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夢に導かれて森へ

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「リク……リク……」

 頭の中に声が響く。

「……誰だ?」


 意識はある。
 だが暗い空間にいるだけで、何も見えず、誰がいるのかもわからない。

「……リク……リク……」

 俺を呼ぶ声だけが聞こえてくる。
 耳で聞いているのではなく、頭に直接聞こえて来ていた。

「リクはモフモフ……」

 モフモフ?モフモフは好きだが、俺はモフモフじゃないぞ?

「……助けてあげて……」

 そう聞こえた瞬間、うっすらと浮かび上がる映像が見えた。
 見えたというより、頭の中に浮かび上がったという方が正しいかもしれない。
 これは……
 見えた映像は森の中、木々が生い茂っている真ん中に、大体20メートル四方くらいの広さで木々がなぎ倒されていた。
 木々がなぎ倒されているせいで、そこだけ広場のようになっており、映像は少しづつそこへと近付いていく。

「……苦しそう……」

 その広場になっている中心に何かが横たわっているのが見えた。
 何だ?あれは?人じゃないよな?
 集中してよく見てみると、それは小さな獣の姿だった。
 けど、その獣は怪我をしているのか何なのか、荒い呼吸をして苦しんでいるようだった。
 これは!!
 映像がその獣を詳しく見られるくらいまで近づいた時に気付いた。
 モフモフだ!
 モフモフだったのだ。
 地面に横たわっているからなのか、汚れているが、俺にはわかる。
 あれは極上のモフモフだ!フカフカのモフモフだ!
 今日会ったエリノアさんの尻尾よりも素晴らしい物かもしれない!
 ……エリノアさんごめんなさい。
 何となく謝っておかないといけない気がした。

「……助けてあげて……」

 言われなくても助けるさ!極上のモフモフのために!
 もう俺には映像にあるモフモフの事しか頭になかった。

「……」

 声が聞こえなくなり、映像も見えなくなり、意識が浮かび上がる感覚。
 目が覚めるのかな?と何となく感じていた。
 最後に、声の主は少しだけ笑っていたような気がした。





「はっ!モフモフ!」

 モフモフへの感情のままに起き上がったが、そこは宿の自分の部屋。
 もちろんモフモフはいない。

「夢か……」

 夢を見る事はもちろんあるが、ここ最近夢を見たという記憶はなかった。
 だが、久々に見た夢は夢というにははっきりしすぎていて、どうにも気になる。

「……行って見るか」

 夢で見た映像は森の中だった。
 センテに来る時の街道沿いに森があった。
 休憩したのは森の端で、森の中には入らなかったが、夢に出て来た森はあの森だと何となくわかった。
 夢に対しての説明なんか意味のないことかもしれないが、入った事のない森の中を夢に見るというのは不思議だった。
 外を見れば夜明け前。
 今日はヘルサルに帰る予定で、馬車に乗るために早く起きようとは思っていたけど、それよりもかなり早く目が覚めたようだ。
 馬車に乗ったらヘルサルへ帰る。
 でもあの森に行くには馬車には乗れない。

「……帰ったらマックスさんに謝ろう。モニカさんやマリーさんには土下座かもしれないな……」

 馬車に乗らないという事は徒歩で帰るという事。
 馬車では半日の旅程も、徒歩だと2~3日かかると聞いた。
 ヘルサルへ帰るのが遅れると皆に迷惑がかかるだろう。
 しかし俺には森に行かずに帰るという選択肢はなかった。
 それはもちろん、モフモフのため!
 この世界に来てモフモフに触れられていない欲求がすでに我慢の限界に達していた。
 昨日のエリノアさんには耐えられたが、夢で見た極上のモフモフがあると知ったからにはもう耐えられそうにない。
 モフモフのためなら、2~3日の旅なんて苦にもならない!……はず!
 もはや早く帰る事は頭には無く、マックスさん達には謝る事を決定して、旅をするために必要な物をどうするか考えていた。

「おはようございます」
「おはようさん、今日は早いんだねえ」
「ええ、早めに出て色々買って帰ろうと思いまして。それで、もう食堂は開いていますか?」
「ああ、今開いたところさ。あんたが最初の客だね」
「良かった。それじゃあ朝飯を食べてきます」
「はいよ」

 部屋を出て階段を降り、宿のおばちゃんに挨拶をして食堂へ。
 まだ日が差し込み始めたばかりの時間から食堂が開いてるのは助かった。
 早めに朝食を取り終え、お湯を貰って部屋へと帰って体を拭き、身支度を整える。

「お帰りかい?」
「はい、お世話になりました」
「こちらこそ、ご利用ありがとうございました」

 おばちゃんに挨拶をして宿を出る。
 まずはと、昨日街を見て回ったときに行った昼を食べた店へ向かう。
 そこでは持ち帰り用の食事や携帯食なんかもあったのを見かけていたので、それを買うのだ。
 途中、通りかかった広場で、いくつかの露天商が今日収穫したらしい野菜を露店に並べて準備していた。
 その中から、最初にキューを買った露店を見つけ、そこで10本程購入しておく。
 これなら腹が減ったら歩きながら食べられるからな。
 広場を通り過ぎ、昨日の店に行き、準備をしていた店主と話して携帯食を売ってもらう。
 まだ準備中だったため、持ち帰りの食事は出来なかったが、とりあえずはこれで十分だ。
 携帯食と野菜を鞄がパンパンになる程に詰め込んで、この街に入って来た時に通った西門へと向かう。
 西門の手前、ヘルサル行きの馬車が準備されようとしていた。
 馬はまだ繋がれておらず、近くにある厩で休んでいる。
 馬車の整備なのか、複数人が馬車に出入りしていたり、馬車の下に入り点検をしている。
 それを横目に通り過ぎ、西門にいる兵士達のとこへ向かう。
 兵士さんは軽く荷物検査をした後に道を開け、西門を通してくれた。
 盗賊なんかが何かを盗んで逃げ出す時、警戒が強い夜ではなく朝早くに夜勤の兵士が眠気と戦っていて油断しているこの時間帯にすり抜ける事が多いとは今聞いた話し。
 もうすぐ日勤の兵士と交代らしいが、夜勤の兵士はこの時間が一番辛いらしい。
 お疲れ様です、と挨拶をして西門を抜ける。
 兵士さんが言うには、最近街道に野盗が出る事が増えたので気を付けて欲しいとの事だった。
 昨日は色々装備を買ったりもしたが、俺は現状剣に慣れていないし戦えない。
 野盗に合わない事を願うしかないが、気を付けられるべきところは気を付けよう。
 そうして、西門を抜けてからは、まずはヘルサル行きの街道を道なりに進む。
 日が高くなって来た頃に、行きで休憩に使った森の端とは別の端に辿り着いた。
 木陰に入り、ここで一旦休憩。
 歩き通しでそのまま森の中に入るのはさすがに躊躇われるからな。
 休憩の時、昼食をと携帯食を少し食べたが、あんまりおいしくなかった。
 干し肉は保存のために使っている塩が多くて塩辛い。
 でも、昨日買っていた野菜のうちから水気の多いトマト(こっちの世界の名前なんだっけ?忘れた……)を取り出して一緒に食べたらちょうど良かった。
 携帯食の中には水も入っていたけど、トマトを含む野菜の水分が多いので、まだ水を飲まなくても大丈夫だ。
 1時間程休憩した後、森へと向かって出発。
 念のためと、昨日買ったナイフを右手に持っておく。
 蔦や草等の邪魔な物の対策だ。
 剣は二本、左側の腰に下げ、何かあれば抜けるようにしておく。
 皮の鎧はしっかり着込んでいる。
 初めての森という事もあり、警戒しながらゆっくり進む。

「モフモフ……もうすぐモフモフに会える……」

 しかし警戒をしておきながら、頭の中はモフモフの事でいっぱいだった。
 これから会えるモフモフに期待をしながら、森の中へと入って行った。

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