113 / 1,903
エルサ追跡
しおりを挟む「おーい、エルサ。もう良いから戻って来い」
「もうちょっと頑張るのだわー。キューのためなのだわ」
「エルサちゃん?」
「何をするんだ?」
俺の声に暢気な声を返しながら空に浮かび上がるエルサ。
モニカさんもソフィーさんもエルサが何をするのかわからず戸惑ってる。
しかし、いつもはエルサに乗せてもらうばかりだったけど、空を飛ぶ姿を下から見ると迫力あるんだなぁ。
さっきは結界の維持で良く見て無かったから、改めて見てちょっとだけ感動。
俺達が、エルサを見て何をするのかわからないでいると、ある程度浮かび上がったエルサは、森へ体を向け、翼をその場で2,3回羽ばたかせる。
「ちょ、エルサ!?」
「きゃあ!」
「っ!」
「うぉ!」
「むぅ!」
大きくなったエルサの羽ばたきは力強く、大量の砂ぼこりを巻き上げて俺達を怯ませた。
皆、砂ぼこりや風から身を守り吹き飛ばされないような姿勢を取る。
その間に、エルサは森に向かって飛び去った。
あいつ……俺が結界を切ったのに気付いてないな……。
「リクさん、エルサちゃんは何をしようとしてるの!?」
「わからない……とにかく、後を追おう!」
「そうね」
「わかった」
モニカさんの疑問に返事をしながら、俺達はエルサが向かった森の方へ向かうため、走……ろうとしたところで、エヴァルトさんがこちらに駆けつけて来た。
「リクさん! エルサ様が凄い勢いで森に向かいましたが、何事ですか!?」
エヴァルトさんからもエルサが飛び去ったのが見えたのだろう……まぁ、あの大きさだから集落の人は大体見てるよね。
「わかりません。とりあえず俺達はエルサの後を追おうと思います」
「わかりました。こちらはお任せ下さい。魔物達の片づけや消火の後始末をしておきます」
「お願いします!」
「頼んだわよ、エヴァルト!」
後の事は全部エヴァルトさんに全部丸投げし、俺達は改めて森に向かったエルサの後追った。
「はぁ……はぁ……はぁ……リクさん、早いわ」
「んー……ごめん、とりあえず俺だけ先に行くよ!」
「はぁ……はぁ……そうね。その方が良いかもしれないわ」
「……はぁ……俺達の速度に合わせるより、リクが先に行った方が良いだろう」
「……私達は後から追いつく。先に行ってくれリク。エルサを見失うことは無いから道案内も必要無いしな」
息切れしながらもなんとか俺について来ていた皆を引き離して、森へ向かう速度を上げる。
離れててもエルサが森の上を浮かんでるのが見えるから、見失う事は無いだろう。
俺が道案内できるかどうかはさておいて、これなら皆と離れても後で合流出来るだろう。
集落を抜けて森の中に入り、木々の合間を走る。
生い茂る木々の隙間から見えるエルサを目指して走ってる時に、俺とは別の足音がもう一つ聞こえているのに気付いた。
「ん? ……ユノか……そんなに早く走れるんだな」
「走るのは得意なの! ユノもリクについて行くの!」
息切れもせずに俺について来るユノ。
なんだろうね……見た目が小さい女の子だから、馬車よりも早く走ってる俺と同じ速度を出してるのに違和感しか感じない。
まぁ、俺も馬車より早く走る時点でおかしい気もするけど、気にしない。
こんな速度で走ろうとしたら、他の皆が追い付けないのも当たり前だよね。
「ユノ、エルサは何をしようとしてるんだ?」
契約者の俺にもわからない事は神様であるユノに聞け、だ。
「ユノもわかんないの。けど、何かを探してるみたいなの」
「何かを探す……? ……確かに、エルサの動きはそう見えるな」
ユノにもわからないらしいが、その言葉を聞いてエルサをよく見てみると、森の上空をウロウロしながら、何かを探してるようにしか見えない動きをしてる。
一体エルサは何をしてるんだ……?
そのままユノと一緒にエルサを目指して走り続ける。
森の中を駆け抜けて、そろそろ森の真ん中を少し南に過ぎたくらいの時、エルサがピタリと動きを止めた。
「エルサが止まった……? どうしたんだ?」
「ブレスの用意をしてるみたいなの」
ブレス……ちょっと待て、森に向かって撃つのか!?
エルサは空中に浮かびながら、顔を下に向け大きく口を開けていた。
魔物達を吹き飛ばしたあのブレスが森に向かって放たれたら、木々もそうだけど森に入ってる俺達も吹き飛ぶんじゃないのか!?
エルサはまだ結界が解かれてる事に気付いてないのか?
「エ、エルサ! ちょっと待て!」
エルサとの距離が離れすぎていて、声なんて届かないけど俺は叫ばずにはいられなかった。
俺はまだしも、ユノもここにいる。
それにモニカさん達も俺達を追って森に入ってるはずだ。
今エルサがブレスを放ったら、森から集落付近までが危険地帯になるぞ!
俺の叫びも虚しく、エルサは一度顔を大きく上げ、勢いを付けて下に振り下ろした。
「っ!」
「リク!?」
俺はエルサが放ったブレスに備えるため、走ってる足を止めてユノを抱え込む。
ユノはいきなりの俺の行動に戸惑っていたが、暴れたりせずおとなしく俺に抱えられてくれる。
そのまま数秒、衝撃に備えて体を固くして目を閉じていたけど、何も感じない。
何も感じないというか……夜の森の静けさがあるだけだ。
「……あれ? エルサのブレスは?」
エルサが思い切りブレスを放とうとしてるようにしか見えなかったんだけど、撃たなかったのかな?
「リク、大丈夫なの。エルサも皆に危険があるような事はしないの」
「……そうなのか?」
ユノの言葉に、固くしていた体を解し、抱えていたユノを離す。
何も衝撃が来ない事を不思議に思いつつ、木々の隙間からエルサを見る。
「……あいつ……何してるんだ?」
「わからないの。行ってみる?」
「そうだな……」
木々の隙間から見えたエルサは、体を浮かせながら森の木に頭を突っ込んでいた。
俺の場所からは、体を逆さにして地面に突き刺さってるようにしか見えないんだけど……。
ブレスが来なかった事に安心しつつ、ユノと一緒にまた走り出してエルサの所へ向かう。
エルサが同じ体勢のまま動かないから、さっきまでより少し速度を落としながら走る。
何をやってるのかはわからないけど、皆に危険がある事じゃ無ければそこまで急ぐことも無いからね。
森の中を全速力で走るのは疲れるというのも……多分あるかもしれない……少しだけ息が乱れて来たからね。
……ユノは平気そうで元気に走ってるけど。
木を避けながら、ユノを連れてエルサのいる所……森の南端くらいの場所へ向かって走る事数十分。
結構時間がかかったけど、森が広いので仕方がない……。
その間、ずっとエルサは体を逆さにして地面に頭から突き刺さってる体勢のまま微動だにせず……いや、翼が少し動いてるな、ちゃんと生きてるようだ。
ドラゴンであるエルサが死ぬとか想像が出来ないが、それでも逆さになったまま動かないと少し心配になって来る。
翼が動いてモフモフがモフモフしてるようで触り心地が良さそうだ。
木々の隙間から大分エルサの全身が見えるようになって来た。
……これは、地面に突き刺さってるわけじゃないのか……?
見えて来たエルサの体は、地面に付いておらず、少しだけ浮かんでいた。
「しかし……あれはほんとに何をしてるんだろうな……?」
「面白い恰好なの」
エルサは森の南で、体を逆さにしたまま浮いて、下に向けた頭を洞穴のような場所に突っ込んでいた。
何だろう……穴にはまって抜けなくなったのか……?
いやでも、穴の大きさはエルサの頭より大きく見えるから、抜けないという事は無さそうだ。
森を走り抜けてようやくたどり着いた場所にいるエルサに呆れながら声を掛けた。
11
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる