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確保!そして、二人
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「明日が伊之助さんの誕生日なら、今日は泊まることにします」
私はもう伊之助さんを好きだという事を隠していなかった。
キャンプ場を出発してすでに1時間ほど経っている。
だいぶ暗くなってきた。
「兄貴、甘いもの好きだから、ケーキ買ったら喜びますよ、お姉さん」
「そうなんですね。見つかったらケーキ買おうかな...」
「絶対見つかりますから。心配しないで下さいね」
「はい。ありがとうございます」
「でも、歌のプレゼントって書いてましたよね。お上手なんですか?」
「上手じゃないです」
「相当親しくないと歌のプレゼントなんてしませんよね?」
「あー事情があって...歌声を知っているというか...」
大和さんのような性格なら、「歌ってくださいよ!」と純粋な想いで言ってきそうだ。
「じゃあ!」
「はい...」
「ここのソフトクリーム食べてから行きませんか?もうすぐ着くんですけど、ダメですか?」
「あー、いいですよ!食べましょう」
歌には興味がないようだ。
ソフトクリームを食べてから、車で向かう事10分。
かなり田舎。
人が見当たらない。
「もうすぐです!ほら、あそこ」
「ん?キャンプ場?」
「そうです。ここしかないです」
「伊之助さんはこの辺りのキャンプ場によく来るんですか?」
「家出すると言えば、ここです」
「家出をよくするんですか?」
「兄貴はああ見えて頑固なところもあるから。まあ、傷つきやすいって事ですかね。あ!兄貴絶対いますよ」
「本当ですか?」
砂利の駐車場に到着。
「あの、黄色いテント。あれ、兄貴のですよ。わざと目立ちたいみたいな色ですよね」
「じゃあ、本当にいるんですね」
「はい。じゃあ、お姉さん行ってきて下さい」
「大和さんは?」
「お邪魔虫はここにいます」
「気を遣わせてしまって...」
「行ってらっしゃい!」
砂利道を進み、草むらまで来た。
車は1台もなかったし、テントも伊之助さんのものしか見当たらない。
少しずつ近づいていく。
あと50歩ほどだろうか。
「僕は逃走~し~た~狼のよ~う~に~駆けて~」
微かに声が聞こえた。
ギターの音も。
聞き覚えのある歌声。
さらに近づいていく。
「このまま~海の上を飛んで~イェ~イェ~」
間違いない。
伊之助さんの声。
もうすぐだ。
「飛んで~そして~ ブ・ラ・ジッル~~~ル~~~」
歌詞の内容につい笑ってしまう。
彼はいつも通りだ。
テントの入り口の方に行く。
声は中から。
入り口を覗く。
声を掛ける。
「あの...」
「うわ~!」
伊之助さんが大きく飛び上がり、テントが揺れる。
「にな絵さん!」
「驚かしてすみません」
「あ~びっくり」
「こんにちは。お久しぶりです」
伊之助さんはテントから出てきて、キャンプ椅子を開いた。
「どうぞ。遠い所までわざわざ。お疲れ様です」
なんだかよそよそしい。
「伊之助さん、なんだか距離が遠くなった気がします」
「そ、そうかな?なんか申し訳なくて...色々と...」
伊之助さんは地面に座った。
草が柔らかくて気持ち良さそうだったので、私も草むらの上に座る。
「汚れちゃいますよ?」
「今日はそんな事気にしません。もう、走り回って服も汗まみれです」
「その節はどうも...すみませんでした...」
「色々聞きたいんですけど...なんで逃げたんですか?」
「悪い事をしましたから。何も言わずにバイトに行かず、そのまま辞めるなんて...」
「魚ですか?」
「え?」
「魚が可哀想でって、和美さんから聞いて...」
「その通りです。はあ、本当にダメ人間です。楽観的に、何も考えずに生きたいのに、どうしてもこの問題だけは僕を逃してくれなくて...鮮魚コーナーになる可能性も十分に考えて、スーパーで働くことにしたんです。乗り越えようと。でも...ダメでした...」
「大変ですね。優し過ぎるんですね」
「違うんです。そんな事言ってもらって嬉しいですけど、僕は自分の気持ちに嘘ついて生きてるダメ人間で...」
「嘘ですか?」
「嘘...です」
「嘘がない人に見えますけど、そりゃあ、人間なら悩みもありますよね。追いかけてしまってすみません。でもどうしても...」
「あれ?」
伊之助さんが急に駐車場の方を見た。
「何ですか?」
私も伊之助さんの視線の先を見る。
「あ!」
大和さんの車が駐車場を出る方向に進んでいる。
「大和さーん!ちょっと!」
私は走り出した。
嫌な予感。
彼のやりそうな事だ。
「大和さーん!」
車の窓が開く。
大和さんが顔を出した。
「お姉さーん!お邪魔虫は失礼しまーす!明日迎えに来ますからね!」
「置いてかないでー!」
「置いていきまーす!」
車はそのまま行ってしまった。
立ち止まる。
振り返ると伊之助さんが目を丸くしてこっちを見ている。
ドキドキした。
私はもう伊之助さんを好きだという事を隠していなかった。
キャンプ場を出発してすでに1時間ほど経っている。
だいぶ暗くなってきた。
「兄貴、甘いもの好きだから、ケーキ買ったら喜びますよ、お姉さん」
「そうなんですね。見つかったらケーキ買おうかな...」
「絶対見つかりますから。心配しないで下さいね」
「はい。ありがとうございます」
「でも、歌のプレゼントって書いてましたよね。お上手なんですか?」
「上手じゃないです」
「相当親しくないと歌のプレゼントなんてしませんよね?」
「あー事情があって...歌声を知っているというか...」
大和さんのような性格なら、「歌ってくださいよ!」と純粋な想いで言ってきそうだ。
「じゃあ!」
「はい...」
「ここのソフトクリーム食べてから行きませんか?もうすぐ着くんですけど、ダメですか?」
「あー、いいですよ!食べましょう」
歌には興味がないようだ。
ソフトクリームを食べてから、車で向かう事10分。
かなり田舎。
人が見当たらない。
「もうすぐです!ほら、あそこ」
「ん?キャンプ場?」
「そうです。ここしかないです」
「伊之助さんはこの辺りのキャンプ場によく来るんですか?」
「家出すると言えば、ここです」
「家出をよくするんですか?」
「兄貴はああ見えて頑固なところもあるから。まあ、傷つきやすいって事ですかね。あ!兄貴絶対いますよ」
「本当ですか?」
砂利の駐車場に到着。
「あの、黄色いテント。あれ、兄貴のですよ。わざと目立ちたいみたいな色ですよね」
「じゃあ、本当にいるんですね」
「はい。じゃあ、お姉さん行ってきて下さい」
「大和さんは?」
「お邪魔虫はここにいます」
「気を遣わせてしまって...」
「行ってらっしゃい!」
砂利道を進み、草むらまで来た。
車は1台もなかったし、テントも伊之助さんのものしか見当たらない。
少しずつ近づいていく。
あと50歩ほどだろうか。
「僕は逃走~し~た~狼のよ~う~に~駆けて~」
微かに声が聞こえた。
ギターの音も。
聞き覚えのある歌声。
さらに近づいていく。
「このまま~海の上を飛んで~イェ~イェ~」
間違いない。
伊之助さんの声。
もうすぐだ。
「飛んで~そして~ ブ・ラ・ジッル~~~ル~~~」
歌詞の内容につい笑ってしまう。
彼はいつも通りだ。
テントの入り口の方に行く。
声は中から。
入り口を覗く。
声を掛ける。
「あの...」
「うわ~!」
伊之助さんが大きく飛び上がり、テントが揺れる。
「にな絵さん!」
「驚かしてすみません」
「あ~びっくり」
「こんにちは。お久しぶりです」
伊之助さんはテントから出てきて、キャンプ椅子を開いた。
「どうぞ。遠い所までわざわざ。お疲れ様です」
なんだかよそよそしい。
「伊之助さん、なんだか距離が遠くなった気がします」
「そ、そうかな?なんか申し訳なくて...色々と...」
伊之助さんは地面に座った。
草が柔らかくて気持ち良さそうだったので、私も草むらの上に座る。
「汚れちゃいますよ?」
「今日はそんな事気にしません。もう、走り回って服も汗まみれです」
「その節はどうも...すみませんでした...」
「色々聞きたいんですけど...なんで逃げたんですか?」
「悪い事をしましたから。何も言わずにバイトに行かず、そのまま辞めるなんて...」
「魚ですか?」
「え?」
「魚が可哀想でって、和美さんから聞いて...」
「その通りです。はあ、本当にダメ人間です。楽観的に、何も考えずに生きたいのに、どうしてもこの問題だけは僕を逃してくれなくて...鮮魚コーナーになる可能性も十分に考えて、スーパーで働くことにしたんです。乗り越えようと。でも...ダメでした...」
「大変ですね。優し過ぎるんですね」
「違うんです。そんな事言ってもらって嬉しいですけど、僕は自分の気持ちに嘘ついて生きてるダメ人間で...」
「嘘ですか?」
「嘘...です」
「嘘がない人に見えますけど、そりゃあ、人間なら悩みもありますよね。追いかけてしまってすみません。でもどうしても...」
「あれ?」
伊之助さんが急に駐車場の方を見た。
「何ですか?」
私も伊之助さんの視線の先を見る。
「あ!」
大和さんの車が駐車場を出る方向に進んでいる。
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私は走り出した。
嫌な予感。
彼のやりそうな事だ。
「大和さーん!」
車の窓が開く。
大和さんが顔を出した。
「お姉さーん!お邪魔虫は失礼しまーす!明日迎えに来ますからね!」
「置いてかないでー!」
「置いていきまーす!」
車はそのまま行ってしまった。
立ち止まる。
振り返ると伊之助さんが目を丸くしてこっちを見ている。
ドキドキした。
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