温度

さいこ

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体調不良

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 モデルさんたちの間に置いてきた友樹くんが、こちらへ戻ってきた

 「モデルの子たちと仲良くなれた?」

 と私が声をかけると

 「はい、とりま連絡先交換しました!」

 とのこと
 さすが今どきの子、なにも心配いらないんだから

 続いて理人が目を光らせる先は…
 慶さん待っててねと言われ留守番する私
 
 理人は大人の居るところへ友樹くんを連れて行ったようだった
 と、私が理人たちを目で追っていたところ



 「…あれぇ?どこかのモデルさんかな?」

 と、空いていた私の隣に1人の男性が座った
 おそらく私より少し上の年齢だろうか、涼しげな顔立ちで清潔感のある人だった

 バーテンからお酒のグラスを受け取ると

 「少しお話しましょうよ」

 と言った
 

 「あの、私はこの業界の人間では無いので…有意義なお話は…」

 と部外者であることを伝えた

 「へぇ、そうなんだ…じゃあなにしに来てるの?男漁り?」

 この人…綺麗な顔してとんでもねぇこと言うんだな?
 初対面の女性に言っていいことじゃないぞ!

 …とはいっても別にそう腹が立ったわけでも無い
 きっとそういう業界ジョーク的なものなのだろう

 「そうですね…今日のお相手は捕まえました」
  
 顔色を変えずにしれっとそう返した 
 そう、理人が言ったように堂々としていればいいのだ

 
 男性は意外そうといった顔で

 「そうなの?今日はどんな男のお相手を…?」

 と、下世話な聞き方をする

 「あなたより若くていい男です…」

 そう言ったところに理人と友樹くんが戻ってきた

 
 私は席を立って、理人に身体を寄せて抱きつくと

 「ナイスタイミング!嫌なやつに絡まれてたとこー!」

 と耳元で伝える
 理人は顔色も変えずに男から見えるように私の首筋にキスをして

 「…なぁに?あの人、いい年して恥ずかしいよって言ってあげなよ…」

 と、ギリ男に聞こえるくらいのトーンで言った
 見事に嫌味な子を演じる理人

    「萎えるからあっち行こ」

    と、男の前から去ろうとした時



    「へぇ…真理子さんのジャケット着てるの?それ?」

    と言う男、彼はお母様のお仕立てを見て分かるんだ、すご…!
    私はちょっと感動した、人間性は別としてここに呼ばれる理由があるんだろうと思った

    「…真理子が俺に仕立てたジャケットだよ」

    そう言い残して、今度こそ男の前から立ち去った


    ふぅ助かったと場所を移動すると、理人が

    「ナンパされてたの?」

    と面白くなさそうに言った
    その顔が可愛かった

    私は、部外者だと分かった途端イヤミを言われただけだと伝えた
    理人が「パーティーは嫌な奴が集まる」と言った意味が少し理解出来た


    それまで黙っていた友樹くんが

    「ちょっとお2人とも…俺が緊張しましたよ」

    と言った
    確かに急に目の前でチュッチュし始めたら何事かと思うよね、すまなかった!

    そういえば友樹くんはどこに顔を売ってきたの?と聞いてみる

    「あぁ、さっきのはアパレル系のイベント企画運営の人たちのとこ!使ってもらえることもあるから一応ね~」

    という理人
    本当に抜かりないな、タレントのマネージメントでもやっていけそうじゃん…


    「慶さーん!」

    と、泉さんがやって来て「1度お直ししませんか?」と声を掛けてくれたので、少し休憩してくることにした

    「知らない人ばかりで気疲れしますよね?」

    と私を気にかけてくれる、本当に優しい人だなぁ  
    
    泉さんは、今回久しぶりのメイク仲間と会えて近況報告が出来たから嬉しいと言っていた


    そうだ、私がドレスをお返しするまで帰れないんですよね?と確認すると

    「いえ?それはもう慶さんに着て帰ってもらって、って聞いてます…私はお支度だけさせて頂いて…」

    へ?こんな高級ドレスなんて私預けられても管理し切れませんけども??
    あ、じゃあアクセサリーは??

    「…いやぁ、お支度しろとしか言われてないので」

    これはお母様に確認したほうが確実そうだ…

    
    とりあえずあの凄い会場を抜け出して来たので、煙草を吸ってから戻ろうと煙草に火をつけた
    
    いつも通りに吸い込むとなんだか胸がムカムカしてすぐに煙草の火を消した
    緊張でなにも食べていなかったので、その影響もあるのかと思っていると

    急に視界がくらくらしてその場にしゃがみ込んでしまった
    そのまま壁に寄りかかって深呼吸を繰り返す


    私が戻らないので泉さんが様子を見に来てくれた

    「…ええっ!大丈夫ですか?!」

    「ごめんなさい、ちょっと具合が悪くて…」

    泉さんは、理人さんを呼んできます!と走って出ていってしまった



    私はゆっくり身体を動かして控室の中に戻り、ブランケットを広げてその上に横になった
    目を瞑って深呼吸を続ける…どうにかこの気持ち悪さが落ち着いてくれればと祈る

    そうしていると、ドンッ!と勢いよくドアが開いて理人が入ってきた

    「…慶さん、どこか気持ち悪い?」

    私の靴を脱がせブランケットをかけて手を握ってくれた

    「手も足も冷たいよ、慶さん貧血とかある?」

    「…ないけど、少しこのままで居て…」

    
     理人の声を聞いて、温度を近くに感じているとそれだけで安心する
     こういう大事な日に体調不良で迷惑をかけるなんて…悲しすぎて泣きそうだ

    理人はスマホを出して

   「増田さん、理人です…ちょっと慶さんが体調不良で…うん、先に連れて帰るねって伝えといて貰えるとありがたいです…」

    はい、よろしく~!と、おそらくお母様のスタッフの方に連絡を入れてくれたのだと思う  
 

    泉さんが車を出しましょうか?と申し出てくれて、理人と私は帰ることになった

     泉さんと瀧さんが私たちの荷物を纏めてくれて、部屋の玄関先まで付き添いもしてくれた

    「ご迷惑おかけしてすいません…」

    私がそう言うと、瀧さんは

    「迷惑なんかじゃないよ、ゆっくり休みなね」

    と優しい言葉を残して帰って行った
    


    理人は寝室で、私のドレスを脱がせて部屋着に着替えさせて、それから暖かい紅茶を入れてきてくれた

    そして最後にやっと理人も着替えた

    「せっかくの日に…ごめん…」

    見慣れた部屋に戻って気が緩んだら泣けてきた


    理人はそっと私の隣に来て

    「泣かないで慶さん…俺もほんとに怖かった…」

    と、私のカップを取り上げサイドテーブルに置くと、私がこのところ度々体調不良があるのは、イベントに関する緊張だけじゃないんじゃないかと指摘した

    …そう言われれば、今までこんなに胸がムカムカしたり、胃の辺りが痛くなったりしたことなんて無かったと思う


    「明日、一緒に病院に行こう…?」

    もしかしたら悪いものが発見されてしまう可能性もあると思うと少し怖かったが、そんなことより今は理人を安心させたかった

    
        
    
   

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