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柏木家
しおりを挟む私は久々に電車の旅をしている
と言っても、隣の県まで30分の旅である
理人からの連絡には出ないと決めた
今日は私1人だ…
子供の頃から過ごした、見慣れた地元の駅に着く
古い建物が綺麗なビルに生まれ変わった以外何も変わらない
全席喫煙可の喫茶店はまだやっているだろうか
ひとまず駅ビルの中で下着や服を買った
私の好きなタピオカミルクティーを飲みながら、駅前の喫煙スペースで煙草休憩を取る…
理人、今頃泣いてるかなぁ…
って!
やめろやめろ、あんな馬鹿力のことは放っとけばいいんだ!!だから部屋を出てきたんじゃないか
母にメッセージ入れよう
「突然だけど今日行きます、家にいる?」
優が家を出てしまって、父と母の2人で居るんだもんね…寂しくなっちゃっただろうな~
家に向かうタクシーの中で母からの返信あり
「パパ、インフル中」と…
また凄いタイミングでの帰省になっちゃったなぁ~
「ただいまぁ」
とりあえずリビングにあがる
父は上の寝室に寝かされてるのかな?1階は非常に静かだった
私はドリップ珈琲をいれて、リビングの窓を開けウッドデッキに出た
キッチンに置いてあった使い捨てのプラコップに水を入れ灰皿に拝借した
このウッドデッキってこんなに狭かったっけ?
子供の頃は優とここでプールを出して遊んだよなぁ…と昔を思い出した
すると、廊下からバタバタと物音がした
「慶~、ごめんねぇ、ちょっと家のことしてて…」
そう言う母の声に安心する
「いいよ、ゆっくりやって~」
…父と2人になっても母にはやることが多いみたいだ
私の母は4人姉妹の末っ子で、天然というか世間知らずというか、どこか抜けている
子供の頃は上のお姉さまたちが身の周りの世話をしてくれて育ったそうだ
就活では、友人が受けるというので老舗百貨店の面接に一緒に参加、見事に通過した
紳士雑貨の売り場を担当しているときに客として来ていた父と知り合ったと聞いた
…どんな恋愛をしたのだろう
その後は結婚して子供を2人も儲けた…しかも一姫二太郎だ
あの、どこか抜けている母が赤ちゃんを育てられたんだから不思議でしょうがない…
「まだ煙草やめないのぉ?」
用事が済んだのか、母はリビングにやってくるなり禁煙のゴリ押しを始めた
私はもう気にもならない
「…パパ、上で寝てるの?」
関係ない話をする
「違うよ、そっちで寝てる…」
と、母がリビングの隣を指した
隣の部屋はゲストルームに使っていたと記憶していたが…
「だぁって、私まで罹るわけにいかないもの~!」
と言う母
…なるほど、2階の寝室から追い出されてるわけね
パパの顔でも見て来るかぁ、と思ったところで
私のバッグに入っていたスマホが着信を知らせた
確認すると「理人」だった…
私は何事も無かったかのようにメッセージを開き
「私はもう帰らないので部屋へはご自由にお帰りください」と送信した
そのまま父の様子を伺いに、隣の部屋へ行く
「…お邪魔しま~す(小声)」
静かにドアを開け、中の様子を見てみると、父は椅子に座って読書をしていた
「…顔出すなんて珍しいじゃん」
「えぇ?」
いや、インフルなんて言うから横になって高熱でウンウン言ってるのかと思ったじゃん…
「もう元気だよ…ママはまだ隔離するって言ってるけど」
「…そっかぁ、元気そうで良かった」
父は読書の虫である
私にはどんな書籍でも買い与えた父、おかげで読み物の面白さを知った
「おい、いい匂いがするなぁ~」
と言う父、私がさっき煙草を吸ったからだ
この人も喫煙者なのであった
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