上 下
10 / 1,903

センテの街に到着

しおりを挟む


 休憩からしばらくたち、再び馬車に揺られる。
 ロジーナやレッタさん親子、ハンスさんやソフィーさんと他愛もない会話をしてお尻の痛みをごまかしつつ、ようやくセンテの街に到着する。

「皆様お疲れ様です。センテの街に到着しました」

 御者の人からの声で、皆それぞれ馬車から降りて行く。

「ここがセンテかー」

 門から入ってすぐの場所で馬車を降り、街並みを見渡す。
 建物はヘルサルと大差はないが、あちらよりも少し人通りは少ないようだ。
 けど、野菜交易の中心となる街だけあってか、荷物を載せていると思われる馬車や木箱等の荷物を持っている人が多く見られる。
 さて、問屋はどこかな、と。

「リクお兄ちゃん、またねー」
「リクさん、それでは」
「リクさん、冒険者になる時にはギルドへ来て下さい」
「何か買う物があれば私の店へ来て下さいね」

 それぞれに声を掛けられ、それに返しつつ知り合った人達と別れる。
 特に話をしていない何人かはそのまま別れた。
 さて、モタモタしてたら日が暮れそうだ、問屋へと急ごう。
 マックスさんから渡された問屋の場所が書いてある物をみつつ、道を進み始める。

「西門から街中心へ向かって真っ直ぐ、しばらく歩いた後、野菜を売っている露店の広場に出てその広場の真ん中あたりから右の道へ入り、次の角を左へいって3軒目のお店……と」

 歩き始めて数十分、お尻の痛みもなくなった頃、1軒の店の前に辿り着く。
 ホルザラの店、ね。
 ここで間違いないようだ。
 入口横に置いてある看板で店名を見て、間違えてない事を確認した後、ドアを開けて店に入る。

「すみませーん」
「……いらっしゃいませ」

 店には入ってすぐカウンターがあり、そこに小さな女の子がいた。
 奥には木箱に溢れるように詰め込まれている野菜が見える。

「えっと、マックスさんからの使いで来たんだけど、店主さんはいるかな?」

 娘さんかな?ロジーナよりは大きく見えるけど、いって中学生くらいの子が店番をしていた。

「……私が店主のホルザラ……」
「え?えっと……失礼しました!てっきり……」
「いい、慣れてるから。こう見えても私は……やっぱり歳は内緒……」

 一体いくつなんだろう……どうみても子供にしか見えない……
 慣れてるって事はいつも間違えられてるのか。

「すみません、歳は聞きません。俺はリクといいます。マックスさんのお使いできました。こちらマックスさんからです」
「……ん」

 マックスさんからの手紙を渡し、それを読む事しばらく。

「……わかった、次に卸す野菜の量はここに書いてある通りにする」
「はい、それでお願いします。」
「……やっぱりあの野菜の量は間違い、おかしいと思った」
「わかるんですか?」
「……ええ、いつもの量の半分しかなかった。客が少なくなって店が危なくなったのかと少し心配した」
「そうですか。獅子亭の方は毎日お客さんでいっぱいで、人手が足りないくらいですよ」
「そう……リクがお使いに来るって事は、獅子亭で働いてるの?」
「はい。働かせてもらってます。」
「……ようやく人を入れる気になった。人手が足らないくせに、新しい人を入れなかったのに」
「そうなんですか?でも俺が入っても人手が足りてるって程じゃないので、まだこれから増やすんじゃないですか?」
「……それはわからない。けど、今まで人を入れなかったマックスが人を入れた……それだけ店が繁盛してるって事は良い事」
「そうですね、毎日いっぱいお客さんが来てくれるので、少しくらいきつくても嬉しい悲鳴ってやつですよ」

 等々、しばらく話し込んでいた。
 何か、静かにちょうどいいテンションで話す人だなぁ、話しやすい人だ。

「それじゃあ仕入れの件、よろしくお願いします」
「……わかった。予定通りの日に野菜を持って行く」

 要件を済ませて、店を出る。
 結構話し込んでいたせいか、もうほとんど日が落ちで辺りは暗くなって来ている。

「完全に暗くなる前に宿に行かないと」

 えっと、ホルザラの店を出て左に行って…………と説明通りの道を少し早めに歩いて行く。
 初めて来た街で暗い中さまようわけにはいかないからね。
 迷子にでもなったらヘルサルの街の時のように途方に暮れそうだ、実際ほとんど日も暮れてるし。

「ここか」

 ついた宿は三階建ての小綺麗な所だった。

「いらっしゃい」

 中に入ると、恰幅のいいおばさんが受付をしていた。

「マックスさんの紹介で来ました」
「あーマックスさんとこの。はいはい、何泊するんだい?」

 んー、明日はちょっとこの街を見て歩きたいから、明後日帰るとして。

「2泊でお願いします」
「はい、かしこまりました。料金は銀貨16枚ね」
「はい」
「確かに。それじゃこれが部屋の鍵ね。部屋は二階の一番奥が空いてるから」

 部屋の場所等の説明を受け、部屋へと向かう。
 夕食と朝食は隣にある食堂にこの宿に泊まってる事を言うと半額で食べられるそうだ。
 風呂等はないから、部屋にお湯を用意してもらい、布で体を拭く。
 説明を受けながら、ここでもホルザラさんと同じく、俺が獅子亭で働いてる事に少し驚かれた。
 今までどれだけ人を入れたがらなかったんだろう、マックスさん達……。

「ふー、ようやく一息、かな」

 部屋はベッドと小さい机があるくらいの簡素な部屋だった。
 掃除が行き届いていて綺麗な部屋に入り、机の上に剣と鞄を置いて、ベッドへ座る。

「明日は街を見て回るから、今日は早めに休もう。初めての馬車で疲れてるし」

 ちょうど晩飯時だ、隣の食堂で晩飯を食べて、体を拭いてさっぱりしたらすぐに寝ようと決める。
 部屋を出て隣の食堂に入り、宿に泊まっている事を告げて注文する。

「はいよ、野菜の煮込みスープだ」

 食堂のおじさんが持ってきた野菜スープを食べようとした時、思い出す。
 マックスさんに貰ったパンがまだ残ってた……
 明日の朝ごはん……まではもたないな、きっと。
 せっかく作ってもらったのに、捨てるのも気が引ける……仕方ない。
 鞄からパンを取り出し、煮込みスープと一緒に少し硬くなったパンを食べていく。
 スープのおかげで、時間が経って硬くなったパンは気にならなかったが、大きくて量が多い。
 今度作ってもらうときは、量の加減をマックスさんにしてもらおう。
 かなり苦しかったが、何とか食べられた……動くのがしんどい……。
 とはいえさすがに食べ終わった後延々と席の一つを占領し続けられない、食堂は今が一番忙しいのか、後から後から客が入ってくる。
 何とか立ち上がり、ゆっくりと動いて支払いを済ませ、宿へと帰った。

「おかえり、なんだい?食べ過ぎたのかい?」
「ははは、ちょっと調子に乗ってしまって……」

 おばちゃんに入り口で少し呆れられたけど、笑ってごまかしながら部屋へと帰る。

「駄目だ、もう動けない」

 すぐさまベッドへと倒れ込み、そのまま寝る事にする。
 というより、満腹、疲れ、眠気でもう動きたくない……。
 1日くらい体を拭かなくても大丈夫だよね?明日起きたらすぐに綺麗にするからさ。
 誰かに言い訳のような事考えつつ、そのまま眠りについた。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...