温度

さいこ

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保険

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 店を出ると誉さんはしっかり戸締りをした
 
 そのまま地上へあがり、そのビルの通路へ入っていく
 奥にあるエレベーターに乗り3Fで降りた
 
 一番手前のドアの鍵を開ける
 
 「ここ、誉さんの部屋」

 理人がそう言った


 家主、理人に続き私も部屋に上がる

 「お邪魔します…」

 わぁ…
 玄関からちょっとした廊下を抜けると、ここも広いワンルームのような造りだった
  
 ブルックリンスタイルの男子の部屋
 意外とグリーンや物が多く、ごちゃごちゃとしている…
 マスターは何もない無機質な空間に生息していそう、という私の想像は崩れた

 「座ってて」

 誉さんに言われ、ソファに座る

 
 キッチンから酒のボトルやグラスを持ってきた誉さん
 やっと自分も座ると

 「さぁ、じゃあ聞かせてもらおうか…」

 と、グラスにお酒を注いだ
 私は先ほどいただいた炭酸水と「冷蔵庫に入ってるソフトドリンクを適当に飲んで」と言われた


 理人は、このところの私とのことを誉さんに話す
 本当に理人にとっては誉さんが色々話せる友人なんだ
  
 事業主同士ということ、さらに気が合うというのもあるだろうが
 理人24歳、誉さん39歳という友人とするにはなんとも不思議な並びである

 
 「慶ちゃんさぁ、赤ちゃんできたって、あの日大変だったんだから」

 と私に話が振られ、一瞬緊張する

 「…え?誉さんに報告でも行った?」

 私はオフのマスターを「マスター」と呼ばないことに神経を使う


 「もう電話でずーーーっと、やったやったって騒いで…」

 そうだったのか、私が寝た後だろうか?マスターは夜型だろうから

 「…でさ、慶さんにプロポーズしてって言われた!って言うからさ」

 それがプロポーズじゃねぇ?って言ったんだけど、と言う誉さん

 「え?」


 私にプロポーズしろ=結婚しろ=プロポーズ…
 
 なるほど?そう言われるまで気が付かなかったけど、先に私がプロポーズをした形になってるってこと?

 「だ~か~ら、今日の俺のがプロポーズでいいでしょ!」
 
 理人はそう言って左手のリングを眺めた


 
 「今日だってね、わざわざ俺に見届けてくれ~って言い出すし!2人でやれって言ったんだけど聞かなくてさぁ…」
 
 そうだ、理人は甘えん坊なんだった
 きっとお兄ちゃんみたいな誉さんを信頼して甘えているんだ
 
 「誉さん、これからも理人の面倒見てね?」

 「まぁ~…でも子育てのことはパスね~、なんもワカラン」

 そう言って誉さんはベランダに出て行った
  

 「慶さん、誉さんおもろいでしょ」

 と言う理人
 おもろいっていうかギャップで風邪ひきそうだわ 
 もう、オフのマスターは完全に別人だもの…

 「俺ね、誉さんみたいにかっこいい男になりたいんだぁ~」
 
 そうねぇ…
 
 私は「オフは違う」ということを今見せられたばかりで、理人が誉さんのどこに惚れているのかまで理解は及ばなかったけど
 それでもなんとなく、誉さんのかっこ良さは分かった気がする


 ベランダでの一服から戻った誉さんが
 
 「じゃあ…」

 と、自分の起きる時間~寝る時間までのスケジュールと連絡先を教えてくれた

 「ほら、理人が心配するから」

 という理由のようだった
 理人、自分が不在のときの保険にマスターを使うのか…
 
 私が気まずいわ!!!


 「まぁ、店なんかは休みに出来るし連絡ちょうだいね」
 
 マスターもマスターだよ
 それで生計を立ててる人に、わざわざ仕事を休んでもらうような連絡が出来る自信は無いよ、私には

 …夜なら百海や優も近くにいるし、もし体調が安定しなければ母に来てもらうとか、私なりにマスターを召喚しないでいい手も考えておかねば…


 「あ、そうそう、喧嘩して顔も見たくないときにはうちに逃げておいでね…理人追っ払ってあげるから♡」

 と付け加える誉さん

 「やめてって~!…ちゃんと2人で話すから平気だって!ねっ?慶さん」

 「…うん、多分…」

 「ちょっとぉ!!」

 なんだかんだ言ってこの2人は仲良しなのだ


 
 そうしてお礼を言い、誉さんの部屋を後にした

  





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