35 / 1,903
ゴブリンとの戦闘
しおりを挟む林の中を進む事約数十分、俺の探査にひっかかった場所までやって来た。
モニカさんと二人、木に身を潜めながらその場所を窺ってる。
数十匹のゴブリンが集まって群れを作っていた。
ゴブリンは前の世界のゲームで出て来たのと同じような、小さくてつぶれてるような顔、棍棒を片手に群れの中をそれぞれウロウロしていた。
「結構数がいるわね」
「1、2……ざっと20くらいかな。でも1匹大きめのがいる」
探査でもわからなかったけど、実際に見てみると奥に1匹だけ他のゴブリン達と違う大きさの奴がいるな。
1匹だけ鉄の鎧を着ていて、棍棒じゃなく剣を持ってる。
「あれは……父さんの話の中にあったゴブリンジェネラルかしらね、こんなとこにいるなんて」
ゴブリンジェネラル……将軍か。
確かマックスさんの話だと、ゴブリン達を束ねて群れで襲ってくるため、厄介な魔物らしい。
ジェネラル自体も強くて、Cランクの冒険者がパーティで討伐するような魔物と言っていた。
けど、ヘルサルの周りには出た事が無いってマックスさんが話してたんだけど……これはやっぱり何かこの周辺であるのかもしれないな。
「ジェネラル相手は難しいわね……1匹だけならまだしも、周りのゴブリンが邪魔ね」
「そうだね。どうしようか……このまま放っておくわけにもいかないし」
調査をする事が目的とはいえ、魔物を発見しておいてみすみす見逃すというのは避けたい。
冒険者の心得として、勝てそうにない場合は逃げる事も重要と聞かされたけど……。
「まずは、そうだな……俺が魔法で凍らせるから、モニカさんが周りのゴブリンを蹴散らすってのはどうかな? 俺も魔法を使ったらすぐに駆け付ける」
「……そうね、それでいいわ。ただし、前みたいな広範囲を凍らせるのはやめてよ」
「さすがにあんな事はもうしないよ。エルサ、しっかり捕まっておけよ」
「振り落とされたりはしないのだわ」
エルサに軽く注意をしておいて、俺は魔法のイメージを始める。
凍らせるよりも火で燃やした方が後処理も含めて楽だと思うけど、ここは林の中だしね、燃え移ったりしたら大事だ。
よし、イメージ完了!
「フリージング!」
魔法の発動と同時に辺りの温度が下がり、ウロウロしていたゴブリンの足元から凍り始める。
よっし、ゴブリンだけに発動した!今回は地面も凍ってない!
半分以上のゴブリンが頭まで凍ったあたりで、モニカさんが槍をかざして突撃した。
ジェネラルは……さすがに足が凍っただけですぐに抜け出してるな。
「やぁぁぁ!」
モニカさんの気迫の掛け声と共に振られた槍で凍ったゴブリンがガラスが割れるような音をさせて砕け散る。
砕け散った後も凍ったままなので、色々飛び散ったりしなくて良かった。
俺もモニカさんに続くために走る。
「グルゥァァァァァ!」
「はっ!」
「せい!」
こちらに気付いたジェネラルが何事か叫び、まだ凍ってなかったゴブリンを差し向けて来るが、モニカさんの槍と俺の剣で切り伏せる。
凍ったゴブリンも叩いて砕きながら何匹か切った頃に、ジェネラルが俺にめがけて突進して来た。
モニカさんは凍ってないゴブリンを相手にするので手一杯なようだ、こっちは俺が何とかするしかない。
ジェネラルが剣を振りかぶり、上段から俺に切りかかるのを剣で受け止め弾く。
軽いな……これなら!
「せい!」
ジェネラルの剣を上に弾いた事で、相手は万歳状態。
がら空きの胴に潜り込み、力を込めて剣を横薙ぎに振る!
「グガッ!」
ジェネラルがくぐもった声を出しながら、上半身と下半身が切り離され地面に落ちる。
他のゴブリンは!?
「これで、最後!」
残っていたゴブリンの最後の1匹がモニカさんの槍に貫かれて絶命する。
「モニカさん、平気?」
「ええ……何ともないわ。凍らせて数を減らせた分、楽だったわ。それにしても……」
「ん?」
「ゴブリンジェネラルを一振りで切り裂くなんて、聞いた事ないわ。しかも鎧ごと」
「んー、マックスさんからもらった剣が良いんだよ、きっと」
前に自分で買った剣はすぐに折れちゃったしね。
この剣は折れずにちゃんと切れたってことは良い剣なんだよきっと。
マックスさんありがとう。
「剣だけじゃない気もするけど……まあいいわ。それより、後処理をしないと」
「食べるのだわ?」
「食べないよ!気持ち悪い……ゴブリンは食べてもおいしくないらしいしね」
「埋めるか燃やすかしないといけないわね。魔物が寄って来たり、新しい魔物が発生したりするから」
「んー、じゃあ小さい火の魔法で燃やそうか。まずはゴブリン達を集めよう」
「あ、そうだ。討伐証明の部位を切り取らないと」
魔物を倒したら、その部位を切り取って討伐証明をすれば討伐報酬がもらえる。
素材にも肉にもならない魔物はそうやって冒険者はお金に換えるらしい。
ただ、死体から切り取るってのも少し嫌な気分だね。
「えっと、ゴブリンが耳で、ジェネラルは?」
「確か、通常のゴブリンと同じで耳で良かったはずよ」
「臭くてまずそうなのだわ」
俺とモニカさんがせっせと部位を切り取ってるのを眺めながら鼻をクンクンしてエルサが嫌な顔をしている。
確かに臭いね。
匂いに関してはどうしようもないから我慢するしかない。
部位を切り取り終わったら一か所に集めて……落ちてた枝を数本、先を燃やして死体に火をつけて燃やしきればお終い、残った骨は穴を掘って埋める。
骨だけなら掘る穴は小さくても良いから楽だ。
「ファイアー(極小)」
指先に灯した小さな火の魔法で枝に火を付け、その火でゴブリンを燃やす。
「小さい魔法も上手くなったわね。最初の頃は爆発してたのに」
「まあ、あれだけ練習したからね。さすがに少しは慣れるよ」
もうあの広範囲の氷を溶かすのも、爆風で熱い思いをするのも嫌だからね。
そうこう言ってるうちにゴブリン達は燃え尽きた、後は穴を掘って、と。
「よし、骨は全部埋めた。一旦街まで帰ろうか。ジェネラルの事を報告しないといけないし」
「そうね、本来この辺りには出ない魔物だものね」
「飛ぶのだわ?」
「今日は無しだよエルサ。飛んでるところを見られたくないから」
「……乗ってみたかった」
最後にボソッと呟いたモニカさんの呟きに苦笑して、また今度ねと言ってヘルサルの街へ帰った。
―――――――――――――――
ヘルサルの街の冒険者ギルドに入ると、登録の受付をしてくれた職員さんがヤンさんを呼びに行ってくれた。
ヤンさんが奥から出て来て、ギルドに来ていた他の冒険者達が副ギルドマスター直々に出て来るとは何事?という顔をしていたけど、その視線から逃れるようにヤンさんに奥へと通され、筆記試験の時に来た会議室へと案内される。
「何か、進展はありましたか? 予想より早い訪問ですが」
まあ、昨日の今日だからね。
さすがに1日でわかるような依頼じゃないから、ヤンさんが少し驚いてる顔をしてる。
「街の西を調べてみたんですが、先程ゴブリンジェネラルを発見しまして」
「ゴブリンジェネラルですか!?」
「ええ、これがその討伐部位になります」
討伐部位を入れた革袋からゴブリン達の耳と一緒にジェネラルの耳も出す。
「確認させて頂きます……これは……確かに、ゴブリンジェネラルのようですね。これが街の西にいたと?」
「少し離れてはいますが、林の中を数十分程度西に歩いた場所にいました」
「そうですか……」
そう言ってヤンさんは何か悩むように俯いて黙ってしまった。
ジェネラルは確かにこの周辺では見る事の無いはずの魔物だと聞いたけど、何かあるのだろうか。
「どうしました?」
悩んでいるヤンさんに聞いてみると、ヤンさんは顔を上げ、真剣な目で話し始める。
「ジェネラルがこの街付近にいたという事は、もしかしたら、事態は最悪かもしれません。ジェネラルは単独で行動することは無く、必ずそれより上の上位種の命令で動いているのです」
「上位種?」
「ええ、ジェネラルの上位種です。ゴブリン以外の種族から命令される事もあるそうですが、大体の場合、ゴブリンキングに命令される事が多いのです」
「ゴブリン、キング?」
「そうです。ゴブリンキングはその名の通り、ゴブリンの王。群れなんて生易しい言葉ではなく軍勢を率いて街や村を襲います」
軍勢……ってことは少なくとも数十匹どころじゃないって事か。
まさか1000匹を越える事はないだろう。
「ジェネラルはキングの次にゴブリンの中で格が高いのですが、これが命令されてこの街付近に来たという事はジェネラルが近くにいた場合、その付近の街や村は必ずおよそ数万のゴブリン種に襲われるというのが、今まで各地でギルドが集めた情報です」
…………ゴブリン…………1000匹どころじゃなかったよ…………。
11
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる