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Episode21
会いたかった
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デートの日。
公園には沢山の子供がいた。
遊具で遊んでいて、その近くのベンチでお母さん達が楽しそうにおしゃべりしていた。
パッと見た所、カップルは1組もいなかった。
「人気のデートスポットって言ってませんでしたか?」
「言ったんですけど...じいちゃんが昔言ってた事だったから...もうデートスポットではないのかもしれません。ごめんなさい」
野島さんは軽く頭を下げる。
「私はカップルだらけというよりは、こういった公園の方が好きです」
と言い、
「あの奥のベンチに座りませんか?」
木に囲まれたベンチを指差した。
二人肩を並べ座る。
自然と以前より二人の距離感は近くなっていた。
「そうだ。僕が写真を始めた頃のものを持ってきたんです」
野島さんはカバンからアルバムを出した。
野島さんがアルバムをめくりながら写真について話してくれた。
二人の距離はさっきよりももう少し近くなる。
「これはじいちゃんの手ですね。最初にシャッターを切ったものです。少しブレてるでしょ?あと、これは僕の実家の部屋から見える電柱ですね。窓の外にいつもあるものを写真にするだけで、何だか特別感が出て、凄くお気に入りでした」
一つ一つ思い出を語っていく。
「良いですね。日常の中の特別」
「これは弟ですね。学校から帰ってくると、近所の公園でスケートボードをしてました。ジャンプの瞬間が撮れた時は本当に嬉しかった」
野島さんの事を知っていくのが楽しくて嬉しかった。
知らないままでいいなんて思えなかった。
勇気が出ないからと、想いを伝えずにいるなんて考えられなかった。
今がこんなに愛しい。
伝えられて良かった。
「依子さん?大丈夫ですか?僕ちょっと話しすぎましたね。一枚一枚話してたら日が暮れちゃいますね」
「いいえ。話してほしいです。嬉しいんです」
私は
「この写真は?」
と次の話を待った。
アルバムの最後の方。
下の方を向いた女性がベンチに座っている写真があった。
「これはいつもの港の公園です。写真部に入りたての時で、コンクールの為に1人で公園に行ったんです」
嘘かと思った。
でもそれは現実だった。
そこに写っているのは、紛れもなく母だった。
私の大好きな母だった。
わっと輝く笑顔の母と大きなお腹。
写真の日付を見ると、私が生まれる二週間前のものだった。
「その写真。その時僕、ぼーっとしていて、ペンキ塗りたてのベンチに座っちゃったんです。映画みたいだよね。もう少し分かりやすいように、テープで周りを囲ってくれてたら良かったのに...それで困ってたらその女性と旦那さんが声を掛けてくれて。旦那さんは僕のお尻まで拭いてくれて」
よく見ると写真の母の右手は誰かに握られていて、その手の薬指には指輪があった。
「僕が撮影をお願いしたら旦那さんは、恥ずかしいから妻と娘を撮ってくれませんか?って。奥さんが一緒に写ろうよって言ったから、最終的に手だけって事になったんです」
私はその写真をしばらく見つめていた。
家族写真。
初めて見た父の手。
生まれる前の私を見つめる母の目。
私は近くに人がいない事を確認し、稀にある怖いもの知らずで、野島さんの頬にキスをした。
距離が近づく。
心の距離も。
野島さんに父と母の事を聞こう。
もっと話を聞きたいし、もっと野島さんに話したい事がある。
目を丸くした野島さんを見て、私は笑った。
あの日見た、彼の涙の跡はもう、消えただろうか。
公園には沢山の子供がいた。
遊具で遊んでいて、その近くのベンチでお母さん達が楽しそうにおしゃべりしていた。
パッと見た所、カップルは1組もいなかった。
「人気のデートスポットって言ってませんでしたか?」
「言ったんですけど...じいちゃんが昔言ってた事だったから...もうデートスポットではないのかもしれません。ごめんなさい」
野島さんは軽く頭を下げる。
「私はカップルだらけというよりは、こういった公園の方が好きです」
と言い、
「あの奥のベンチに座りませんか?」
木に囲まれたベンチを指差した。
二人肩を並べ座る。
自然と以前より二人の距離感は近くなっていた。
「そうだ。僕が写真を始めた頃のものを持ってきたんです」
野島さんはカバンからアルバムを出した。
野島さんがアルバムをめくりながら写真について話してくれた。
二人の距離はさっきよりももう少し近くなる。
「これはじいちゃんの手ですね。最初にシャッターを切ったものです。少しブレてるでしょ?あと、これは僕の実家の部屋から見える電柱ですね。窓の外にいつもあるものを写真にするだけで、何だか特別感が出て、凄くお気に入りでした」
一つ一つ思い出を語っていく。
「良いですね。日常の中の特別」
「これは弟ですね。学校から帰ってくると、近所の公園でスケートボードをしてました。ジャンプの瞬間が撮れた時は本当に嬉しかった」
野島さんの事を知っていくのが楽しくて嬉しかった。
知らないままでいいなんて思えなかった。
勇気が出ないからと、想いを伝えずにいるなんて考えられなかった。
今がこんなに愛しい。
伝えられて良かった。
「依子さん?大丈夫ですか?僕ちょっと話しすぎましたね。一枚一枚話してたら日が暮れちゃいますね」
「いいえ。話してほしいです。嬉しいんです」
私は
「この写真は?」
と次の話を待った。
アルバムの最後の方。
下の方を向いた女性がベンチに座っている写真があった。
「これはいつもの港の公園です。写真部に入りたての時で、コンクールの為に1人で公園に行ったんです」
嘘かと思った。
でもそれは現実だった。
そこに写っているのは、紛れもなく母だった。
私の大好きな母だった。
わっと輝く笑顔の母と大きなお腹。
写真の日付を見ると、私が生まれる二週間前のものだった。
「その写真。その時僕、ぼーっとしていて、ペンキ塗りたてのベンチに座っちゃったんです。映画みたいだよね。もう少し分かりやすいように、テープで周りを囲ってくれてたら良かったのに...それで困ってたらその女性と旦那さんが声を掛けてくれて。旦那さんは僕のお尻まで拭いてくれて」
よく見ると写真の母の右手は誰かに握られていて、その手の薬指には指輪があった。
「僕が撮影をお願いしたら旦那さんは、恥ずかしいから妻と娘を撮ってくれませんか?って。奥さんが一緒に写ろうよって言ったから、最終的に手だけって事になったんです」
私はその写真をしばらく見つめていた。
家族写真。
初めて見た父の手。
生まれる前の私を見つめる母の目。
私は近くに人がいない事を確認し、稀にある怖いもの知らずで、野島さんの頬にキスをした。
距離が近づく。
心の距離も。
野島さんに父と母の事を聞こう。
もっと話を聞きたいし、もっと野島さんに話したい事がある。
目を丸くした野島さんを見て、私は笑った。
あの日見た、彼の涙の跡はもう、消えただろうか。
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