145 / 1,903
夜中に見る夢
しおりを挟むヘルサルで数日、色々やっていたらもう明後日には王都に出発する日だ。
この国の王様……女王様に会う事になるんだけど、失礼な事をしてしまわないよう気を付けないと……と段々緊張して来ている。
そんな頃、時間が空いたのかハーロルトさんに俺達が王都に行く日程を聞いたクラウスさんが、獅子亭を訪ねて来た。
街の代官が、頻繁に訪ねて来て良いのだろうかと思うけど、いつものようについて来ているトニさんがいるから大丈夫なんだと思う。
トニさんがいれば、クラウスさんが仕事をサボる事は出来なさそうだしね。
「私もリク様と一緒に王都へ行きたかったのですが……」
クラウスさんは終始、そんな感じで王都に行けない事を悔やんでいたけど、仕方ないよね。
代官としての仕事があるから、トニさんが許してくれるわけが無いから。
そんな事もありつつ、夜。
いつものように皆で夕食を取った後、エルサのモフモフを丹念に手入れするために風呂に入り、その後はモニカさんやソフィーさん、ユノも混じって皆にドライヤーもどきの魔法を使う。
皆気持ち良さそうにしてるけど、モニカさんだけは王都に行くギリギリまで続けるマリーさんの特訓での疲れで、エルサと一緒に寝てしまった。
「さすがにここでこのまま寝かせているわけにもいかないな。私が連れて行こう」
「お願いします」
エルサとモニカさんは、ドライヤー中並んで横にコテンと倒れてそのまま寝てしまった。
ソフィーさんはモニカさんを肩に担いで部屋を出て行く。
……その持ち方で良いんだろうか?
「さて、俺達も寝ようか」
「……リク」
「ん、どうしたユノ?」
ドライヤーも終わって、エルサをベッドに転がして自分も寝ようとしたところで、ユノが何かに悩むように俺を呼んだ。
「……リク……本当に王都に行くの?」
「ああ、勲章とやらを受け取らないといけないみたいだからな。それに、一度王都を見てみたいし」
「そう……」
ユノはどうかしたんだろうか?
思いつめたような、何かに耐えるような表情をしている。
「俺が王都に行く事で、何かあるのかユノ?」
「……ううん。何でもないの」
「……そうか」
ユノが何でもないと言うのなら、それで良いんだろう。
気にはなるが、今日は教えてくれなさそうだ。
「じゃあ、もう寝るか」
「うん。わかったの!」
俺の言葉で、気を取り直して笑顔になったユノは、エルサを挟んで一緒のベッドに入る。
……寝入る寸前……ユノの声が聞こえた気がした……。
「……リク……頑張ってなの……」
――――――――――――――――――――
その日俺は夢を見た。
夢自体は何度も見ているが、その夢は特別な夢だった。
何の夢だったか……そう、これはいつもの夢だ。
以前に見たのはいつだったか……忘れてしまったな……ユノと出会う前だったような気はするけど……。
――――――――――――――――――――
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
……そこは暗い場所……。
……後悔と謝罪だけが繰り返される空間だ…。
……体は動かせない……。
……白い影が這い出て来て、体に纏わり着いて来る……。
……次第に体は影に埋もれ、腕も足も黒く塗りつぶされてしまった……。
……やがて首にまで影は来て埋もれてしまう……。
助けを求めるように周りを見るが、そこには何も無い。
薄っすらと白い光が射しているが、そこにあるのは暗い影だけであり、それが唯一見えるものだった。
「……あぁ……」
何とか呻き声のようなものを発する事は出来たが、ただそれだけ。
「……ク」
ふと、どこからか声が聞こえた。
しかしどこからかわからない。
首はもう影に埋っていて動かせない。
周りを見て、声の主を探るがそこには何もない空間が見えるだけ。
「……うぅぁぁ……」
また、聞こえた。
助けが期待できるような声ではない。
また、助けを呼ぶ誰かの声でもない。
ただただ苦しみだけを訴えるような声。
もう、影は顎まで上り口元まで来ている。
「……うあぁぁぁ」
先程より少しだけはっきりと声が聞こえる。
この声はどこからだろう、何を言おうとしているのだろう。
自分が影に飲み込まれようとしているのにも関わらず、声の主を探し、それが何なのかを確かめようとしていた。
ふと目を下にやると、自分の腰の高さくらいの所にある影が揺れていた。
揺れている影は、少しずつ形をはっきりとさせてくる。
最初は鼻。
次は口。
最後に目が現れ人の顔になる。
それを認識した瞬間、眩暈を覚えるほどの後悔と記憶が頭の中でぐるぐると渦巻いている。
顔が動く、いや、目はこちらを凝視したまま、口だけを動かしている。
「……うぅあぁぁぁぁぁ」
先程の苦しみの声だ。
「……お……え……せ……だ」
影が言葉を発する。
「……うぁぁ……い……い……く……し……リ……ク」
その言葉は途切れ途切れで、何を言っているかはわからない。
だが、分かってしまった。
何を言っているのか分かってしまった。
あれは恨みの声だ。
俺に対する恨みの声だ。
犯してしまった罪への贖罪を求める声だ。
……もう、影は目元まで来ている……
顔の半分以上を覆われてしまい、声を出すどころか呼吸も出来ない。
だが、不思議と苦しさは無かった。
しかし声に対して何も出来ない。
何も出来ない事に対する後悔。
どうすることもできない。
ただ、声にならない声で、心の中でずっと謝る事を繰り返すだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ついに影は全てを飲み込み、そこにあるのはほのかに白い光が射す空間だけだった…
「はっ! ……はぁ……はぁ……はぁ」
暗闇の中目を覚ます。
まだ夢の続きなのかと思ったけど、ここは現実だ。
いつも寝ている部屋、いつも寝ているベッド……違うのは、俺が汗だくで息を切らしているだけだ。
ベッドから半身を起こし、胸に手を当てる。
起き方に問題があったのか、心臓の鼓動がうるさい。
「……リク」
「……だわ」
ふと、横で声がしたので、そちらを見る。
明かりが無いから、はっきりとは見えなかったけど、そこには俺を見るエルサとユノがいた。
エルサ達と一緒に寝てるんだから、いてもおかしくないよな。
「ごめんな、起こしてしまったか?」
「……リクが苦しんでたから……」
「辛い時は無理しなくて良いのだわ」
うるさい心臓を落ち着かせるように息を吐きながら、起こしてしまったエルサ達に謝る。
だがエルサとユノは、俺の事を心配そうな目で見たままだ。
「……どうかしたのか?」
「リク、夢を見たの?」
「ああ、あんまり気持ちの良い夢じゃ無かったな……ユノが見せてくれたような夢なら良かったんだが」
9
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる