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第2章 似ているあなたの原型は
7話
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次の日の学校は、想像通り大変だった。
理花子や理花子と仲の良いクラスメイトから、なんでサボったのかと質問攻めに合い、司くんからも、
「まさか詩音と一緒にいたわけじゃないよね?」
と執拗に聞かれた。
先生には、司くんがうまく誤魔化してくれたらしい。
理花子のそばで機嫌を取る為に鍛えられた私の演技力と、そんな私に似ている仁井くんの演技力で、どうにか切り抜けることができた。
正直、理花子の疑いを完全に払拭できたかは微妙だったけれど、それ以上追求されることはなかった。
その時に、なんとなく分かった。
理花子は、本当に仁井くんのことが好きなのだ。
どんなわがままも受け入れてくれる仁井くん。
わがまま女王様は、そんな家来を失いたくない。
優しさに気付いてしまったから。
その優しさからもう、離れられない。
きっと、そうだ。
でもそう考えると、私は一体何なのだろうと思う。
理花子に逆らわずに、仲良しごっこしてあげた私。
私の優しさに気付いて、本当の友達になろうとは思わないのだろうか。
私を補欠にせずに、私と親友に・・・
私に優しく接してくれないだろうか。
平等な関係に。
仁井くんと理花子の関係を綺麗に説明すると、わがまま女王様が見つけた、本当の優しさみたいだ。
本当の恋。
そしてそれを、オブラートも何も包まず、そのまま言うと単に、私を見下していて、仁井くんは見下していないというだけなのだ。
理花子は、仁井くんにはどれほどの嘘をついたのだろう。
それとも私に対してとは違って、仁井くんには嘘をつかないのだろうか。
その日の放課後に、ネックレスを返し行った。
高校から三駅離れた場所にあるショッピングモール内の雑貨店を探す。
私は理花子と行って以来一度も行っていなかった。
記憶はかなり鮮明で、店の位置はすぐに分かったが、そこは子供服売り場に変わっていた。
店の人に聞いてみると、一年ほど前に今の店と変わったとのことだった。
私は結局、謝罪することも、ネックレスを返すこともできずに、家に帰ることになる。
仁井くんに慰められた気がしていた罪悪感が、再燃した。
きっと、逃れようとしたのが間違いだったのだ。
それに、罪を許されたかのように、仁井くんの隣で平然としている理花子に腹が立ってしまう。
受け入れる仁井くんに対しても。
昨日の夜の出来事が、夢であったかのように感じられた。
『ネックレス、無事に返したよ。返信不要』
と仁井くんに送ると、
『良かった』
と返事が来た。
ネックレスを川に投げてしまおうかと一瞬思ったけれど、本当に一瞬の発想で、私の部屋のクローゼットにふたたび戻す。
仁井くんに懺悔したという事実だけが、変化だった。
それ以来、私と仁井くんの関わりは他の人がいる輪の中だけで、特別な合図も何もない。
時々、目が合う事はあっても、それは単に共感が二人を繋ぎ、目が合うだけだった。
もちろん、心の中では目が合ったことを嬉しく思っていたけれど、本当にそれだけで止まった。
理花子と別れないと言われたあの時。
本当は、私と彼の流れは止まっていたのだ。
ほぼ寸止めみたいに。
それなのに、私と彼の流れは、抗おうなんて思えない程の勢いで進んでいると思い込んでいたのだ。
止まっていたことにも気付かず、幻の流れを自分の中に見ていただけだった。
それでも、私の一等賞は一等賞のまま、その位置づけを変えることができないまま、トントンとするあの手を見ることができないまま、私達は高校三年になった。
理花子とクラスが離れ、仁井くんとも違うクラスだった。
「沙咲」
「いつの間にか呼び捨てになったね」
「だって、同じクラスだし」
私によく構ってくるのは、司くん。
「いつ映画観に行ってくれるんだよ」
仁井くんと授業をサボったあの日。
最初の、本当の約束は司くんとの映画だったのに。
自ら仁井くんに、新たな約束を取り付けた。
あの日以来、幾度となく司くんに誘われているが、私は誤魔化し続けている。
数回で司くんも諦めると思ったが、なかなか諦めてくれない。
「あ。今度、白瀬ちゃんと行く時に一緒に行く?」
「俺と沙咲と白瀬さん?」
「うん」
クラス替えをして、席が近くになった、学年一の美女白瀬ちゃんと仲良くなった。
お互い話し相手がいなかったのと、あの修学旅行の出来事もきっかけとなり、一緒にいるようになった。
最初に話し掛けてきたのは、白瀬さんだった。
「山村さん。私、白瀬真由といいます」
可愛すぎて、一瞬にして引け目を感じた。
それに、彼女の宿泊部屋に忍び込んだ引け目が大き過ぎた。
「どうも、山村です。あの、修学旅行の時はすみませんでした」
謝罪の言葉以外、白瀬ちゃんと話すことはないと思った。
「そういうつもりで声を掛けたわけではなくて。あの時、一緒の部屋使えばよかったなって今でも後悔してたの。私、仲間外れにされてたから、勝手に山村さんに助けを求めようと思って・・・」
それを聞いた時、もちろん直感ではあるが、白瀬さんがこの言葉を、長い間熟考して、いつか言おうとしていたものだと感じた。
そして、私と同じ気持ちだったのだとショックを受けた。
私を哀れな目で見てなんていなかったのだ。
あの時、もし一緒の部屋に泊まっていたら、仁井くんとの思い出はない。
でも、また別の、良い修学旅行があったかもしれないと思った。
「ありがとう」
私は、そう言いたくなって、ただ、そう言った。
白瀬さんが可愛いからではない。
白瀬さんが良い人だと思ったからだった。
「え?」
「話し掛けてくれて、ありがとう」
「あっ、ううん。こちらこそ、話してくれてありがとう」
私はこの時、一方的な共感の中で、白瀬さんと友達になりたいと願ったのだった。
司は隠そうともせず、不満まみれの表情で私を見ている。
「え、なんで白瀬さんと三人で映画見るの?」
私の提案に納得がいかないようだ。
「白瀬さんとちょうど今度映画行く約束してたから。一緒に来てもいいって言ってたし」
「話が逸脱してるよ、沙咲。まず、沙咲は俺との約束を破ったのに、白瀬さんとは映画の約束してる。そして、二人で行くはずだったのに、なぜか白瀬さんも一緒ってことになってる。おかしくない?」
司くんは別に怒ってはいないように見える。
でも不満いっぱいの表情を保つ。
話し方も、おちゃらけた人気者のクラスメイトといった感じだ。
こういう時、こうやって誰かにかまってもらえる時、私は理花子を意識する。
理花子が私のそばにいてくれたから、こうやって人脈が広がったのだ、と。
ダメなことじゃないのに、なんか嫌な気分だ。
そして、悲しくなる。
「約束破るなんて、酷いよ。せっかく楽しみにしてたのに。もしかして、本当は詩音と一緒にいたの?あの日」
それを言われてしまったのなら、これ以上、どう誤魔化せというのか。
きっと司くんは、私と仁井くんがあの日一緒にいたということに確信を持っているのだろう。
「行くよ・・・」
本当に行かないのなら、これまでの断りには意味があったのに、行ってしまうのなら、断りが焦らしに変わってしまう。
これだけ焦らして結局行くなら、嫌な女という気しかしない。
そもそも、なんで断り続けていたのか自分でも分からなくなっていた。
早速その日の放課後に、司くんと映画を観に行くことになった。
だから、私のクラスに遊びに来た理花子の機嫌がやけに良い。
「やっと司と映画行くんだって?」
こんなに嬉しそうに聞くということはやっぱり、私と司くんにくっついてほしいのだろう。
「行かないと、一生誘われ続けそうで」
「またまた~。本当はデートしたかったんでしょう?」
「そんなことないよ」
三年になり、理花子と話しながら私が気にするのは、いつも白瀬ちゃんのことだ。
中学の時、私には仲良くしたい子がいたのに、理花子がそれを邪魔し、その子が私から離れていった、ということがあった。
だから、中学の時みたいに、彼女のせいで、友達がいなくなるのは嫌だった。
休憩時間には白瀬ちゃんと話したいのに。
白瀬ちゃんは自分の席でスマホを見ていた。
「ねえ、白瀬さんと仲良いの?」
私の視線がバレたのか、そもそも聞くタイミングを計っていたのか、理花子が聞いてくる。
「うん」
本当は隠したいと思った。
白瀬ちゃんと仲の良いことを知られたくない、と。
また邪魔されるんじゃないかと。
「移動教室とかいつも一緒だよね?ねえ、紹介してよ」
中学の時と同じように私はまた、理花子に従うしかないのか。
私を支配下に置き続ける為なのだろうか。
「いいよ」
もちろん断れるわけもなく、白瀬ちゃんの席まで一緒に行った。
「白瀬ちゃん」
「何?」
白瀬ちゃんは、理花子のことをどれほど知っているのだろう。
仁井くんの彼氏で、友達が多くて、私の逆らえない相手であることをきっと知っている。
「理花子が、友達になりたいって」
理花子と白瀬ちゃんが目を合わせる。
「はじめまして。沙咲とは中学からの同級生の理花子です。よろしくね」
「はじめまして。白瀬真由です」
私には分かった。
直感以外の何物でもないが、私には、白瀬ちゃんが理花子を面倒臭がっているように見えたのだ。
良かったのは、そこで予鈴のチャイムが鳴ったこと、それだけ。
「白瀬ちゃん、近くで見るともっと可愛いね。今度、話そうね」
理花子は元気いっぱいに白瀬ちゃんに手を振る。
もはや、私なんか眼中にない。
白瀬ちゃんも手を振り返した。
「なんか、ごめんね」
理花子が教室から出るのを確認してから、私は言った。
すると、白瀬ちゃんは不思議そうにしている。
「なんで謝るの?」
「ただ、なんとなく」
理花子に逆らえない私に、白瀬ちゃんは失望したかもしれない。
意思のない人だと思われたかもしれない。
仲良くしたい子と一緒にいないで、理花子と離れられなかった中学時代と高校二年間。
ようやくクラスが離れ、白瀬ちゃんという、気の合う友達と心置きなく過ごせると思ったのに。
これじゃあ、中学の時のデジャブだ。
ほぼ、デジャブ。
私はまた、友達を失ってしまう。
「なんで謝るの?」
白瀬ちゃんはまた同じ質問をしてきた。
白瀬ちゃんの宿泊部屋に入った、あの劣等感が再び蘇る。
「さっきも言ったけど、なんとなく謝ったの・・・」
仁井くんが理花子のことが嫌いか聞いてきた時のことも思い出した。
ビルの上の屋上展望台だったな。
「山村ちゃん」
白瀬ちゃんの声に呼び戻され、彼女の可愛い瞳を一つの躊躇いもなく見つめてしまった。
そしてその表情はどこか、もどかしさに溢れていて、私は何を言われるのだろうと恐れてしまう。
「何?」
「私さ、一つだけ、はっきり言っていい?」
「うん」
「私、あの子、理花子ちゃんのこと嫌いだよ」
私は感じた。
その言葉も、彼女の中で熟考され、ようやく発せられたものだと。
理花子や理花子と仲の良いクラスメイトから、なんでサボったのかと質問攻めに合い、司くんからも、
「まさか詩音と一緒にいたわけじゃないよね?」
と執拗に聞かれた。
先生には、司くんがうまく誤魔化してくれたらしい。
理花子のそばで機嫌を取る為に鍛えられた私の演技力と、そんな私に似ている仁井くんの演技力で、どうにか切り抜けることができた。
正直、理花子の疑いを完全に払拭できたかは微妙だったけれど、それ以上追求されることはなかった。
その時に、なんとなく分かった。
理花子は、本当に仁井くんのことが好きなのだ。
どんなわがままも受け入れてくれる仁井くん。
わがまま女王様は、そんな家来を失いたくない。
優しさに気付いてしまったから。
その優しさからもう、離れられない。
きっと、そうだ。
でもそう考えると、私は一体何なのだろうと思う。
理花子に逆らわずに、仲良しごっこしてあげた私。
私の優しさに気付いて、本当の友達になろうとは思わないのだろうか。
私を補欠にせずに、私と親友に・・・
私に優しく接してくれないだろうか。
平等な関係に。
仁井くんと理花子の関係を綺麗に説明すると、わがまま女王様が見つけた、本当の優しさみたいだ。
本当の恋。
そしてそれを、オブラートも何も包まず、そのまま言うと単に、私を見下していて、仁井くんは見下していないというだけなのだ。
理花子は、仁井くんにはどれほどの嘘をついたのだろう。
それとも私に対してとは違って、仁井くんには嘘をつかないのだろうか。
その日の放課後に、ネックレスを返し行った。
高校から三駅離れた場所にあるショッピングモール内の雑貨店を探す。
私は理花子と行って以来一度も行っていなかった。
記憶はかなり鮮明で、店の位置はすぐに分かったが、そこは子供服売り場に変わっていた。
店の人に聞いてみると、一年ほど前に今の店と変わったとのことだった。
私は結局、謝罪することも、ネックレスを返すこともできずに、家に帰ることになる。
仁井くんに慰められた気がしていた罪悪感が、再燃した。
きっと、逃れようとしたのが間違いだったのだ。
それに、罪を許されたかのように、仁井くんの隣で平然としている理花子に腹が立ってしまう。
受け入れる仁井くんに対しても。
昨日の夜の出来事が、夢であったかのように感じられた。
『ネックレス、無事に返したよ。返信不要』
と仁井くんに送ると、
『良かった』
と返事が来た。
ネックレスを川に投げてしまおうかと一瞬思ったけれど、本当に一瞬の発想で、私の部屋のクローゼットにふたたび戻す。
仁井くんに懺悔したという事実だけが、変化だった。
それ以来、私と仁井くんの関わりは他の人がいる輪の中だけで、特別な合図も何もない。
時々、目が合う事はあっても、それは単に共感が二人を繋ぎ、目が合うだけだった。
もちろん、心の中では目が合ったことを嬉しく思っていたけれど、本当にそれだけで止まった。
理花子と別れないと言われたあの時。
本当は、私と彼の流れは止まっていたのだ。
ほぼ寸止めみたいに。
それなのに、私と彼の流れは、抗おうなんて思えない程の勢いで進んでいると思い込んでいたのだ。
止まっていたことにも気付かず、幻の流れを自分の中に見ていただけだった。
それでも、私の一等賞は一等賞のまま、その位置づけを変えることができないまま、トントンとするあの手を見ることができないまま、私達は高校三年になった。
理花子とクラスが離れ、仁井くんとも違うクラスだった。
「沙咲」
「いつの間にか呼び捨てになったね」
「だって、同じクラスだし」
私によく構ってくるのは、司くん。
「いつ映画観に行ってくれるんだよ」
仁井くんと授業をサボったあの日。
最初の、本当の約束は司くんとの映画だったのに。
自ら仁井くんに、新たな約束を取り付けた。
あの日以来、幾度となく司くんに誘われているが、私は誤魔化し続けている。
数回で司くんも諦めると思ったが、なかなか諦めてくれない。
「あ。今度、白瀬ちゃんと行く時に一緒に行く?」
「俺と沙咲と白瀬さん?」
「うん」
クラス替えをして、席が近くになった、学年一の美女白瀬ちゃんと仲良くなった。
お互い話し相手がいなかったのと、あの修学旅行の出来事もきっかけとなり、一緒にいるようになった。
最初に話し掛けてきたのは、白瀬さんだった。
「山村さん。私、白瀬真由といいます」
可愛すぎて、一瞬にして引け目を感じた。
それに、彼女の宿泊部屋に忍び込んだ引け目が大き過ぎた。
「どうも、山村です。あの、修学旅行の時はすみませんでした」
謝罪の言葉以外、白瀬ちゃんと話すことはないと思った。
「そういうつもりで声を掛けたわけではなくて。あの時、一緒の部屋使えばよかったなって今でも後悔してたの。私、仲間外れにされてたから、勝手に山村さんに助けを求めようと思って・・・」
それを聞いた時、もちろん直感ではあるが、白瀬さんがこの言葉を、長い間熟考して、いつか言おうとしていたものだと感じた。
そして、私と同じ気持ちだったのだとショックを受けた。
私を哀れな目で見てなんていなかったのだ。
あの時、もし一緒の部屋に泊まっていたら、仁井くんとの思い出はない。
でも、また別の、良い修学旅行があったかもしれないと思った。
「ありがとう」
私は、そう言いたくなって、ただ、そう言った。
白瀬さんが可愛いからではない。
白瀬さんが良い人だと思ったからだった。
「え?」
「話し掛けてくれて、ありがとう」
「あっ、ううん。こちらこそ、話してくれてありがとう」
私はこの時、一方的な共感の中で、白瀬さんと友達になりたいと願ったのだった。
司は隠そうともせず、不満まみれの表情で私を見ている。
「え、なんで白瀬さんと三人で映画見るの?」
私の提案に納得がいかないようだ。
「白瀬さんとちょうど今度映画行く約束してたから。一緒に来てもいいって言ってたし」
「話が逸脱してるよ、沙咲。まず、沙咲は俺との約束を破ったのに、白瀬さんとは映画の約束してる。そして、二人で行くはずだったのに、なぜか白瀬さんも一緒ってことになってる。おかしくない?」
司くんは別に怒ってはいないように見える。
でも不満いっぱいの表情を保つ。
話し方も、おちゃらけた人気者のクラスメイトといった感じだ。
こういう時、こうやって誰かにかまってもらえる時、私は理花子を意識する。
理花子が私のそばにいてくれたから、こうやって人脈が広がったのだ、と。
ダメなことじゃないのに、なんか嫌な気分だ。
そして、悲しくなる。
「約束破るなんて、酷いよ。せっかく楽しみにしてたのに。もしかして、本当は詩音と一緒にいたの?あの日」
それを言われてしまったのなら、これ以上、どう誤魔化せというのか。
きっと司くんは、私と仁井くんがあの日一緒にいたということに確信を持っているのだろう。
「行くよ・・・」
本当に行かないのなら、これまでの断りには意味があったのに、行ってしまうのなら、断りが焦らしに変わってしまう。
これだけ焦らして結局行くなら、嫌な女という気しかしない。
そもそも、なんで断り続けていたのか自分でも分からなくなっていた。
早速その日の放課後に、司くんと映画を観に行くことになった。
だから、私のクラスに遊びに来た理花子の機嫌がやけに良い。
「やっと司と映画行くんだって?」
こんなに嬉しそうに聞くということはやっぱり、私と司くんにくっついてほしいのだろう。
「行かないと、一生誘われ続けそうで」
「またまた~。本当はデートしたかったんでしょう?」
「そんなことないよ」
三年になり、理花子と話しながら私が気にするのは、いつも白瀬ちゃんのことだ。
中学の時、私には仲良くしたい子がいたのに、理花子がそれを邪魔し、その子が私から離れていった、ということがあった。
だから、中学の時みたいに、彼女のせいで、友達がいなくなるのは嫌だった。
休憩時間には白瀬ちゃんと話したいのに。
白瀬ちゃんは自分の席でスマホを見ていた。
「ねえ、白瀬さんと仲良いの?」
私の視線がバレたのか、そもそも聞くタイミングを計っていたのか、理花子が聞いてくる。
「うん」
本当は隠したいと思った。
白瀬ちゃんと仲の良いことを知られたくない、と。
また邪魔されるんじゃないかと。
「移動教室とかいつも一緒だよね?ねえ、紹介してよ」
中学の時と同じように私はまた、理花子に従うしかないのか。
私を支配下に置き続ける為なのだろうか。
「いいよ」
もちろん断れるわけもなく、白瀬ちゃんの席まで一緒に行った。
「白瀬ちゃん」
「何?」
白瀬ちゃんは、理花子のことをどれほど知っているのだろう。
仁井くんの彼氏で、友達が多くて、私の逆らえない相手であることをきっと知っている。
「理花子が、友達になりたいって」
理花子と白瀬ちゃんが目を合わせる。
「はじめまして。沙咲とは中学からの同級生の理花子です。よろしくね」
「はじめまして。白瀬真由です」
私には分かった。
直感以外の何物でもないが、私には、白瀬ちゃんが理花子を面倒臭がっているように見えたのだ。
良かったのは、そこで予鈴のチャイムが鳴ったこと、それだけ。
「白瀬ちゃん、近くで見るともっと可愛いね。今度、話そうね」
理花子は元気いっぱいに白瀬ちゃんに手を振る。
もはや、私なんか眼中にない。
白瀬ちゃんも手を振り返した。
「なんか、ごめんね」
理花子が教室から出るのを確認してから、私は言った。
すると、白瀬ちゃんは不思議そうにしている。
「なんで謝るの?」
「ただ、なんとなく」
理花子に逆らえない私に、白瀬ちゃんは失望したかもしれない。
意思のない人だと思われたかもしれない。
仲良くしたい子と一緒にいないで、理花子と離れられなかった中学時代と高校二年間。
ようやくクラスが離れ、白瀬ちゃんという、気の合う友達と心置きなく過ごせると思ったのに。
これじゃあ、中学の時のデジャブだ。
ほぼ、デジャブ。
私はまた、友達を失ってしまう。
「なんで謝るの?」
白瀬ちゃんはまた同じ質問をしてきた。
白瀬ちゃんの宿泊部屋に入った、あの劣等感が再び蘇る。
「さっきも言ったけど、なんとなく謝ったの・・・」
仁井くんが理花子のことが嫌いか聞いてきた時のことも思い出した。
ビルの上の屋上展望台だったな。
「山村ちゃん」
白瀬ちゃんの声に呼び戻され、彼女の可愛い瞳を一つの躊躇いもなく見つめてしまった。
そしてその表情はどこか、もどかしさに溢れていて、私は何を言われるのだろうと恐れてしまう。
「何?」
「私さ、一つだけ、はっきり言っていい?」
「うん」
「私、あの子、理花子ちゃんのこと嫌いだよ」
私は感じた。
その言葉も、彼女の中で熟考され、ようやく発せられたものだと。
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