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エルサの契約相手が決まった原因
しおりを挟む轢かれる寸前で転移させたから助かったってユノが言ったはずだ。
それに、今ここにいる俺はちゃんと生きてる。
心臓の鼓動もしっかりしてるし、物を食べる事もあれば寝る事だって出来る。
どういう事なんだろう?
「今ここにいるリクはちゃんと生きてるの。でも、あの時私の目の前ではリクはトラックに轢かれたの」
「えーと……どういう事?」
「私は人間として地球に存在した。けど本質は神とは言え、一応は人間だからリクを転移させる事は出来なかったの」
「まぁ、人間が俺をあの瞬間に転移させるとかは出来るわけないよな」
「うん。だからあの後私は地球での人間としての生を全うして、神に戻ったの。神に戻ればやる事は簡単なの。あのリクが轢かれる瞬間まで時間を巻き戻して、そこから転移させればいいだけだから」
「簡単て……時間を巻き戻すとか出来るのか?」
「今は神の理からズレてるし、この世界に来てるから出来ないんだけど。ちゃんとした神に戻れば出来るの。でも、さすがに他の神が管理してる世界だから余計に力を使ってしまったの」
「そうなのか」
「それで、リクをこの世界に転移し終わったら使ってしまった力を回復させるために数百年は休む予定だったんだけど……」
「俺が転移前にやった事か?」
「そうなの。それでリクの魔力と感情が干渉して私が神の理からズレてしまったの」
「それは……なんというか、すまん」
「いいの。おかげでこうしてこの世界に入ってリクにまた会う事が出来たの」
俺の魔力のせいでユノの神様としての存在を揺るがしてしまったって事だろ?
やらかしてしまった気持ちでユノに謝ったけど、ユノは笑みを浮かべて俺に会えたことを喜んでる。
……そういえば、神の御所、だっけ? あそこにいた時のユノはこんな風に笑う事は無かったな。
今のユノが浮かべてる笑みはあの時の寂しそうな笑顔と違って、本当に嬉しそうな笑顔だ。
これなら、俺がしてしまった事は悪い事では無かったのかもな。
神様だけど、見た目が子供の笑顔ってのは大事なもんだ。
「……じゃあユノは今普通の人間なのか? 地球に来た時は人間にならないと世界に入れないって言ってたけど」
「うーん……正確には違うの。でも神としての能力は半分以上使えないから、ほぼ人間と同じと思っていいの。魔力で存在してるのも確かだから、どっちかというとエルサのようなドラゴンに近いかもしれないけど……」
「ドラゴンに近いのか?」
「ドラゴンと人間の間のような存在……なのかな。でも体は人間と同じ速度で成長するし、神に戻るにはこのまま外的要因の無い、生を全うさせないといけないの」
「外的要因の無い……つまり誰かから殺されたりせず、寿命が来れば神に戻れるって事か?」
「そうなの。寿命はリクと同じにしておいたの。だからリク、これから一緒に生きていけるよ!」
「そうか……そうだな、もうユノは一人じゃないんだ。だからこれから一緒に楽しく生きて行こう!」
「うん!」
満面の笑みで答えるユノ。
今まで一人で寂しかったんだろう、俺と話す時のユノは話し方もそうだけど普通の小さい子供……小学生くらいの子のように見える。
まぁ、見た目がそうだからってのもあるけどね。
……なんか、唐突ではあるけど、妹が出来た気分。
兄弟とか欲しかったからなぁ。
……ん……あれ……そういえば昔何かあったような……。
頭の中で霞みがかったような記憶が浮かびそうになったけど、それがどんなものかと記憶を呼び起こす前に、同じベッドで寝ていたはずのエルサの声がした。
「リクってやっぱり私から見ても規格外なのだわ……」
「エルサ?」
「あら、エルサ。起きてたの」
「こんなに近くであんな話しをされたら起きるのだわ」
「それもそうかもね」
「リクがドラゴンの私から見ても規格外だとは思ってたけどだわ。まさかユノ様とこんなに親しく話す人間だとは思わなかったのだわ」
「リクは特別なの」
「エルサ、ユノの事を知ってるのか?」
何となくエルサの口ぶりからは以前からユノの事を知ってるような良い方な気がした。
「ドラゴンは神に近い存在なのだわ。神ではないのだけどだわ」
「神はねリク。世界とそれを監視する存在を作るの。人間を作ったりもするけど、最初の数人くらいなの。後は勝手に増えて行くかいなくなるか自然に任せるの。人間がいない世界もあるし、地球よりも人間が多い世界もあるの」
「そうなのか」
「それでね、生き物で唯一全てを神が作ってるのはドラゴンだけなの。少なくとも私のこの世界ではそうなの」
「つまりエルサは直接ユノに作られたって事か」
「そうなの。確か……2000年前くらいに作ったの。ドラゴンは世界の監視のために作るんだけど、エルサを作った時に久しぶりに復活したばかりだったからちょっと失敗しちゃった」
「失敗?」
「……私失敗作なのだわ?」
失敗と聞いてエルサが落ち込みそうだ。
大丈夫、エルサのモフモフが失敗作なんてあり得ないから!
「世界を監視する役目のドラゴンだけど、力が強すぎて世界のバランスを崩しかねないの。だから人間と結び付けて契約をさせて、世界を破滅に導かないようにするのと契約するまで全力を出せないように制限してるの」
「それが契約……か」
「そうなの。でもエルサの時は失敗しちゃって人間と結び付ける事が出来なかったの」
「それで本能でわかるはずの契約相手がわからなかったのだわ?」
「ええ。まぁエルサがバランスを崩すような行動をしない限りはそのままでいいかと放っておいたの」
「……私の契約相手がいなかった今までの時間って……だわ」
要は、寝惚けて作ったエルサが人間と契約させる事が出来ないような失敗をしたという事か。
しかもそれを直さず、今まで放置してたと。
落ちこぼれドラゴンって自分で言ってたエルサが少しかわいそうになった。
あとでたっぷりキューをあげよう。
「リクがこの世界に来る時、ちょうどいいやと思い付いたの。それでリクとエルサを結び付けて契約相手にしたの。それがリクにあげた他には無い力なの」
「だからリクがこちらの世界に来た時に私が本能でビビビっと感じたのだわ」
「まさか探して飛び回って墜落するとは思わなかったの」
「……あれは……ちょっと喜び過ぎたのだわ。今では反省してるのだわ。でもそもそもユノ様が失敗せずにちゃんとしてくれてたらあんなことにはならなかったのだわ!」
「……それは、そうね。ごめんね」
エルサは飛び回り過ぎて墜落し、ユノはエルサの契約相手を結び付け忘れて失敗した……。
ドラゴンや神様でもうっかりってあるんだなぁ。
なんて俺は他人事のようにエルサとユノのやり取りを見てた。
「でもちゃんとリクを結び付けたの。エルサが墜落してどうにもならなかった所に向かわせたの!」
「……あの夢はユノだったのか?」
「……夢って何なのだわ?」
エルサと出会う前、俺はセンテの街で夢をみた。
森の中で苦しそうにしてる犬の夢。
あの夢の中で聞こえた声から助けてと言われた。
その声があったから俺は森に行ってエルサを助ける事が出来たんだ。
……いや、決してモフモフのためで声なんてほとんど覚えてないとかないからね?
まぁ、モフモフが目的だった事は認めよう。
本当にこのモフモフに出会えたことに感謝だ!
ありがとう、ユノ!
おっと、エルサに夢の事を説明しないとな。
夢の事がなんなのかわからないエルサは俺を見上げて首を傾げていた。
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