上 下
12 / 1,903

センテの街観光中

しおりを挟む


「ん……」

 ゆっくりと目が覚める。
 見慣れない天井だ……。
 ここはどこだ?
 ……ああ、そうか、センテの宿か。
 少し寝惚けている頭を振りつつ、上半身を起こす。
 朝は弱くはないので、起きるのは辛くない。
 けど寝惚けてここがどこかわからなくなるのは少し珍しいな、それだけ熟睡したって事か。
 昨日は馬車で初めての移動だし、何だかんだ問屋でも緊張したからそれだけ疲れてたって事かな。

「んー」

 立ち上がって伸びをして、眠っていた体を起こしつつ、部屋の外へと出る。
 昨日は体を拭かずに寝たから、ちょっと気持ち悪い感じ……お湯を貰って来よう。

「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます。おかげさまでしっかり寝ましたよ」

 階段を降りたとこで、宿の入り口を掃除していたおばちゃんと挨拶を交わす。

「お湯、貰えますか?」
「はいはい、ちょっと待ってね、今桶に入れて持ってくるから」

 お湯を貰って部屋へ帰り顔を洗い、布を濡らして体を拭く。
 風呂に入れないのは辛いが、体を拭くだけでも随分とスッキリした。

「さて、朝飯、朝飯、と」

 身支度を整え、まずは朝食をと隣の食堂へ。
 昨晩もそうだったが、宿に泊まる人以外も利用しているのか、それなりに埋まっている席の中から空いてる場所を見つけて座り、注文をする。

「はいよ、お待ちどうさん。野菜のスープと焼き立てのパンだ」

 朝だからか、スープは昨日のよりもあっさりした味付けで、それにパンを浸して食べるとおいしかった。
 食事後一旦部屋へと帰り、鞄を肩に掛けながら考える。

「さて、これからは……」

 センテの街での用は仕入れに関する事だけだったから、昨日だけで済ませてしまった。
 すぐにヘルサルへ帰ってもいいけど、せっかくだから観光でもしてみようかな。

「マックスさんも色々見て来いと言っていたしな。それに宿代も2日分払ってるから、ここで帰ったらもったいない」

 そう決めて、宿を出る。
 まずはと、昨日ホルザラの店に行く途中で見かけた露店が出ていた広場へと向かう。

「まだ朝なのに結構人がいるな」

 野菜を扱っているからか、露店を広げる人、露店で買い物をする人等、それなりに混雑し始めていた。

「どうだいそこの兄ちゃん、うちで今朝採れた野菜だよ!」

 広場を見回していたら、近くで露店を開いていたおっちゃんに声をかけられた。

「どういう野菜ですか?」
「うちのはキューって野菜だ。齧った時の食感が気持ち良いぞ」

 おっちゃんの前に積まれた野菜は、細長い棒状で緑色、小さいイボが付いている。
 これって、キュウリ……だよな?
 こっちの世界にもあったのか……でもよく考えたら獅子亭やここの食堂で食べた野菜も味付けの違いはあっても、元の世界と似たような野菜の味だった。
 あんまり食材に何が使われてるか考えず、ただ食べてただけだからなあ。
 食が大きく変わらないのは良い事なのかもしれない。
 衣食住は基本で、食いしん坊ではないはずだが、食に不満がないのはこれから生活していく中で良い事だと思う。
 こっちに来てすぐ獅子亭にお世話になったおかげも大きい。
 マックスさんの料理はおいしいからね。

「へー、おいしそうですね、おいくらですか?」
「1本銅貨1枚だ。実際おいしいぞ?うちで丹精込めて作ったキューだからな。」
「じゃあ、5本下さい」
「毎度あり!」

 おっちゃんにお金を渡し、キューを受け取る。
 キュウリは好きだったからな、こっちにもあって嬉しい。
 あ、でもこっちにマヨネーズとか味噌とかってあるんだろうか……
 まあ今は観光でもしながらそのまま齧るのも悪くない。
 丸齧りとかよくやってたしね、マヨネーズや味噌を付けてたけど。
 おっちゃんにこの街の事を軽く質問しつつ、キューのお礼を言ってその場を離れる。
 なんでも、作物は朝収穫する事が多いため、日の出と共に急いで収穫し、街に近い農家はここへ持って来てその日の新鮮なうちに売るんだそうだ。
 農家に関してはあまり詳しくはないが、元の世界で何となく聞いていた事とあまり変わりはなさそうだ。
 農家の朝は早いんだねやっぱ。
 その後、広場の露店を見て回り、どんな野菜があるかを確認して回った。
 片手にキューを持ち、ポリポリと齧りながら。
 このキュウリ美味いな……元の世界でもこんなに美味しかった記憶はないけど……これは新鮮だからか、それともこれを作った人や土地が良いのか……
 広場を見て回って確認した野菜。

  ・キュー=キュウリ
  ・ニンジ=人参
  ・キャベ=キャベツ
  ・レタス=レタス
  ・じゃがいも=じゃがいも
  ・ダイコン=ダイコン

 等々、その他にも見た事のある野菜があったり、見た事のない物もあったりだった。
 さすがに大きな物は持ち歩けないから変えないが、持ち歩ける程度の野菜をいくつか買ってみた。

「あ」

 買ってから気付いた、これ……調理しなかったら生でそのまま食べるのか?せめてサラダにでもしたいけど……ヘルサルに帰るまで腐ったりしないかなあ?
 後先を考えず買った結果、キューのように丸かじりでもおいしい野菜以外を持て余す事になったけど、まあ何とかなるよね、うん。
 気付いたら日は高く、お昼時になっていたので、露店をしている人にオススメの食べ物屋を教えてもらい、そこでお昼を食べる。
 宿の食堂でもそうだったけど、やっぱり野菜をつかった料理だった。
 ヘルシーな健康生活でも目指してみるか?とか考えたけど、ヘルサルに帰ったら獅子亭の特製肉中心になるのは決まっているので、考えるだけにしておく。

「さて、これからどうするかな……」

 今日一日観光するとはいえ、知らない街に一人。
 うろうろして迷子になるのも嫌だし、でも街を見て回りたいという気もある。

「そうだ、冒険者ギルドに行って話を聞いてみるか」

 冒険者ギルドはこの街特有というわけじゃないだろうけど、そこに行くまでの街並みを見るのもいいし、単純に冒険者というものへの興味もあった。
 一旦広場に戻り、適当に露店を開いているおっちゃんに売ってる物を少しだけ買いつつ、冒険者ギルドの場所を聞き出す。
 広場は街の中心に近い場所にあるが、冒険者ギルドは街の東側にあるらしい。
 この街に入って来た時に通った西門とは逆側のようだ。

「へー、こんな建物もあるんだ」

 異世界といえば、イメージは中世ヨーロッパ。
 俺の知ってるイメージそのままの建物や、たまに一風変わった建物等があったりするのを見るのも楽しく、足取り軽く一路冒険者ギルドへ。
 建物はやっぱり木造か石造り。
 レンガ造りの物もあったけど、結構な大きさだったから、金持ちでも住んでるのかな?さすがに日本形式の家屋等はなかったな、まあ当然か。
 えーと、こっちへ行って、あそこを曲がって……と。

「……ここかあ」

 辿り着いた冒険者ギルド。
 周辺の建物よりも一回り大きい石造りで、奥の方に小学校のグラウンド程の大きさの平屋が繋がっている。
 建物正面にはデカデカと冒険者ギルドセンテ支部と書かれた看板が掲げられている。

「結構大きいもんだなあ」

 俺がこの世界に来て見た、一軒の建物としては一番大きかった。

「ヘルサルの街のはどうなんだろう?やっぱこれくらい大きいのかな?」

 帰ったら暇を見て一度見に行くだけでも行って見ようかなと考えつつ、建物に真ん中にある入り口の扉を開け、中へと入って行った。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...