171 / 1,903
戦闘後の来訪者
しおりを挟む「皆様もお疲れでしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうなの!」
「頂こう」
「はぁ、やっと一息吐けるのね」
「ヒルダ……私のは?」
「おかしな事を言う陛下にはありません」
「ごめんヒルダ。謝るから私にもお茶を頂戴ー」
「はぁ……わかりました」
他の皆にもヒルダさんがお茶を用意してくれて、一息吐く。
のんびりした空気の中お茶を飲む皆は、ようやく大きな事が終わった安心感でいっぱいなようだ。
まぁ、姉さんが捕らえられる事から始まって、魔物の襲撃だ……緊張と戦闘の連続でようやく休まった、というところなんだろう。
「姉さん、ヒルダさんには普通に話すんだね?」
「ヒルダは特別よ。昔から一緒だったからね」
「小さいころから、陛下には親しくさせてもらっております」
ヒルダさんと姉さんは、見る限り同年代に見える。
多分、この城で二人は友人として過ごして来たんだろう。
この世界でも、ちゃんと親しい人が出来たようで安心だ……と思うのは、保護者目線過ぎるかもしれないけどね。
昔は俺が、保護される側だったけどなぁ……これが成長か。
「ん?」
「誰かしら?」
「ハーロルトさんが報告にでも来たかな?」
的外れな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します。ご歓談中申し訳ございません……陛下と面会を求める方が来ておりまして……」
「面会? このタイミングで……? 一体誰?」
「それが……」
「……なんだと!? そうか、わかった。すぐに行くと伝えろ」
「はっ!」
部屋に入って来たのは、ハーロルトさんではなく別の兵士さん。
装飾のある鎧を着てたから、それなりの役職に付いてるんだろうと思う。
その兵士さんは、姉さんに近付いて何事かを耳打ちする。
兵士さんから伝わる無いように驚いた姉さんは、俺に接してる時とは違う、女王様モードで答えて兵士さんを下がらせた。
「姉さん、どうしたの? 誰かが来たみたいだけど……」
「……タイミングが良すぎるわ……これは何かあると見て良いでしょうね。……ヒルダ、ハーロルトをここに。りっくん、ちょっと出て来るわね」
「畏まりました」
「それは良いけど、何かあったの?」
「面倒な客が来ただけよ。すぐに追い返……いえ、そうね……りっくん達にも見せた方が良いわね」
「……どういう事?」
俺ん質問には答えず、姉さんは何かを考えている様子だ。
面倒な客と言っていたけど、一体誰が来たんだろうか?
「陛下、お呼びでしょうか」
「ハーロルト、至急バルテルの周囲を調べろ。本人は死んでいるが、周囲を調べる事でわかる事があるはずだ」
「はっ!」
「それと……帝国から使者が来ているようだ……タイミングがおかしいと思わないか?」
「帝国からですと!? それは……」
ヒルダさんがハーロルトさんを呼んで来てくれて、姉さんと話しているのは良いんだけど……こんな話を俺達の和えでしていいのだろうか?
まぁ、姉さんからの信頼なのかもしれない。
「今回の件、色々とおかしい事が多過ぎる。バルテルが反旗を翻す事だけでなく、見計らったかのように魔物の襲撃……しかも、魔物は城下町には目もくれず、この王城を目指していたと聞く……」
「さらに、事が終わった後に帝国の使者……ですか。確かにおかしいことだらけですね。わかりました、情報部隊総出で調査を行います」
「頼む」
「バルテルの凶行を察知出来なかった我らの汚名、必ずやそそいで見せます!」
「期待している」
姉さんと話し終えたハーロルトさんは、決意を滲ませて部屋を出て行った。
情報部隊長という役職でありながら、バルテルが姉さんを捕らえるのを阻止できず、計画も調べられなかった事を気にしているんだろう。
確かに、情報を取り扱ってる部隊がありながら、まんまと姉さんを人質に取られたんだから、口さがない人達から何かを言われてしまうものなのかもしれない。
「さて、りっくん達は私に付いて来て」
「それは良いけど……そろそろ事情を話してくれても良いんじゃない? それにどこに行くの?」
「行先は謁見の間よ。りっくんは私を助ける時に入って来たでしょ? あそこからね。事情を説明してる時間が無いわ……後で全部説明するから、今はこれから起こる事だけをよく見ていて欲しいの」
「……わかった」
姉さんを助ける時に入ったという事は、謁見の間の裏だろう。
あそこから俺達を連れて、姉さんの所に来たという使者との話を俺達に見せるんだろうと思う。
使者の人を待たせてるんだから、時間がないのはわかるけど……少しでも事情を説明して欲しいな……まぁ、今までの会話で何となくわかる事はあるんだけど……。
「私達も、良いのですか?」
「ええ、貴女達はりっくんの仲間で、信用しても良さそうだから。でも、静かにしていて頂戴ね」
「もちろんです!」
モニカさんが、姉さんに付いて行く事を聞いている。
姉さんは俺と一緒にいると言うだけで、モニカさん達を信用したようだけど、それで良いのだろうか?
まぁ、モニカさん達が信用できる人達だというのは、俺が保証するけどね。
「それじゃあ、行くわよ。そんなに時間はかからないと思うから、ヒルダは美味しいお茶でも淹れて待っていて」
「畏まりました」
「ユノとエルサの事、お願いします」
「はい。行ってらっしゃいませ」
深々と礼をするヒルダさんに見送られ、俺達は部屋を出て謁見の間の裏側へ。
今回ユノとエルサはお留守番だ。
エルサは起きなかったからだけど、ユノの方も大分疲れてるようだったからね。
魔物達が密集する中で、剣を振り回して戦ってたから仕方ないと思う。
「本当に謁見の間の裏なのね」
「我々がここから入る事になるとはな……」
「そうだな、本来は王族か……それに連なる人物しか通る事が許されないはずだ」
「緊張するけど……前には出なくていいのだから、多少は気楽ね」
フィリーナを始め、姉さんに連れられて来た皆は謁見の間の裏通路に入るのに緊張している様子だね。
……アルネが言うように、本来王族かそれの関係者しか通れない道が本当なら、姉さんを助ける時普通に通ったんだけど……良いのかな……。
まぁ、女王様である姉さんを救うためだし、何か言われたら緊急事態という事で許してもらおう。
今回は姉さんが先導して連れて来たから、特に文句は言われないだろうしね。
「さて、りっくん。ここからはしばらく静かにしていて頂戴ね。私が謁見の間に出るから、りっくん達は見えないように隠れて話を聞いていて欲しいの」
「……何のためにそうするのかはわからないけど、わかったよ」
「陛下の命ならば」
「陛下に言われたら、断るなんて出来ませんね」
「エルフである我らも、陛下に従います」
「リクには親しそうに話すのね……畏まりました、陛下」
姉さんの言葉に、それぞれが返事をして頷いて俺達は謁見の間へと裏から入る。
俺が姉さんを助ける時、様子を見ていた入り口の影……玉座の裏当たりで声を潜めて待機。
姉さんはそのまま謁見の間に入って行き、玉座に座った。
側近のような人に何か話すと、兵士が扉を開け数人が謁見の間に入って来た。
1
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる