111 / 1,903
集落を覆う結界
しおりを挟む悲鳴の上がった方を見るため、体を回転させるように剣を振りながら後ろを見る。
そちらには、悲鳴を上げたと思われる女性のエルフが顔に火の球が直撃した光景があった。
「姉さん……魔法に集中してた俺を庇って……」
どうやら、火の球が当たったエルフの隣で抱きとめるようにしてるエルフのお姉さんが、危なかった弟を庇ったようだ。
……姉が弟を庇った……。
何故だろう……その光景を見て、その声を聞いて状況を理解した時、頭の中で何かが弾けるような感覚があった。
エルフに被害が出た……しかも女性の顔に火の球が直撃している。
多分、俺の治癒魔法で治せるだろうけど、女性の顔に傷……弟を庇ったお姉さんが……。
色々な考えが頭のなかでぐるぐる回っているような感覚。
何なんだろう……これは……。
「!?」
「リク!?」
「結界なのだわ!」
「何なの!?」
近くにいた仲間、モニカさん、ソフィーさん、エルサ、ユノの声が上がる。
エルサに至っては、俺の頭から離れて空に浮かびながら結界の魔法を発動したようだ。
皆が驚くのも無理は無い。
さっきから頭で色々な事がぐるぐるし始めてから、いきなり体の中から魔力が溢れ出した。
ヘルサルの街の時と似ている。
あの時と違うのは、怒りとかでは無い事くらいかな。
「またリクさんが!?」
「リク、ここであの時のような魔法は!」
「とんでもない魔力なのだわ。何かの攻撃かと思ったのだわ!」
「リクの魔力……やっぱりすごいの」
皆が驚きつつ、エルサの後ろに隠れるように集まった。
エルサが結界の魔法を使ってるから、そこなら火の球も飛んで来ないし、俺の魔力もある程度遮断されるんだろう。
その間も、俺の頭の中はぐるぐると色々な考えが浮かんでは消える。
でも、そんな頭の中なのにも関わらず、俺は冷静だった。
ぐるぐるしている頭の片隅で、冷静に今の状況をどうするか考えていた。
火の球は俺から溢れた魔力にかき消されたものもあるけど、結構な数が集落に飛来。
確認はしていないけどいくつかの家が燃え始めているだろう。
エルフ達は消化にかかりきりになるはずだ。
半分以上は俺が氷の槍で倒したけど、まだゴーストはいる。
これ以上火の球を撃たせるわけにはいかない。
これ以上は集落にも、エルフにも被害が大きくなるばかりだから。
「エルサ、その結界の魔法はどうイメージしてるんだ?」
「え? こんな時に何なのだわ? ……これは魔力で壁を作るイメージなのだわ。魔力を込めれば込める程分厚く、広くなるのだわ」
「成る程な……ありがとう」
冷静な頭で考えつつ、エルサの結界魔法のイメージを教えてもらう。
壁を作る……簡単なイメージだな。
エルサに教えてもらったイメージをしつつ、俺の溢れた魔力に怯んでる魔物を何体か切り伏せる。
「リクさん、一体どうするの!?」
「リク、ヘルサルの時のような魔法は危ないぞ!」
モニカさんとソフィーさんがエルサの後ろで叫んでる。
このエルフの集落はヘルサルと違って高い壁に守られてるわけじゃない。
あの時と同じ魔法を使ったら、魔物達と一緒に集落森まで巻き込んでしまうだろう。
「大丈夫、その辺りはちゃんと考えてるから」
以前と違って冷静に考える事が出来る。
イメージも順調。
魔力もあの時程駄々洩れにはなっていない。
「何をするのだわ?」
「結界を張るんだ。エルサがよく使ってるだろ?」
俺の後ろで溢れた魔力を攻撃と勘違いしたエルサが張った結界を解きながら聞いて来た。
それに答えつつ、エルサの使った結界を真似するためのイメージを固めた。
範囲は……面倒だから、この集落の柵の広さで良いか……。
建物や木も覆わないといけないから、高さはそれなりに……ドーム状でいいかな。
んー……イメージとしては、ドーム球場のような大きさで透明、それで集落全体を包み込んで外からの魔法攻撃を遮断ってとこかな。
「……よし、結界!」
初めて使った魔法だけど、上手く行ったと思う。
溢れる魔力を結界につぎ込んで、集落を包む不可視の膜を形成、維持。
大雑把に範囲を決めたから、少し薄い場所とかはあるけど、ゴーストの魔法やオーガの攻撃程度じゃ破れないだろう。
魔法を使った頃には、さっきの頭の中がぐるぐるするような事は無くなっていた。
……ほんとにさっきのあれはなんだったんだろう……?
「モニカさん、ソフィーさん、ユノ! 結界を張ったから、その内側にいる魔物達を倒してくれ。エルフ達は燃え始めた火の消火をお願いします!」
結界を維持しながら叫ぶ。
不可視の結界だから、一瞬状況がわからずポカンとしてたモニカさんとソフィーさんは、俺の結界にゴーストの火の球が遮られたのを見て理解したようだ。
ユノも含めて、エルサの後ろから飛び出して内側にいる魔物達に攻撃を始めた。
魔物は俺が足を凍らせたのを含めてもそんなに多くない。
ユノもいて、軽々魔物を切り刻んでるからそんなに時間はかからないだろう。
俺達の後ろで魔物達に魔法を放っていたエルフ達は、モニカさん達よりも早く行動を開始した。
エルフだからか、多分俺の結界にはすぐ気付いたんだろう。
氷の魔法や水の魔法を使って消火作業を開始してる。
結構な数の火の手が上がってるけど、すぐに消火されそうだね。
弟を庇ったエルフは、その場で数人のエルフが診ているようだけど、顔に負った火傷はそこまで大きいものじゃなく、命に関わる程ではないようだ。
それでも、女性の顔に傷を負わせたのは許せない。
「フリーズランス」
俺は結界を維持しつつ、氷の槍をゴーストに向かって放つ。
魔物達の上にいて、魔法を放っていたゴーストを全て貫いて倒す。
結界の外だけど、結界も氷の槍もどちらも俺の魔力で元が同じだからか、透き通るように通過した。
「魔法の多重発動なんて……聞いた事ないわよ……」
「連続使用だけでも驚く事なのに、多重発動が出来るなんて……驚くを通り越して呆れるしか出来んな」
ゴーストを倒したと思ったら、後ろから声がした。
フィリーナとアルネだ。
他のエルフ達に消火作業を任せてこちらに来たらしい。
それにしても、複数の魔法を同時に使う事って珍しい事なの?
俺、普通に出来ちゃってるけど……これもドラゴンの魔法というもののおかげかもね。
エルサも前の襲撃の時結界とブレスを一緒に使ってたから、ドラゴン魔法の特徴の一つなのかもしれないね。
「しかしリク、これからどうするんだ? 魔物達じゃどうあってもリクの張った結界とやらを通る事は出来ないだろうが……」
「こちらも同じよ? これじゃ立てこもるだけになるわ」
アルネとフィリーナが、集落の入り口……モニカさん達が魔物を倒してるのを横目に結界に近付いてノックするように軽く叩きながら言う。
ノック音はしなかったが、二人の手は確かに不可視の物に遮られて結界の外には出なかった。
ふむ……俺の魔法なら外に撃てるけど、それだけじゃ魔物達を全て倒すのは時間がかかる。
結界を維持するのにイメージが崩れちゃいけないから、今俺は動けない。
動くと俺を中心に展開してる結界の範囲指定とか色々イメージし直さないといけないからね。
小さい結界なら大丈夫だろうけど、この規模だとさすがに無理だ。
でもエルフ達が外に出るのは無理と……それなら……。
「エルサ、大きくなってくれるか?」
「いいのだわ。けど、それでどうするのだわ? リクの魔力をつぎ込まれた結界なんて私にも破れないのだわ」
エルサでも無理なのか……全力という程じゃないけど、あふれ出した魔力を全部つぎ込んだから、結構硬い結界になってるみたいだね。
それなりに固くなるようにイメージしたけど、どれだけ硬いかは初めて使うからわからないんだよね。
「それじゃあエルサ、結界を一部薄くするから、そこから出てくれ」
俺は結界を薄くして、そこから出るようエルサに頼んだ。
1
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる