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風の球炸裂

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「ふんっ!」

 エルフらしからぬ気合の入った声と共に、飛んで行った魔法の球は綺麗な放物線を描いて魔物が密集されてる場所へと吸い込まれて行く。
 魔物に当たったのか地面に落ちたのか、ここからは確認出来ないけど、風の球は確かに狙い通りの場所に到達した。

「……あれ?」
「何も起こらないが……あれはなんだったんだ?」
「おかしいな……すぐに発動するはずだったんだけど」
「ちょっと、そろそろこっちも限界よ!」
「リク、すまないが加勢してくれ!」

 アルネと二人で風の球の行方を見守り、何も起こらない事に首を傾げる。
 おかしいな……何かに当たったら発動するようにイメージしてたんだけど……アルネが投げるから、そこを考えてちょっとだけ発動までに強い衝撃が加わらないといけないようにしたから……それかもしれないね。
 俺達が首を傾げて考えている時、フィリーナとソフィーさんが叫ぶ。
 おっと、とりあえず目の前の状況を何とかしないと。

「今行くよ……っと! ふっ!」
「すまない。ウィンドブレイド!」
「こっちも負けてられないわ。カッター!」
「私もだ。ふっ! せい!」

 風の球はもう少し改良の余地がありそうだ。
 落ち着いたらまた試してみようと考えながら、ソフィーさん達に加勢する。
 オーク2体の攻撃を防いでいた、ソフィーさんの横から近付く魔物を斬りながら、片方のオークを斬り倒す。
 アルネもフィリーナの方に加わって、魔物達へ魔法を撃ち始めた。
 少しだけ、魔物達を倒す事に集中してそろそろもう一度魔法を……と考えた時。

 ドォォォォォン!

「何だ!?」
「何が起こったの!?」
「何の音だ!?」

 城門の方で、何かが爆発するような音がした。
 何かと思って視線を上げると、空を魔物の一部だったと思われる物が、無数に舞っていた。

「……ようやく発動したか……もしかして、魔物が踏んだのかもね」

 投げ込んで発動した無かった風の球だけど、オーガやオークなんかの重量のある魔物が踏んだのかもしれない。
 さすがにそこまでの力が加われば、発動するという事だろう……もう少し改良しないといけないなぁ。

「リクの魔法なの、これ!?」
「魔物が舞ってるな……」
「これが先程の魔法の球の効果……か?」
「ふっ! そうだね。ちょっと予想以上に上に飛ばされてる気がするけど……大体イメージ通りかな」

 最初のイメージだと球体の範囲で発動だったから、10メートル前後も上空を飛ぶようにはイメージしてなかったんだけど……あれ、城門の上部分にもあたってるよね……修理が大変そうだなぁ。
 もしかしたら、魔物達の足元で発動したから上へ行く力が強まったのかもしれない。

「壮観……で良いのかしら……?」
「魔物の血や体が飛び散る様を見て、それで良いのかはわからんが……すごいのは確かだ」
「あそこだけとんでもない事が起こってるな……」

 後ろで起こった風の爆発に、俺達の近くにいる魔物達も何が起こったのか困惑している様子だ。
 同じように、フィリーナ達も含め周りにいる兵士達も呆気に取られている。
 俺がこの魔法で倒した魔物は半分にも満たないだろうけど、これで大分数を減らせたはずだ。
 魔物達の勢いも止まってるようだから、今がチャンスだろう。

「今だ! 魔物達が驚いて困惑してる隙に出来るだけ数を減らすんだ!」

 姉さんやフィリーナのように、声を増幅する魔法は使えない……というよりイメージしたことが無いから、それを使うことなく叫ぶ。
 戦場に響き渡る程の声じゃないけど、とりあえず周りの数人でも気付いてくれれば、味方が勢いづいてくれるだろうから。

「行くぞ!」
「そ、そうね! 今がチャンスよ!」
「魔物達を押し込め! 戸惑ってる今がチャンスだ!」
「「「おぉぉぉぉぉ!」」」

 いち早く、俺の近くにいるソフィーさん達が反応してくれて、声を上げる。
 それが聞こえた兵士達は、雄たけびを上げるように魔物達に向かって行った。

「ふっ! はっ!」
「せい! ふん!」
「カッター! カッター! もひとつカッター……ダブルよ!」
「ウィンドブレイド! ウインドブレイド! こっちも負けていられんな……ウィンドアロー! 乱れ撃ちだ!」

 俺が近くにいる見た事のない魔物、手が4本ある相手の手を斬り落とし、止めに首をはねる。
 ソフィーさんは、俺の右隣でオーガを越える巨体の魔物の足を幾度も斬り、体制が低くなったところで心臓を一突きで止めを刺す
 フィリーナとアルネは魔法の連続使用で、味方のいない場所の魔物を切り裂いていく。
 耐える魔物もいたが、連続で二つの風の刃に切り裂かれたり、続いて放たれたアルネの矢のような魔法で周りの魔物もまとめて無数の穴が開く。
 フィリーナもアルネも、エルフだから大丈夫だとは思うけど、魔法を使い過ぎて魔力切れにならないか少しだけ心配だ。

「とりゃ! てりゃ!」
「リク様、ここにおられましたか!」

 俺が何匹もの魔物を斬り倒していると、後ろから呼ぶ声がした。

「ん? せい! ……ハーロルトさん?」
「ご無事で何よりです……陛下は……?」
「姉さ……女王様なら、城内で指揮を執っているはずです」
「お救い頂いて、ありがとうございます」
「今は、お礼よりも目の前の魔物です……よっ!」

 邪魔な魔物を斬り倒して振り向くと、城内で別れたハーロルトさんだった。
 俺がここにいる事は、さっきの魔法で見当がついたのかもしれない。
 姉さんの事を心配してたようなので、無事な事を伝えるとその場で礼をするハーロルトさん。
 しかし、今は魔物と戦ってる最中だ。
 そんな事をしてる間にも、他の魔物が押し寄せて来てる。
 ……そろそろさっきの魔法の衝撃から、魔物達が我に返り始めたようだね。
 ハーロルトさんに横から襲い掛かろうとした一つ目の魔物を、剣を横に振って真っ二つにする。

「……そのようですな。申し訳ありません。今は戦闘に集中する事にします。それでは……」
「また後で会いましょう。怪我には気を付けてっ!」
「えぇ、そちらもお気を付けて……ふん!」

 姉さんの無事を確認出来て、安心した様子のハーロルトさんは指揮をするためか、自分も戦闘に加わるためか、俺から離れて別の場所へ向かう。
 魔物を斬りながら声をかけ見送る。
 ハーロルトさんの方も、両手にそれぞれ握った剣を交差し、魔物を排除しながら駆けて行った。
 ……双剣かぁ……格好良いよね……。

「リク、いたの!」
「……ユノか?」

 ハーロルトさんを見送って、魔物の掃討に集中しようとした時、また別の方向から声が聞こえた。
 女の子の声で俺を呼ぶのは……ユノしかいないな。
 声の聞こえた方に視線を向けると、4メートルはあろう巨体を持つ魔物が密集してる場所から、小さい影がこちらに向かって飛んで来た。

「ふぅ……ちょっと疲れたの」
「お疲れ、ユノ」

 そう言えば、忘れちゃいけない事なんだが……姉さんを助けた後、ユノを先にここへ来させてたんだった……。
 ユノが俺の横へ着地すると同時、巨体の魔物達が崩れ落ちた。
 よく見てみると、その魔物達は全て四肢が切り裂かれ、心臓と思われる位置に穴が開いていた。
 どれだけ巨体で生命力が強くても、あれじゃあひとたまりも無さそうだ。

「空での活躍が凄かったの。でも、おかげで魔物達の真ん中に飛ばされたの」
「……もしかして、風に飛ばされたのか?」
「そうなの。リクはもう少し魔法の威力調節を覚えた方が良いの!」
「……ゴメンナサイ」

 どうやら、他の人達より小さくて軽いユノは、俺が上空で使った魔法の余波で飛ばされてたようだ……。
 皆から聞いた話だと、飛ばされた人はいなかったとの事だったんだけど……もしかしたら魔物の陰に隠れて見えなかったのかもしれないね……ユノは小さいから。
 魔物の真ん中に飛ばされたのがユノだったから良かったものの、他の人だったら生きてはいなかっただろう。
 ……今度からはもっと威力調節に気を配ろうと思う。

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