
「良いんだ。俺達も町の方で戦っていたが……ワイバーンを見た時の絶望感は言葉では言い表せない程だったからな……」
「空から攻められるのはね……それに、モニカ達から聞いたけど、城の内部でも色々あったんでしょ? それを解決して、さらに魔物達まで相手にした英雄様を歓待しなくて、何をするって言うのよ」
二人共、町側の戦力として魔物達と戦ってたみたいだ。
元冒険者という事もあると思うけど、この二人ならそこらの兵士達より活躍したんだろうなぁ。
俺が遠慮をしてるのを気にせず、マックスさんとマリーさんは王都案内をすることに意気込んでるみたいだ。
助けを求めるようにモニカさんを見ると、そちらも何やら気合の入った様子で頷いている。
……親子だなぁ。
「まぁ、本当なら俺が腕によりをかけた料理を食わせてやりたかったがな……」
「王都じゃ自分で料理出来る所なんてないものねぇ」
「ははは、マックスさんの料理は美味しいですからね。それが食べられないのは残念です」
「まぁその代わり、美味しい料理を出す店をいくつか知ってるから、そこに案内する事は出来るぞ」
「美味しい物を食べたいの!」
「……随分前の事だから、まだその店がある良いけどね」
「でも、まだ昼には早いわよ?」
マックスさん達は、俺を料理の美味しい店とやらに案内したいようだけど、二人が王都にいたのは随分前との事……まだその店があると良いんだけどね。
ユノは、食べ物の話になった事に興味を示すけど、モニカさんの言う通りまだお昼には早い。
朝食を食べてすぐに出て来たから、まだお腹も空いてないしね。
「そうだったな……まだ早いか……それならどこを案内するか……」
「リクは何処か行きたいところはある?」
「んー、王都を詳しく知らないので、何処に行けば良いのかわかりませんね……モニカさん達と会う前なら、適当に大通りをブラブラすれば良いと考えていましたけど」
「大通りね……ちょっと今すぐは無理そうかなぁ……」
「何かあるの、モニカさん?」
マックスさんが頭に王都の色々な場所を思い浮かべている様子で考えている。
マリーさんの方は、俺にどこへ行きたいか聞いて要望に応えようという考えのようだ。
考えながら答えつつ、大通りを回れれば楽しそうだと考えていた。
王都に来てすぐ、城に行く前に通っただけだからちゃんと見てみたかったんだ、人通りも多くにぎわってたからね。
けど、モニカさん思案顔になった。
「昨日の魔物の襲撃がね、城壁から真っ直ぐ大通りを通って城門に向かったみたいなのよ」
「あ……だとすると……」
「魔物達は何故か他には目もくれず、何かに取り付かれたかのように城門を目指していたんだ。おかげで町への被害は少なかったんだが……」
「さすがに通り道になった大通りは被害無しとはいかなかったわ。人にほとんど被害が出ていない事が救いね」
「……そうですか」
魔物達が何故、城門だけを目指していたのかという理由はわからないけど、町への被害が少ないというのは、最初に魔物襲来の報告をして来た兵士さんの言う通りだったようだ。
だけど、通り道になった場所はさすがにね……数が数だから、通るだけでも相当な被害が出たんだろうと予想出来る。
恐らく、今の大通りは復旧作業中で王都に来た時のような賑わいは無いんだろうな……残念だ。
……出来れば、俺が王都に滞在してる間に復旧してくれると良いな……。
「それじゃぁ、何処に行こうかな……あ」
「どうしたの?」
「何か思いついたか?」
「大抵の場所なら案内出来ると思うわよ?」
そう言えば、ヘルサルにいる時に頼まれてた事があったのを思い出した。
幸い、その時預かった物は今も持っている鞄の中に入ってる。
モニカさん達は、俺が何かを思い出したかのような様子に、首を傾げている。
「えっと、王都の冒険者ギルドってどこにありますか?」
「冒険者ギルド?」
「まぁ、そこなら俺とマリーが詳しいからすぐに案内出来ると思うが……王都に来てまで冒険者ギルドか?」
「ヤンさんから頼まれてた事があるんですよ。王都の冒険者ギルドで、ギルドマスターに直接手渡して欲しいと言われました」
「ヤンが? 依頼以外で何かを頼むのは珍しいな……しかもリクを相手に」
「ギルドの要件なら、職員に任せるでしょうしね。……リク、それはどんな事なの?」
俺が王都に行く日程が決まった時、ヤンさんに報告に行くと渡してくれと頼まれた物があった。
「えっと……あった。これですね」
俺は鞄の中を漁り、ヤンさんから預かっていた物を取り出す。
「筒? 中には何が入ってるんだ?」
「これはギルドマスターからの使いという証明のバッジね。こんな物まで用意してリクに頼むなんて、何事かしら?」
「中身は知らないんです。ヤンさん曰く、中身を見ない事と俺が直接渡して来るように……と言われました」
「そうか。ヤンの事だから、変な事ではないと思うが……これは何というか……」
「面白そうね?」
「父さん、母さん……これは リクさんがヤンさんに直接頼まれた事なのよ? 面白がるのは……」
「でも、ヤンが何をしようとしてるのか……気になるでしょ?」
「それは……確かに」
取り出した筒とバッジを見せると、マックスさん達はそれを見て訝し気な顔をした後、ニヤリと笑った。
元同じパーティで活動してただけあって、ヤンさんが何を俺に頼んだのか興味が沸いたようだ。
バッジは、ヤンさんからではなく、ヘルサルのギルドマスターからという事らしい……俺はヘルサルからの使いという事になる……のかな?
興味深そうにしているマックスさん達をモニカさんが注意してるけど、マリーさんに諭されてすぐマックスさん達側についた。
……面白そうな事じゃないと思うんだけどなぁ。
「よし、それじゃあ早速冒険者ギルドに行こうじゃないか。王都のギルドは大きいからな、リクもモニカも驚くかもしれんぞ」
「城で色々見て来たのなら、ギルドで騒ぐ事も無いかもしれないわよ?」
「まぁ、その時はその時だ。さ、行くぞ!」
「……わかりました、お願いします」
「ヤンさんがリクさんに直接頼み事……何かしら……?」
マックスさんとマリーさんは、意気揚々と俺を案内するため先導して歩き始める。
それについて行く形で、俺とモニカさんも歩き出した。
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