上 下
14 / 1,903

武具店で装備を買う

しおりを挟む


 「あの辺り一帯が工房街だ」

 冒険者ギルドを出て約1時間歩いて辿り着いた。
 ソフィーさんと話しながら歩いてたけど、やっぱ一人で街を歩くより誰かと一緒にいた方が楽しいね。
 工房街はセンテの街の北側に集まっているらしい。
 南側から中央付近は野菜を扱う問屋が多いと聞いた。
 農地が南に多く、街に野菜が入って来る時も南からが多いために問屋がそこに集まったらしい。
 北側は鉱山のある街が北にあり、そこから素材を仕入れる関係で北に工房が集まったとの事を道すがら聞いていた。

「この街は農業の街だからな、農地を耕したり開墾したりする農具を工房で作っている。とは言え、一部は武具を作る事に異様な執念を見せる工房もあってな、冒険者はもとより、街の兵士なんかもよく利用しているんだ」
「頑固な職人が多そうですね」
「頑固なのは確かに多いようだな。こっちだ、私がよく行く武具店がある」

 ソフィーさんオススメのお店があるという方へ案内される。
 少し工房街の外れに向かっている、やっぱ農具がメインの工房街だからちょっと離されてるのかな?

「この店だ」
「ここ、ですか」

 辿り着いた店は、何も飾り気のない1軒の家。
 入口の横に小さく看板が出ているが、これがなかったら店ではなくただの民家としか見えなかっただろう。

「ここの店主はさっき話していた頑固者の一人で、武具を作る事が生きがいらしい。武具を作る事に関してはこの工房街一なのだが、商売に関してはからっきしでな」

 なるほど、売る事を考えるより作る事一辺倒だから、店構えとか考えないのか。

「いらっしゃいませ」

 店の中に入ると、そこら中に剣や槍、鎧等が置かれているが、整理されているのか怪しいくらい乱雑に積まれている。
 置かれている武具の隙間で通路が出来ていて、その奥から女性が出て来た。

「エリノア、武具を見せてくれ」

 ソフィーさんが挨拶もそこそこに用件を伝えるが、俺はそれどころではなかった。
 エリノアと呼ばれた女性のお尻のあたりに目が釘付けとなっている。 
 正確には、お尻に付いている尻尾に。

「ソフィーさん、今日は装備の買い替えですか?」
「いや、私ではなくこのリクがな、武具に興味があるみたいなので連れて来た」
「そうですか、えっと……」
「…………あ!すいません、リクと言います。……尻尾……じゃなかった、武具を見させてもらってもいいですか?」
「はい……あの……尻尾って今……」

 しまった、尻尾が気になりすぎて他の事が飛んでいた。

「いえ、すみません。獣人の方を見る事が少ないのでつい……」

 だって尻尾だよ?それも狐の……ふさふさした毛の尻尾!もう……もうね……モフモフしたいじゃん!
 前の世界にいた頃は、外に出ている時に犬や猫を見かけたら時間を忘れてモフモフしていた事もよくあった。
 こちらに来てモフモフが足りないのを何とか我慢していたけど、こんな所にモフモフがあったとは!

「……そうですか。私は狐型の獣人族でエリノアと申します。ここの店主の娘です」

 手が無意識に尻尾へと延びようとするのを、なんとか抑えつつ、エリノアさんへ謝り、挨拶を交わす。
 俺が三度の飯よりモフモフが好きな事は……さすがに隠しておきたい……何か恥ずかしいし……。
 意志の力でモフモフへの欲求を抑えつつ、店内の武具を見せてもらう。
 乱雑に置かれているが、これでも多少はエリノアさんが整理をしているらしく、一部は整理されて棚に置かれていたりもしていた。
 エリノアさんの方を見てしまうと尻尾に意識が行ってしまうので、武具だけを見て気を逸らしつつソフィーさんに聞く。

「初心者にオススメの装備はどうですか?」
「そうだな、リクはまだ冒険者にもなっていない卵だし、実戦経験もないように見えるから初心者用で慣れるのがちょうどいいだろう。この中では……これだな」
「ナイフ……ですか?」
「まあまずは刃物に慣れるという意味合いもある。武器としては頼りないが、色々な用途に使えて便利だぞ。剣はその腰に付けている物があるしな」
「あ、いえ、これは借り物なので、俺のではないんです。だから剣も欲しいかなと」
「ふむ、そうだったか。それならあちらに剣が積まれているから、それを見て選ぶといいだろう」

 ソフィーさんにあれこれ聞きつつ、武器を選んでいく。
 途中エリノアさんが……

「ソフィーさんが全部案内して、私の役目が……」

 と、呟いていたが、エリノアさんに案内してもらうと尻尾に気が向いて碌に装備品選びなんか出来なさそうだったから、聞かなかった事にしておいた。

「それじゃ、このショートソードとナイフ、あと、皮の鎧を下さい」

 今すぐ戦いに行くというわけじゃないけど、せっかく色々教えてもらえたので、買う事にした。
 ソフィーさんからアドバイスももらえるので、選ぶなら今だろう。
 ショートソードは、マックスさんから借りた剣と同じくらいの大きさで、あまり重くないため持ち運びにも困らない。
 ナイフはサバイバルナイフのようなもの。
 サバイバルをするかはわからないが、応用が利いて、色々と役立ちそうだからと買った。
 皮の鎧より、鉄でできた鎧の方が格好良くて好きなのだが、試着した時重くてあまり動けなかったため断念した。
 ヘルサルに帰ったら、時間を見つけて体を鍛えよう、うん。
 女性二人の前で鎧を着てフラフラおぼつかないってのはあまりにも格好悪かったから……。

「はい、えっと……全部で銀貨50枚になります」

 ショートソードが銀貨30枚、ナイフと皮の鎧が銀貨10枚ね。
 お金をエリノアさんに渡し、確認してもらう。
 商品が売れたからか、尻尾をゆらゆらと揺らしているのが気になったが、なんとかそちらを見ないようにしてやり過ごす。
 くっ!この店は誘惑が多い!

「ありがとうございました。またお越し下さい」

 店を出る時に、エリノアさんが腰を90度曲げるくらい深くお辞儀をし、そのせいで尻尾が上向きに伸びて主張していたのを見て理性が危なかった。

「……はあ、なんとか乗り切った……疲れた……」
「ん?疲れるような事があったか?」

 ソフィーさんの問いかける視線から目を逸らしつつ、なんとかごまかした。
 モフモフ好きはバレないように!

「では、私はもう一度冒険者ギルドに顔を出してから、宿に戻る」
「ありがとうございました、態々案内してもらっただけでなく、アドバイスまで頂いて」
「なに、気にするな。リクには恩もあったし、これから冒険者になるかもしれないのなら、変な装備をされても危ないからな」

 まあ、冒険者になると魔獣と戦う事もあるようだし、使えない武器を持っていても死ぬだけなのかもしれない。

「おかげで良い買い物が出来ました」
「それならよかった。では、私はこれで。またな」
「はい、ありがとうございました。それでは」

 ソフィーさんと挨拶を交わし、別れる。

「今から宿に帰ったら、ちょうどいい時間か」

 そういえばハンスさんの店を探すのを忘れてた……ま、あまたセンテに来た時に探してみよう。
 日が傾き始め、お腹も空き始めている。
 宿に着く頃にはお腹はペコペコになっていそうだなと思いながら、宿へと歩く。
 宿に着いてからは、食堂で晩飯を食べ、今日こそは体を拭いて寝ようと思っていたのに、ベッドに少しだけ横になった途端に、睡魔に誘われそのまま意識を手放した。
 そうして、熟睡しながら、久々に夢を見た。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

転生最強ゴリラの異世界生活 娘も出来て子育てに忙しいです

ライカ
ファンタジー
高校生の青年は三年の始業式に遅刻し、慌てて通学路を走っているとフラフラと女性が赤信号の交差点に侵入するのが見え、慌てて女性を突き飛ばしたがトラックが青年に追突した しかし青年が気がつけば周りは森、そして自分はゴリラ!? この物語は不運にも異世界に転生した青年が何故かゴリラになり、そして娘も出来て子育てに忙しいが異世界を充実に過ごす物語である

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...