温度

さいこ

文字の大きさ
上 下
55 / 76

憂慮

しおりを挟む





    私は、この数時間の情報量の多さに脳がショートしそうになっていたので、グラスの片付けで手を動かしていた


    「…慶さんもお疲れでしょう?」

    片付けなんて私がやればすぐですよ、とマスターが気を使ってくれた
    
    理人はテーブルを拭いていたが、その後洗い物をしようとしてマスターに断られていた

    「私の大事なグラスなんですから、あなたに任せられません」   

    マスターは真顔でそう言った
    でもそれはそう、彼がバイトを使わない理由も考えれば、マスターは自分で管理したいタイプなのだと思う

    「…ほかに言い方あるでしょーよ!慶さんにだけ優しくしてさぁ!」

    この2人のやり取りを見るのは面白い

    あとはマスターがやるからと私たちは帰された



    本当にマスターの店がお向かいで助かる
    ヨロヨロになっていても、5分で部屋に帰れるんだから

    「慶さんどうだった?あの人たち」

    「うん、いい人達だったね」

    そうでしょう!と、理人は自分が好きで付き合っている面々を認めてもらえて満足そうだった

    私も理人の周りにいる人間がどんな人たちなのかを実際に見られて良かった
    
    ただ、私の不安の種は残ったままだ

    すでに関係のある仲間を集めてもらったのだから、まぁ考えればそうだけども
    男性にも女性にも、理人は普通に接していた…


    「理人、私ね…」

    これはパーティー前にちゃんと話しておいたほうがお互いのためなんじゃないかと懺悔しようかと思った

    「いいよ、慶さん…」

    理人は私の言葉を遮った

    「俺がさ、ちゃんと慶さんを不安にさせないようにするね」

    …えーと?

   それは私が漠然とどこか不安そうにしているから、ということ??
 どこまで分かっていての発言なのか、私が分からない


    「私ね…理人が離れるのが怖いの…」


    「…なんて?」


    …私がそこに不安を感じているということまではお察しでない…?

    じゃあ逆になんだと思ったの??

    
    「俺はさぁ…」と理人が言うには

    パーティーに女性モデルも来るかもしれない、という流れから「仲間にも女性がいるだろ」と私が言い始めたので

    私から見えないところでの浮気とか女遊びを疑われているのかと思ったそうだ

    それで、あの集まりの場ではパートナーが居ると分かっている女性には、私に聞かせるようにそのお相手の話を振っていたと言う
    
    なかなか知恵を絞ったね、あなた…
    

    「だからね、そんなしょーもないことしないよ!って、女という生き物が好きなんじゃなくて、慶さんが好きなんだよって…俺は態度で示さないといけないと思ったから…」

    正直、こうして言われのない女遊びを疑われたと思った理人が、私のために色々と考えてくれた事が嬉しかった反面、情けなかった


    いつも真っ直ぐに私に向けられる理人の気持ちを知っていながら信じきれないでいる自分が情けない

    というか、モデル登場くらいで「理人が居なくなるかも」と揺さぶられてしまう私のメンタル…それが一番の問題だと気がついた


    「理人ごめん、それは疑ってなかった」

    「はぁ~…まぁ違ったなら良かった」

    ひとまず浮気疑惑でないことは先に伝えた

    そのうえで、私はどこか自信が持てず、いい女の出現に理人が持ってかれるんじゃないかという不安が込み上げてきたこと
    また、理人と一緒に居る今に幸せを感じているために、これを失うことが怖いという気持ちが生じているということを伝えた


    「だからね、理人は悪くなくて私が過敏になってるだけだから…」

    本当に私ってやつは拗らせる天才か?
    最初から素直にこうして話していれば、理人も変な浮気疑惑にたどり着くことも無かったというのに

    「…ねぇそれさぁ、やっぱ俺が悪いよ」

    「あ、いやほんとにそういうのじゃな…」

    「俺が見てるのは慶さんだけだって分からせないといけないね…?」

    「…へ?…それはなんか違…くない?」

    私は変なボタンを押してしまったのかもしれないと焦った


    「俺がちゃんと慶さんだけを見てるよって安心させたい…」

   優しい声でそう言う理人に抱きしめられた

   こうしているだけで
 ぐちゃぐちゃと考えていたものがスっと落ち着くんだから不思議だ
   私を安心させてくれるのは理人しかいない…

    私がなにかに怖がる度に理人はこうしてくれるんだろうな、という安心感


    「理人…ありが…うぅっ」

    気が緩んだとたん、吐き気がやってきた

    「ちょっ!…トイレトイレ!」

    理人は私を支えて廊下に出る


    緊張で自覚のないままもの凄い飲んでいる時がたまにあるけど、今日がそれだったみたいだ

    初対面の人のというよりも、理人に対してのイヤな緊張でそうだったかもしれないと思い当たる

   
    「もう~!なんでこんなんなるまで飲んだの~」

     私の背中をさすってくれる理人 


    ごめんね理人
    これからも頼むね…

    

    
    


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】定時過ぎたら下克上!〜イケメン新入社員はバリキャリ女子を溺愛したい〜

染野
恋愛
化粧品メーカーの企画営業職として働く中里明希のもとに、ある日アシスタントとして新入社員の立岡純がやってきた。やる気と元気は充分、しかし天然で空回り気味の彼に不安を覚える明希だったが、だんだんと成長していく純を好ましく思うようになり……? 純度100パーセントだと思っていた後輩男子に、定時過ぎたら形勢逆転される話。

【R18】年下ワンコくんによる調教記録

サラダ菜
恋愛
【年下腹黒ワンコくん×年上鬼上司】 28歳という若さで副部長の肩書きを持つ小笠原環(おがさわらたまき)は、仕事はできるが鋭い目つきと容赦ない発言で周りから恐れられていた。そんな彼女に無謀にも近づいたのは、コミュ力MAXイケメン新入社員の犬飼日向(いぬかいひなた)。 環をお昼に誘い周りから英雄視される犬飼だが、彼でさえ『鬼の副部長』を好感度を上げることは難しく、逆に嫌われてしまう。 ある日、職場の飲み会でお酒を飲む環を目撃し悪知恵が働いた犬飼は――― ※R18シーンには※マークをつけています。前半エロエロ後半じれじれ。 ※最終的にはハッピーエンドですが女の子が可哀想な場面も多々あるため、なんでもOKの方のみご覧ください。 ※表紙は那由多ふ可思議様に描いていただきました。

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。

【女性向けR18】性なる教師と溺れる

タチバナ
恋愛
教師が性に溺れる物語。 恋愛要素やエロに至るまでの話多めの女性向け官能小説です。 教師がやらしいことをしても罪に問われづらい世界線の話です。 オムニバス形式になると思います。 全て未発表作品です。 エロのお供になりますと幸いです。 しばらく学校に出入りしていないので学校の設定はでたらめです。 完全架空の学校と先生をどうぞ温かく見守りくださいませ。 完全に趣味&自己満小説です。←重要です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚姻届の罠に落ちたら【完結保障・毎日投稿】

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
年下の彼は有無を言わさず強引に追い詰めてきて―― 中途採用で就社した『杏子(きょうこ)』の前に突如現れた海外帰りの営業職。 そのうちの一人は、高校まで杏子をいじめていた年下の幼馴染だった。 幼馴染の『晴(はる)』は過去に書いた婚姻届をちらつかせ 彼氏ができたら破棄するが、そうじゃなきゃ俺のものになれと迫ってきて……。 恋愛下手な地味女子×ぐいぐいせまってくる幼馴染 オフィスで繰り広げられる 溺愛系じれじれこじらせラブコメ。 内容が無理な人はそっと閉じてネガティヴコメントは控えてください、お願いしますm(_ _)m ◆レーティングマークは念のためです。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想執筆:2020年、改稿投稿:2024年

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

処理中です...