1 / 1,903
横断歩道を渡る時は右見て左見て青信号を確認してから
しおりを挟むごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
…………………………………
…………………………………………………
……暗い場所……。
……後悔と謝罪だけが繰り返される空間……。
……動こうにも、動けず……。
……周りからは暗い影のようなものが這い出て纏わり着いてくる……。
……次第に体は影に埋もれ、腕も足も動かなくなっていく……。
……やがて首まで影のようなものに埋もれてしまう……。
助けを求めるように周りを見回すが、辺りには何もなく、何も見えない。
いや、暗い影だけがそこにあり、唯一見えるものだった。
「……うぅ……」
何とか呻き声のようなものを発する事は出来たが、ただそれだけ。
それに対する何かの反応もなければ、それで動けるようになるものでもない。
「……ぁ」
ふと、どこからか声が聞こえた。
しかしどこからかわからない。
首はもう影に埋まり動かせない。
眼だけを動かすことで周りを見、声の主を探るがそこには何もない空間が見えるだけ。
いや、見えるのではく、ただただ暗く先も見えない空間だけしかわからなかった。
「……ぁぁ……」
また、聞こえた。
助けが期待できるような声ではない。
助けを呼ぶ誰かの声でもない。
ただただ苦しみだけを訴えるような声。
もう、影は顎まで上り口元近くまで来ている。
「……あぁぁぁ」
先程より少しだけはっきりと声が聞こえる。
この声はどこからだろう、何を言おうとしているのだろう。
自分が影に飲み込まれようとしているのにも関わらず、声の主を探し、それが何なのかを確かめようとしていた。
ふと目を下にやると、自分の腰の高さくらいの所にある影が揺れていた。
揺れている影を見ていると、それは少しずつ形をはっきりとさせてくる。
最初は鼻。
次は口。
最後に目が現れ人の顔になる。
それを認識した瞬間、眩暈を覚えるほどの後悔が浮かんでくる。
そこにある人の顔が動く、いや、目はこちらを凝視し口だけを動かしている。
「……あぁぁぁぁぁ」
先程の苦しみの声だ。
「……お……え……せ……だ」
苦しみの声だけでなく、言葉を発する。
「……つ……な……お…………のつ……をつ…………え」
その言葉は途切れ途切れで、はっきりと何かを言っているかはわからない。
だが、分かってしまった。
何を言っているのか分かってしまった。
ツグナエオマエノツミヲツグナエ
あれは恨みの声だ。
犯してしまった罪への贖罪を求める声だ。
……もう、影は目元まで来ている……、
顔の半分以上を覆われてしまい、声を出すどころか呼吸もできない。
だが、不思議と苦しさはなかった。
影に埋もれ始めても、何故か苦しさはなかったのだ。
だが、声に対して何も出来ない。
何も出来ない事に対する後悔。
どうすることもできない。
ただ、声にならない声で、心の中でずっと謝る事を繰り返すだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ついに影は全てを飲み込み、そこにあるのはただ暗い空間だけだった……。
…………………………………
…………………………………………………
「あ……あああああああ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
また、あの夢か……。
「はぁ」
ようやく息が整ったな。
「まったく、昨日シーツを洗ったばかりだってのに、汗だくじゃないか」
替えのシーツにして、これはまた洗うしかないな。
しかし。
「何度同じ夢を見たんだ?」
これが初めての夢じゃない。
昔から何度も見てきた。
まぁ、とはいえもうすでに夢の記憶は曖昧になってきてるんだが。
「嫌な夢だな」
そういう認識でしかなかった。
特に意味のある夢だとも思っていないからなぁ。
ただ……。
「汗で気持ち悪い……」
いつもあの夢を見た後はこうだ。
全身汗だく、気持ち悪いし、洗濯物も増える。
「はぁ…シャワーでも浴びて出るか」
今日も学校かぁ、面倒だ。
時間は、7時半か。
まぁ、サッと浴びれば間に合うだろう。
「ん~、これなら間に合うな」
汗だくで起きた後、学校に向かうのはかなり億劫だなぁ
。
「しゃーないか、これも学生のお仕事ってね」
なんて軽口を一人呟きながらいつもの道を歩く。
学校は家から徒歩20分程度の場所。
いつものように適当に授業を受け、適当にクラスメイト達と馬鹿話をして帰るとしますか。
「今日の晩飯は何にするかなぁ」
とか考えているうちに、校門が見えてきた。
夢のおかげで、まだ少し頭がぼんやりしているので、ぼーっとしながら横断歩道の信号待ちで止まった。
同年代の男女が挨拶や笑い話等をしながら校門へと吸い込まれて行く。
「ちょうど朝のラッシュってとこかな」
遅すぎず、早すぎず、人が一番集まる時間帯についたようだ。
だが、あまりゆっくり見ていられる時間もそろそろ無くなってきた。
「……ん?」
ふと、多くの人が集まっている校門前に違和感があった。
「あれは?」
一人だけ、ポツンと女の子がいるな。
明らかに小さいし、小学生くらいか?
「子供?」
誰かの妹が勝手に着いて来ちまったのかな?
一人でいるから、誰かが連れてきたってわけでもなさそうだけど。
迷子なら保護しなきゃいけないが……。
まぁ、このご時世、多少違和感があるからって女の子に不用意に声をかけたらこっちが危ないか。
「それに学校だし、守衛さんか教師あたりが見つけて何とかなるだろう」
そう結論付け、信号が青になり横断歩道を渡るため少し早めに歩き出す。
少しだけ、時間がギリギリになってきたからな。
横断歩道を渡り、女の子の横を通ろうとした時、何故か、後ろが気になった。
「何だ?」
時間は危ないが、気になってしまったものはしょうがないと後ろを振り向く。
「あれ?」
さっきまで近くにいた女の子が後ろに、こちらに背を向けていた。
家に帰るのかな?
そう思いながらももう少しだけ女の子の方を見ていた。
タッタッタッタ
女の子はそのまま校門とは逆方向に走って行った。
「気を付けて帰れよー」
聞こえないとは思ったが軽くそう声をかけ、校門へ振り返ろうとした。
そろそろ時間が本格的にマズイな。
しかし、振り返ろうとした体の動きが止まる。
「おい!待て!」
女の子が周りも見ず、道路へ走って行くの見て思わず声を出す。
横断歩道へと向かっているが、信号は赤。
ちょっと待て、このままじゃ……!
女の子を止めようとそちらへ走り出す。
ちょうどその時、右側から大きいトラックが突っ込んで来た。
あぁ、あのトラックじゃ運転席から見えねぇだろ!
トラックは速度を落とすことなく、女の子も何故かトラックを見ることなく走って行く。
このままじゃ轢かれる!
そう思ったと同時、いや、思いながらも体を動かす。
「くっそぉぉぉぉ!」
全身の力を振り絞り、女の子のもとへ走る。
「間っに合えぇぇぇ!」
ドンッ!
女の子を走り込んだそのままの勢いで横断歩道の向こう側へと押し出した。
だが。
自分はそのままトラックの前にいる。
トラックは速度を落とさない。
女の子はこちらを振り返り驚いた目でこちらを見ている。
「あぁ、何か、どっかで見たことのあるような光景だなぁ」
突然の出来事に、先の事への実感も何もなくそんな事を呟いていた。
ドガッッッ!キィィィィィィ!
トラックに何かがぶつかる音と、けたたましいブレーキ音が響く。
突き飛ばされた女の子は目の前の光景にただただ驚いた顔をしていた。
その両目から溢れる涙をそのままに……
33
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~
中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る
[ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る
[ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない
17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。
剣と魔法のファンタジーが広がる世界
そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに
そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。
すると世界は新たな顔を覗かせる。
この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。
これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。
なろうとカクヨムでも掲載してまぁす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる