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さいこ

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BAR 誉

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 【社交場】
人とのつきあいを目的とした集まりの場。
また、歓談などを行う場所や施設。

 お酒を嗜むバーというのはまさに大人の社交場のひとつではないか
マスターの店にもそうして集まりお喋りを楽しむ大人の常連さん方がいる


 いつもご夫婦でお酒を楽しみにいらっしゃる星野さん
 自分はゲイだと悩んでいるアキちゃん
 アイドルオタクでイベントに飛び回っているヤエコちゃん、など…
 
 中でも私が特に好きなのが
おそらく自分の親世代より上であろうさかえさんという紳士である 
 
 彼は自分のルールに頑固な面もあり、私世代の話を聞くのが好きという柔軟な面もあり、共通点としては互いに読書をするというところ
 いつも作品のタイトルをお題にして、互いの感想や好きな・嫌いなところ、著者についてなど年齢も性別も超えて語り合うのが最高に楽しいウィンウィンな関係だ
 
 落ち着いたトーンのゆったりした口調が非常に上品で心地よく、私は毎日でも会いたいくらいだけれど、マスターいわく

 「週に1回、2時間ほどとお決めになっているようですよ」

というレアキャラなのである

 理人も今まではそんな常連の中の1人だった




 「BAR ほまれ」はマスターの名前がそのまま看板になっていて分かりやすい
 落ち着いたライティングでモダンジャズの流れる空間は居心地が良く
店で迎えてくれるマスターが素敵な人だから、彼に会いに通っているファンも多いと思う
 
 そんな私も店のオープン以来マスターのお酒を目当てに通っている
多いときは連日寄ってしまうこともある、お酒が大好きなのだ

 マスターは私の一回りも上の大人の男性だ
カウンターの中で仕事をする姿は素敵だし、どんなお客様を相手にしていても「マスター」として接すると決めているようで
 プライベートはなかなか見せてくれない、というガードの堅さが逆に女性の興味を集めているのかもしれない

 そう、このマスター、独身なのである……
 
 そんなことを堂々と公言しているもんだから、ワンチャンある!と思っちゃうよね~女性陣は…
 
 
 だけど私は知っている、実はマスターがバツイチだということを…!

 
 かいつまんで説明すると
 
 マスターが20代の頃、人生をかけて支えたいと思う物書きの女性と出会った
 結婚し、彼女が仕事だけに集中できる環境を作った
しばらくすると徐々に仕事が回り始め、業界で名前も知られるようになりマスターは妻を誇りに思っていた

 ところが、あるとき妻はスランプに見舞われる
それはマスターも家の中で様子を見ていて大変だったそうだ
 
 そのうち彼女は「自分は満たされ過ぎていて書きたい物が書けないから別れてくれ」と言い出した
 散々考えた結果、彼女の一番やりたいことを守りたかったマスターは離婚という結末を迎える

 …という悲しいお話だ

 
 「私も相手を嫌いになって別れたわけじゃないので、しばらくはしんどかったんですよ~」

とマスターは穏やかな表情で話した

 「でも、彼女またすぐに結婚しちゃって…」

 「……え?」

支えてもらった男性に別れを告げて別の男性と結婚って…逞しすぎないか…

 「もう10年も前の話ですから…内緒ですからね?」

と私に聞かせてくれたマスターは笑顔を見せた


 そして
 
 「ちなみにあの人なんですけどね…元妻…」

と、指さす方を見ると
この店の常連さんでよく見る女性だった
 
 今は現在のご主人と幸せに生活しており、活動も順調そうだというマスター
 確かにマスターと同年代くらいで、どこかマスターと親密げな空気じゃない?とは思っていたけどそういうね~
 
 彼女はなぜ元夫の店に通うのか…
 なんとなくだが、自分を分かってくれている人間だから話しやすいというか、離れたからこそ近い人には出来ない話もマスターには出来る、ってところもあるんじゃないかな


 いやいや!それよりも!!
 マスターと別れなければ「書けない」と言った物は結局書けたんですか?というところが聞きたい、これは知った以上聞く権利があると思います

 「……書けたと思いますよ」

マスターは具体的には教えてくれなかったが、その「書いたもの」を知っている様子だった

 「それなら…良かった…」

本当にそう思った
 これでなにも残っていなかったら、マスターが身を引いた意味がなくなってしまうと思った…

 
 
 だけどマスターはそれからずっと一人で居るのかな?
 
自分がそこまで想える人にそう簡単に巡り合えるわけじゃないというのは私の人生でも証明済みだけれど
 マスターには、この先を一緒に過ごせるパートナーが現れて欲しいと勝手に願っている
 まぁ彼なら「恋人は作らない」と宣言したところで女性には困らないだろうけど


 自分のすべてを捧げるほどの愛を知っている誉さん
 そんなマスターだから素敵なのかもしれない、と思った






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